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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT098    『死に行く魂、芽吹く種……』




 ……家族のために働くか。理想的なパパと来ている。

 説得する材料は少なそうだな。ルオ商会は、このやさしいパパの願いぐらいなら、きっと叶えてやるだろう。オレや……オレが守るハズの何かを犠牲にすることで、彼は男が人生で成すべき大きな仕事をやってのけるというわけだ。

 そういうモノの犠牲になるのは、悪くはないんだが―――だが……オレが守らなきゃならない存在ってのにも、何か大きな役割があるのかもしれない。

 特殊部隊に与えられた任務だからな……それが、たとえルオ商会の野心だか、連邦軍内の派閥争いが絡んでいたからといって―――価値がない任務だとも、思えない。

「……アンタも引けないってことだな」

 全方位モニターに映る、ビーム・サーベルを構えたジェスタを睨む。夕焼けが終わろうとしている。東の空は青と黒が混ざった色をしていた。

 宇宙みたいな色合いだ。そのダークブルーに融けるような、黒い剣士がゆっくりと近づいて来やがるぜ。

「……いい操縦テクニックじゃないか。その機体……いや、その機体と、アンタの2番機は……どこか違うようだな。オレたちのジェスタとも、オレの仲間たちが仕留めたみせた、アンタの同僚の機体とも……」

『……そうだ。この機体には、サイコミュの一種が搭載されている』

「サイコミュ……研究は、凍結されているんじゃないのか?」

『敵が……ネオ・ジオンや『袖付き』どもが秘密裏に開発を続けているのだ。我々も、その力をある程度は求めておく必要がある』

「……ヒトの心を、反映する機械……ニュータイプなのか?」

『ちがうな。サイコミュ側の進歩だ。長年の研究と、秘密裏に処されてきた犠牲者たちのおかげで、地球連邦軍のサイコミュ技術も進歩しているのだ。ヒトの脳や中枢神経を消耗させはするが……精神崩壊まではしない』

「……どうだかな。それを信じられるのか?」

『いいや……だから、私は2号機には、この装置を搭載して欲しくはなかったし……それを拒否したつもりだったが……搭載されていたようだ』

「おいおい、勝手に搭載していたってのか?」

『……彼女には、私と違って才能がある。ニュータイプとしての才能がな。強化人間と組まされる任務も、我々が与えられたのは……私のような一般の人間が、サイコミュにどれだけ対応することが可能なのかという比較実験のためだけじゃなかったようだ』

「……アンタのところの2番機のパイロットの覚醒を促していた?」

『そうかもしれない。薬物に依存せず。邪悪な手術など執り行わず……それでも、アムロ・レイの模造品を作れるのであれば……ヒトの『成長』を企画できるようになるのであれば……それは、間違いでもあるまい』

「パイロットの同意無しに、精神を汚染するかもしれない装置を使う。それについて、オレは否定的な見解しか口から出せないぞ」

『……そうだな。私も……今、少し……苛立ちを覚えてはいる。だが……彼女は楽しんでいるようだ。植え付けられた才能ではない。サイコミュが呼び水となり、お前の2番機という最高の獲物によって、能力が開花しているのだろう』

「良い風に言いすぎていないか?……彼女は、若いんだろう?……人生に、影響が出るかもしれない装置からは、遠ざけてやるべきだ」

『……彼女自身も、サイコミュからは遠ざかりたがっていたよ……』

「……なのに、いつの間にやら仕込まれていたというのか。クソ!……地球連邦軍ってのは、信用に値しない側面を持っているよ、たしかにな……」

 舌打ちする。軍の規律には従順であったが……年を食うほどに、部下が増えるほどに、そいつらの命をモノ扱いしているように見える連中の存在に対して、嫌悪が深まっていく。

『軍が嫌いなら、やめればいい。地球にも宇宙にも、いいパイロットの就職口はいくらでもある。軍よりもいい給料をもらえるはずだぞ』

「……やめれないんだよ」

『どうしてだ?』

「……オレみたいな、まともな大人が……ちゃんとしたパイロットが、どんどん抜けていくと……この組織は、本当に暴走してしましそうだからな」

『……後輩たちを、守るというのかね』

「そういうことだ。アンタが……『家族』を守りたいように。オレも……オレは、戦友たちを守りたい。そのために、オレはきっと……あの虹に命を助けられた」

『……アクシズ・ショックの体験者か』

「……アンタもか?……腕のいい連邦のパイロットは、あそこにいただろ」

『そうだな。私も、あの日、虹を見たよ。不思議な光景だったが……アレほどの奇跡を見たとしても、ヒトは変わらない』

「……まあな」

『私は、世界には絶望している。だが、子供たちの未来には、希望を抱いているんだ。だから……気に食わない任務だとしても。長らく、同じ旗の下で戦って来た、顔も知らない戦友だとしても……倒すことに、躊躇いを抱かない』

「……そうか。来るがいい。オレも、手加減なしだぜ、同胞よ……オレは自分が生かされた意味を見つけて、成し遂げるまでは……死ねないからな」


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