ネット喫茶.com

オリジナル小説や二次創作、エッセイ等、自由に投稿できるサイトです。

メニュー

ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
目次

ACT068    『宇宙を目指すモノたち』




 ……『袖付き』との商売は、美味しいモノだった。こちらの身分を隠せば、ヤツらは出所の怪しい品でも、すぐに受け取ってくれた。

 しかも、証拠が残らぬように、現金あるいは現物と交換。宇宙空間に大量のヘリウム3を所有することだって、出来たんだ。

 連邦軍の安月給をしているよりも、彼らとの密輸を実行した方が、何十倍も儲かる。一攫千金の夢が目の前にあれば、誰だって、それをするに決まっている。

「オレたちは、チャンスに反応しただけなんだが……バレちまうとはなぁ」

 陸戦特化型のジェガンの操縦席で、元・連邦軍人は愚痴をこぼす。自分たちの『商売』は、上手く行っていたハズだった。『袖付き』の部隊に、軍用品を横流しする。

 訓練でバカしていたら壊れちまったとか、45本あるライフル砲の砲身を、数え直したら42本しか見つからなかったことにするとか―――新品の電子パーツを、旧式パーツと交換しておくとか。

 そんな地道な仕事をコツコツと行うことで、発生していった備品たちを、『袖付き』が作っていたダミー会社に持ち込んで、オレたちは宇宙に資産を保有することにしていた。

 その結果、150万人が、3ヶ月はエネルギーに困らないほどのヘリウム3を、オレたちは獲得したハズだったんだがな……。

「悪いコトは、するもんじゃねえなあ……っ」

『何を今さら、言っているんすかー、大尉?生まれ持ってクソ野郎でしょう?』

『そうっすよ。大尉らしくもない。自分の産まれを否定するなんてネガティブ過ぎっすよ』

 こいつらはオレをどんな悪人だと思っているのだろうか。大尉は考えた。だが、自分のことを傷つけることになりそうなので、思考を放棄することにしたよ。

「……今後に活かしたい言葉ってものを、つぶやいているのさ。オーストラリアの景色を見ていたら、そんな気が起きちまうんだ!」

『懲りちまったんすかねー、あんな美味しい仕事を?』

『宇宙行ったら、またやるって言ってませんでした?』

「まあなあ。でも、色々と考えちまう。この罪深い大陸を見ているとなぁ。宇宙に上がって、ヘリウム3を回収することが出来たら……オレ、火星にでも行くよ。あっちの居住地は、開拓用モビルスーツ乗りを募集しているみたいだしな」

『マジですかー?』

『向いていないっすよ。大尉みたいなヒトが、コツコツとした仕事とか……』

「オレはマジメだよ。そもそも、コツコツと作業していたじゃないか?事務仕事までしたりして、帳簿を操作したんだぞ?」

『ハハハ。それは、そうですけどねー……』

『ボクら、これからどうなるんすかねえ……ホントにオーストラリアに、宇宙への道なんてものがあるんですか?』

「あるはずだぜ。仲の良い情報屋が言っていたんだ。オーストラリアの復興政策の目玉として、打ち上げ用のシャトル基地を、ここいらでコッソリと作ってるんだってよ」

『んー?』

『……何故、目玉の政策が未公開なんです?』

「バカかテメー。反対派が多いからに決まってんだろ。地元住民には、宇宙と関わるモノは、何だって悪だっていう考えのヤツも多い」

『あー。コロニー落としなんて、喰らっちまえばー』

『そうなりもしますよね?』

「そういうことだ。そういう反対派の政治的な結束は強い。そんなとき。政府と、政府と仲のいい業者がすべきことなんて、決まっているな」

『バレる前に作っちまえってことですか?』

「ああ。議会の許可を拡大解釈して、市民たちに気づかれる前に作る。案ずるより産むが易しと思っているんだろうよ。環境派は結束は強いが、選挙には弱い。正論よりも、皆、金だ。有権者ってのは、大人なんだから、正しさよりも利益を提供してくれる方になびく。シャトル基地が出来たら、そこにつく助成金に、大人は皆で媚びへつらうんだからよ!」

『なんか、大尉の発想って、歪んでいますよねー』

『大人過ぎるっていうかさ』

「知らねえよ。オレはいい年こいたオッサンだもんな!……ともかく、オレの情報を信じろって。そうじゃなきゃ、すぐに追撃部隊を出されて、オレたちなんか、死んじまうよ」

『大尉は生き残りそうって、思ってるんすよねー、オレ』

『なんか、オレたちだけが死にそう。大尉、モビルスーツの操縦、アホみたいに上手いわけだしさ。大尉が全部、悪いのに』

「おい、ちょっとまてよ。なんていうか、全部じゃないぞ?……一連のことの、黒幕なだけだ。そもそも、お前たちも軽いノリでついて来ただろうが?」

『大尉を信じたんですよ』

『信じて損しましたー』

「うるせえよ。ノリノリで犯罪に荷担していたくせによ」

『大尉が、皆やってることだって言いましたー』

『そうだよ。戦中戦後じゃ、こんなちょろまかしぐらい日常茶飯事だって言ったぜ』

「……騙される方が悪いんだよ」

『あ!!言いやがった!!言っちまいやがったー!!』

『今、ついに本音を口にしたよ、この人!!』

「うるせえ。バカ双子ども!!……今さら、文句言ってもしょうがないだろ?……オレたちは、希望のシャトルを奪い取って、宇宙に夜逃げして、ヘリウム3をたんまりとゲットするしか、もう道が無いんだ!!」

『宇宙に夜逃げ……はあ、なさけないー』

『そんなマンガみたいなマネ、実際にすることになるなんて?』

「……人生には、ユーモアがあった方がいいだろうがよ?」

『笑えないレベルだとー』

『ユーモアにもならんすよ』

「……苦労はヒトを磨くよ、若人。ピッカピカに育ちやがれ…………ん。おい、止まれ!!」

 大尉は陸戦型ジェガンを急停止させる。部下の二人のジェガンも、同じように停止する。

『なんすかー?』

『追撃部隊っすか?』

「……いいや。お前たち、パイロットは目と注意力って、いつも言ってるだろ?……地面を見ろよ」

『地面?』

『ん。足跡……?』

「……ああ。クソ、情報屋め。オレたち意外にも、あのネタ売ってやがったな」


目次

※会員登録するとコメントが書き込める様になります。