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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
目次

ACT067    『オーストラリアの復興』




 モビルスーツ専用のトレーラーに乗せられて、オーストラリアの荒野をひた走る。

 ジュナ・バシュタ少尉は、その移動時間のあいだもナラティブガンダムのなかでもシミュレーションを行い、エンジニアたちからの座学講義を受け続けていた。

「……Gを感じないから、物足りないな」

『かなりの上達ですね、少尉』

「まあ、それなりにはね。私だって、中の上のパイロットよ?……パイロットってのは、いかに早く物事を覚えられるかが仕事でね……私は、器用な方じゃある。これといって、特技が少ないのが弱点だけどさ」

 その言葉に、エンジニアは熟考している。というか、納得しているのだろう。ジュナ・バシュタ少尉はそう考えていた。

『……今回の任務は、『不死鳥狩り』のための肩慣らしということです。経験値を稼ぎ、実戦に慣れて頂くこと。それが目的ってことですね』

「わかってる。ミシェルも、私を心配しているようだな」

『愛されているんですよ』

「……恐いハナシをするな。アイツもレズビアンの気があるんだぞ?」

『……いや。聞いたウワサじゃ、気があるも何もなお方だってハナシですけど?』

「どこのソースよ?ブリック・テクラート?」

『テクラートさんは、雇用主の性癖まで言わないでしょうよ。ただの噂ですが、週一で処女を抱くのが八卦のコツだとか?』

「……マジかよ。それなら私も占い師になりたいわ」

『少尉も本当にレズビアンなんですね』

「ああ。5才の時に、自覚したぞ。私は、女の子が大好きだと」

『……お早い性の目覚めですな……まあ、そんなことはさておき』

 私の性癖が『そんなこと扱い』か。軍隊あたりだと、私の『女性遍歴』とか、鉄板ネタなんだけど。ルオ商会のエンジニアって、あんまり下品じゃないのよね……。

「……はあ。しかし……荒涼とした大地が、どこまでも広がっているわね。我が故郷の国ながら……」

『シドニーへのコロニー落としの影響で、放射性物質やら汚染度の高い化学物質が大陸中に降り注いでいます。あまりに広大すぎて、除染は不可能。生態系へのダメージは言うまでもなく深刻で、衝撃で吹き飛んだ土が、汚染物質を覆ったりしてもいます。どこに猛毒があるか分からない……健全な自然環境とは、とてもじゃないけれど、言えませんよね』

「……エンジニアさんに分析されると、悲しくなるわね。私の故郷、ボロクソだわ」

『すみません。気を悪くさせてしまいましたかね?』

「……事実だから。受け入れいれるわよ……ニュージーランド沖も、汚染はヒドい」

『シドニーに対するコロニー落としの影響は、海流に乗って広がっているでしょうからね。お隣の国とは、すぐそこですし……一年戦争後に、復興を重視しすぎるあまりに、連邦政府は建築法を2世紀前の基準に戻しましたからね。元々、化学物質のゴミで一杯だった地球に、戦闘での核廃棄物と、急速な復興政策による環境破壊。ダメージは重なっています』

「シャア・アズナブルは、クワトロ・バジーナに化けている頃に、この惨状を調べて回ったのかしらね?」

『その結果、地球から人類を遠ざけようとした。環境保護者の鑑でしょうかね?』

「環境テロリストってイメージの行動かもしれないけど」

『彼の評価を様々ですよ。アクシズ落下は、コロニー側が政治・経済の主導権を得るためだったという研究者もいますが―――死人に口無しってことですね』

「……そうね。でも、これだけ荒れている故郷を見てしまうと……人類の存在が罪深く思えるわ」

『オーストラリアの復興は、300年はかかると言われています。ときおり再燃する戦争のせいで、復興政策に集中する期間が取れなかった。初期調査も行われなかったため、汚染の度合いを精確に評価する方法は、かなり難しいです』

「……300年ね。それも、戦争が起きたら、もっと伸びてしまうのね……」

『途方もない年月ですし。また、何か汚染源が降り注げば……そろそろ地球の環境も、終わりを迎えるかもしれません。白血病やガンでの死亡者数は、年々増加傾向ですからね。富める者はともかく、貧しい者は……虫けらのように路傍で死んでいます』

「そういう光景も見たのかしらね。人間の業深さとかを。汚染に苦しみながら生きているヤツもいれば……兵器を売りつけて、戦争を『演出』しながら儲けている武器商人たちもいるんだから」

『我が社は、日用品も多く取り扱っていますよ?』

「……アナハイム・エレクトロニクスのことよ。このナラティブを作ってくれたメーカーだけど……『袖付き』にまでモビルスーツを提供していたなんて、サイアク」

『……ああ。あのニュースですか。次から次に、出て来てますね。アナハイム・エレクトロニクスの悪口』

「何よ、あいつらの肩を持つの?」

『別に、そうじゃないですけどね。何というか、情報の出方が恣意的っていうか』

「恣意的?……マーサ・ビスト・カーバインの悪行がバレているのも、情報操作ってことかしら?」

『可能性はあると思いますよ。アナハイムが部品か、何なら完成品を提供しなければ、ハイスペックなモビルスーツを、軍隊規模で揃えることなんて、不可能です。前々から、分かっていたことですよ』

「……私は知らなかった。バカだから」

『戦争も無くなれば、モビルスーツの製造業者は困りますからね……この二十年ぐらいの経済は、軍需が回して来ましたから……マーサ・ビスト・カーバインの失脚は、ある意味では象徴的な経済の転換点となるかもしれません』

「……戦争が無くなるっていいたいの?」

『ええ。かなり減ると思いますよ。少なくとも、大規模な戦闘は』

「……そーかな。私は、ヒトって、懲りないと思うわ」

『……少尉みたいなニュータイプに言われると、不安になりますよ』

「私はニュータイプじゃないから、どんな予言しても気にしないことね」

『はあ、『軌跡の子供たち』なんでしょう?……気にしますよ、貴方の予言なら』

「……いいじゃない。好きなモビルスーツいじりが、ずっと出来るわよ?」

『それはそうなんですけどね。この放射性物質まみれのオーストラリアを見ていると、罪深さを覚えるんですよ』


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