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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
目次

ACT051    『英雄殺し』




 ジュナはナラティブガンダムでラー・カイラムへと急接近していく。『味方』であるネオ・ジオン軍に対して、連携を要請していた。ラー・カイラムの進路を妨害せよ。ナラティブで、仕留めてみせる。

 彼女の命令に、ネオ・ジオンの闘士たちは応じてくれる。ジオン系のモビルスーツたちがジュナのために動いていた。パイロットは、モビルスーツからの動きからでも、意志を感じ取れることが出来る。

 この高度に再現されている仮想空間でも、ヘリウム3を反応させながら飛び交う『戦友』たちからは、強い意志を感じるのだ。

 ―――ネオ・ジオンのパイロットたちは、本気でシャア・アズナブルの思想を信じていたんだわ。地球にアクシズを落として、核の冬に陥れたら……人類は目覚めると。地球に縛られることはなくなり、魂は……宇宙を目指す。

 ようやく、地球人たちもスペースノイドへと『進化』をして、ヒトは一つになれるのだ。そんな風に信じている。

 その『正義』のためならば、彼らは死ぬことを恐れてはいない。数で不利な戦闘であろうとも、無謀なまでの勇敢さで敵に挑んでいく……見ていて、涙があふれてしまう。

 サイコスーツが、電子的に記録されていたパイロットたちの想いを、その軌跡から酌み取ってくれているようだ。

 サイコフレームは……感情を集める装置なのかもしれない。そして、そのための受信装置として、パイロットを使うこともあるのかも……っ。

 ……シミュレーターごときでも、こんな感情に陥ってしまうというのなら。

 サイコフレームを多用していた、νガンダムは……しかも、ニュータイプであるアムロ・レイは、どれほどの感情をその身に受け止めていたというのだろうか……?

 星を動かすほどの、ヒトの想い。壊れた命が放つ、ヒトの強い感応波……願いとか、祈りとか、そういのを……サイコフレームは受け入れる?

 ニュータイプを、媒介にすることで、その反応を促進して……力へと変貌させているのかもしれない。

 ……気持ち悪い兵器だわ。どうして、こんな得体の知れないモノが発明されているのだろう?……ヒトの祈りを力に変えるマシーン?

 ……そんなのって、存在していていいのかしらね……。

 ……いや、知ったことじゃない。私は、とにかく、リタ・ベルナルに逢うための翼を作らなければならない!!

「行くぞ、ナラティブ!!……ジオンのモビルスーツどもが、νガンダムを押さえてくれているうちに……仕留めてしまうわよ!!」

 νガンダムの反応を感じる。ミノフスキー粒子に遮断されて、機械がくれる情報は無いけれど。

 圧を感じる。ラー・カイラムに接近する私の軌道から、アムロ・レイは私の攻撃を読んでしまっているのよ。ナラティブの装備なら、いくらでもラー・カイラムを撃沈することは出来るもの。

 モビルスーツ開発も主導することが出来るアムロ・レイなら、こちらの兵装の威力を完全に把握してしまえるでしょうよ―――だから、接近して来ている。

 邪魔しようとするジオンのモビルスーツを、ビームと凶悪なファンネルというビット兵器で次から次に壊しながら。

 サイコフレームが増強して、拡張してくれている、私の感覚が……ニュータイプもどきとなった私の感覚が、アムロ・レイとνガンダムの接近を感じて、ざわつき、恐怖しているんだ。

 ジオンのパイロットの死を、背中に感じる。肉体ごと魂を壊されて、νガンダムに喰われていく。νガンダムのサイコフレームも、死を……魂を吸い取ることを楽しんでいるみたいだ……っ。

 おそらく、アムロ・レイは気づけない。ガサツな男の感性じゃ、自分が心血を注いだ兵器が持っている、凶悪な面を、認めることなんて出来やしないんだから!!

 ジュナは自分の精神が不安定になっているのだろうと考える。研がれた感覚に妄想のエピソードがまとわりついているような気持ちになる……被害妄想的になっているのかもしれない。

 これだけの悪魔的な力を有していながら、ティターンズを野放しにして、私たち三人の人生をメチャクチャにしたアムロ・レイのことに、八つ当たりしているのかも?……身勝手な女だわ―――でも、この情けなさも、糧にする。

 アムロ・レイ。私たちを助けてくれなかったんだから……せめて、このシミュレーションの幻影のなかでは、私に喰われて、私の力になりなさいよ!!

 それに。

 それに、ネオ・ジオンども!!腑抜けているなじゃないわよ!!もっと、ちゃんと時間を稼ぎなさい。

 30秒で、一機ずつνガンダムに撃墜されているなんて……そんなことじゃ、人類全てを変えることなんて、出来やしないわよ!!

「……おい!!シャア・アズナブル!!アンタのライバルなんでしょうが、あのバケモノは!!……だから、アンタが止めなさいよ!!」

 シミュレーターに叫んだところでムダだろうが、アムロ・レイに追いかけられるというプレッシャーに押し負けて、ジュナ・バシュタ少尉は無意味なわめきを放っていた。

 強烈なGを浴びながらの、その叫びは彼女の体に大きな負担となってしまうのであるが、それでも彼女は叫ばずにはいられない。

 それほどに、アムロ・レイに追いかけられるという状況は、ヒトの心を怯えさせてしまうのである。

 『敵機接近』。その表示がサイコスーツのヘルメット内のディスプレイに……HUDに表示される。リ・ガズィ―――Zガンダムの量産型……アムロ・レイも、搭乗していた機体……ッ!!

 ジュナの心は、その情報だけでパニック寸前になりそうだった。

 だが、次の瞬間、プライドが燃え上がる。リ・ガズィに……アムロ・レイの影に、そこまで怯えてどうするんだ!!アムロ・レイは、私の背後にいる……ッ。

「―――お前は、アムロ・レイなんかじゃないんだッ!!私を、私を、怯えさせるな、雑魚のくせにいいいいいいいッッッ!!!」

 リ・ガズィ目掛けてミサイルを乱射する。リ・ガズィは良い動きを見せる。ナラティブよりも機体性能は良いのだろう。

 その上、投影されているパイロットの情報も悪くはないようだ。踊るようにミサイルを躱し、そのあげく、こちらにビーム・ライフルを一発だけ放ってくる。

 サイコスーツを頼り、急減速と旋回による回避運動を高機動装備のナラティブガンダムに実現させる。Gの鉄槌に脇腹を殴られるような痛みが走るが、問題はない。

 ビームを回避し、接近している。リ・ガズィは避けられない。逃げられないのよ、アンタの守りたいヒトは……その背後のラー・カイラムに乗っているんでしょうからね!!

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」

 ジュナ・バシュタが宇宙に叫び、サイコフレームは真紅の輝きと共に、追加装備である巨大な腕を動かしながら、大型のビーム・サーベルでリ・ガズィを真っ二つに両断した。

 モビルスーツが水素爆発の放つピンク色の光に彩られた爆炎を放つ。

 女を殺した。ジュナはそう感覚する。たぶん、今のパイロットのデータは、女だった。そいつを殺して、私は少し強くなった。

 ……最大の盾を失ったラー・カイラムに接近する。メガ粒子砲を乱射して来るが、高機動型装備のナラティブの旋回運動に、あちらの砲撃アルゴリズムはついて来られない。隙だらけだ。

「ハイメガキャノンで、沈みなさいッッッ!!!ラー・カイラムッ!!」

 殺気を……いや、殺意を叫ぶ。

 自分たちがティターンズに弄くられていた時、助けてくれなかったクソッタレの英雄に、怒りを込めて!!

 ……死ねばいい、ブライト・ノア!!

 その殺意のままに放たれた巨大なビームの奔流が、ラー・カイラムの中央を撃ち貫いていた。


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