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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
目次

ACT052    『空しい報復』




「あはははは!!あははははは!!……ざまあ見ろ!!……勝ってやったぞ、νガンダムに、私たちよりも性能のいい、アムロ・レイと、νガンダムのタッグにな……出来損ないの、私や、お前で勝てたよ、ナラティブ……っ!!」

 爆散するラー・カイラムの放つ水素のピンクの光。それを見ながら、ジュナ・バシュタ少尉は戦闘意欲に支配される強化人間のような形相で嗤っていた。

 その姿をモニターしていたエンジニアは、彼女の精神が汚染されたのではないかと心配になったが……バイタルと脳波もすぐさまに落ち着きを取り戻していく。

 少なくとも、数値上は、まだ彼女は壊れていない。いや、それどころか……通常時よりも落ち着いている。理性的な脳内電流が保たれているらしい。

 エンジニアには、医学スタッフよりも、その数値が示す意味を理解することは難しかった。

 しかし、何となく予想することも出来た。

『……やっぱり、ブライト・ノアが嫌いなんじゃないですか、ジュナ・バシュタ少尉』

「……チクるなよ。私は、英雄扱いされているヤツのほとんどが、大嫌いなんだ。オーガスタみたいな場所を、ずっと見て見ぬフリしていただけの軍人なんてね……」

『ニュータイプを、恨んでいるのですか?』

「恨んでいたら、ダメか?」

『……いいえ。ヒトが、何を好きになろうとも、何を嫌おうとも……それだけは自由なことなのだろうって、個人的には考えていますよ。一般論としては、英雄にケンカ売ることは……負担の大きな生き方だとは思いますけれどね……』

 どこか無責任で、参考にしにくい答えだな。ジュナはエンジニアの言葉にそう判断をつけていた。

 翡翠色の双眸で、宇宙空間の闇に消え去っていくラー・カイラムと、ブライト・ノアを見ようとする。

 しかし……その光景を見ても、サイコフレームは……サイコスーツは、魂を吸い取らない様子だった。現実じゃないと、私もサイコフレームも認識しているからだ。

 ラー・カイラムもブライト・ノアも、この第二次ネオ・ジオン抗争を生き抜いていることは、周知の事実。

 だから、ヤツらが死んだと、認識することはないのだろう。でも、さっきのリ・ガズィは違っていたな―――。

「―――なあ。リ・ガズィのパイロット・データはさ、女だろ……?」

『え?……ちょっと待って下さい。調べます…………ああ、そうですね。ラー・カイラム付きの、女性パイロットだったみたいですね。故人です。あの戦いで死んだみたいです』

「……だろうな」

『どうして、女性だって分かったんですかね……?』

「私がレズビアンだからじゃないかな。あいつ……恋人がラー・カイラムにいたんだよ。動きで分かった。ラー・カイラムを守ろうとしていた。自分の命よりもな……そういう一途なのって、男じゃ出来ないだろ?」

『……男にも一途なヤツっていますけどねえ』

「どうかな。私は女だから、男の気持ちは分かってはやれないところがあるからなぁ……男のお前がそう言うのなら、そうなのかもしれん……」

『そうですよ。男だって、一途に恋人のことを思うことだって、ありはしますよ』

 エンジニアは愛妻家なのかもしれない。それは、いいことだろう。愛し合っても、戦火に引き裂かれちまう恋人たちは、歴史上あちこちにいたわけだから。

 心が落ち着きを取り戻していくのが、ジュナ・バシュタには分かる。

 サイコスーツは発熱をしているが……ラー・カイラムを襲った時に比べれば、ずっと大人しい。この子も、パイロットの心を汲んでくれる装備ではある。

 サイコフレームは、どこか不気味なところもあるけれど―――何か、大きな可能性を秘めた発明だってことは確かよね。

 ……良いようにヒトが活用することが出来たらだけど。兵器として作られた存在は、そういう変遷を辿ることが出来るのかしらね……。

 ジュナ・バシュタ少尉は戦闘宙域からの離脱を試みる。ラー・カイラムへの突撃は、無傷では済まなかった。

 一撃で確実に仕留めるために、あの艦に対して近づき過ぎたところはある。機関砲の弾を、追加装甲に何十発かもらっているのだ。

 褒められた戦い方というわけではない。むしろ、訓練生がこんなことをしたとすれば……教官は激しく怒鳴りつけるに決まっている。

 命を軽んじるような戦い方を、モビルスーツ・パイロットはすべきではないのである。

 しかし、アムロ・レイがνガンダムで追いかけて来ている時ならば、仕方がないと現場の指揮官は断じるだろう。

「……ともかく。これで、ネオ・ジオンの勝利になる。シミュレーターの上だけではあるがな。ロンド・ベルは旗艦と指揮艦を失った。戦闘能力も、士気もガタ落ちだ」

『アクシズへの破壊工作を行える部隊は、このラー・カイラムにしか残っていなかったというハナシですからね……もしも、ジュナ・バシュタ少尉が、あのとき……シャア・アズナブルの軍勢にいたら……高機動装備をしたナラティブガンダムに搭乗していたら。歴史は変わっていたでしょうね』

「……そうかもしれないわね。本当に、僅差だったのよ。私みたいな一パイロットと、当時にさえ存在することの出来たモビルスーツが介入するだけで、結末が変わってしまうほどに……」

『……アクシズが地球に落ちていたら……大勢が亡くなっていましたよ』

「そうね。シャア・アズナブルは、そのシナリオを体験したとき、正気でいられたのかしらね……?」

『……やるつもりだったんですよね?』

「コトをしでかしてから、その罪の重さに気がつくってことってさ。人生においては、そこそこあることじゃないかしら?」

『……ええ。そうですね……アクシズが地球に落ちて、本当に大勢が亡くなっていたら。シャア・アズナブルだって……耐えられなかったかもしれません。もしものハナシですから、意味のない予想じゃありますけどね……』

「うん。ホント、そうだわ……さてと」

『訓練を、終了しますか?……その装備の適性は、計測するまでもありませんね』

「合うわよね、この装備と私……だって、猛追してくるνガンダムから、逃げることも出来たし」

『少尉の実力と、その機体のスペックからでは、考えられないほどの戦果ですね』

「失礼なものの言い方ね」

『……すみません。少尉には、おそらくニュータイプとしての能力も有りますよ。それがこの結果を招いた』

「そう。じゃあ、続けざまに……ちょっと痛い目に遭って来るわ」

『どうするんですか?』

「アムロ・レイとガチンコでバトル。どれだけの怪物なのかを、体感しなくちゃね」


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