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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
目次

ACT050    『ラー・カイラム出現』




『―――ステータスを変更します。ナラティブガンダムをネオ・ジオン側は戦力としてマークします。これからはサバイバルじゃありません。ネオ・ジオン側のモビルスーツとも連携して作戦を実行して下さい。ターゲットは、ロンド・ベル旗艦……ラー・カイラム!』

「……フフフ!地球連邦軍の少尉としては、罪深い遊びじゃあるあわよね!!……今から私は、地球の敵だッ!!」

『なんだか、ノリノリじゃありませんか、ジュナ・バシュタ少尉?……なんだか、サイコスーツの数値が活性化しちゃってますけれど……?』

「憲兵隊にはチクらないでよね」

『チクりませんよ。我々は、ルオ商会の一員であって、軍とも政府とも関わりのない、善良な一般人なんですからね?』

「善良な一般人ね……」

 一般人ではあるのかもしれないけれど。果たして善良なのかどうかは、はなはだ疑問が残るというか?

 どういう圧力をかけているのか、地球連邦軍の極秘モビルスーツ実験施設に一民間企業が乗り込んで来て、その設備を自由に使っている。

 まして、宇宙からガンダリウム合金製のナラティブガンダムを、パーツに分解して持ち込んだ?

 ……ガンダムを組み立てる行為自体、地球とスペースノイドのあいだに緊張を高めかねないことだっていうのにね……?

 そういうことしちゃう連中までを『善良な一市民』だと認定しはじめたら、刑務所にいるようなヤツらってのは、どんな種類の人間になってしまうのだろうか。『善良な一市民』って言葉については、もっと厳格な運用を義務づけるべきに感じてならなかった。

『破滅願望とか出てません?そういうのって、サイコミュからのフィードバック作用かもしれませんから、ちゃんと報告して下さい。後で、医療班との面談もセッティングしておきましょうか……?』

「まったくもう。いちいち気にしすぎよ?……いいじゃない。そんなノリでもないとさ?だって、これから私は、連邦軍史上最強のモビルスーツ・パイロットにケンカを売るのよ?……アクシズの半分を、吹き飛ばすような能力を発揮したムチャクチャな怪物を相手にね」

『……楽しまないと、やっていられないってことなんですかね……?』

「そういうことにしておいてよ」

『……分かりました。でも、脳波とバイタルに異常が感じられたら、すぐにシミュレーションを停止します。戦闘に高揚しすぎて、サイコミュ装置に心を呑まれるかもしれませんからね』

「そういう危険ってのは、サイコミュ系の装備には当然のつきものでしょうに」

『だからこそ言っているんですよ』

「まあ、あなたの立場からすれば、そうなんでしょうね。安心して、問題は感じてないし、変に思ったら中止させてもらうから」

『徹底してくださいね、そのポリシー。では……いいですね。目標物を反映します。前方230キロ。そこにラー・カイラムが出現しています』

 ジュナ・バシュタ少尉はモニターを睨みつける。サイコスーツが殺気に満ちたような赤い光を放つ。

 彼女はスーツの反応を気に入った。私の感応波を呑み込んでいるのね?……よく反応してくれているじゃないの。

 狩人の目つきになった赤毛のパイロットは、その翡翠色の双眸に獲物を映し出す。

 そこにいるのは、ラー・カイラム。ロンド・ベルの旗艦。兵装はメガ粒子砲にミサイルに、対空銃座が上下左右に計22。485メートルもある、なかなかの大物だ。

「……『敵』として対峙すると、なかなかの威圧感を覚えるわね。私の恐怖や、アレに対するリスペクトを反映しているのか……?……そうだとしても、落としてみせるッ!!」

 サイコスーツが真紅に輝き、高機動装備のナラティブガンダムが彗星のように加速していく。

 ミノフスキー粒子のおかげで、あちらの照準もそう鋭いものじゃないもの。一撃離脱で、沈めてみせるわ……ハイメガキャノンなら、たとえラー・カイラムでも沈むわ。

 加速し、強烈なGを全身に浴びて行く……吐き気を催すほどの高いGだ。そうだというのに、ジュナの表情は闘志を剥き出しにしている。牙を剥く。自然な行為のように。

 その様子をモニターしていたエンジニアは、背筋に寒気を覚えていた。

 この攻撃性は、パイロットならではのモノなのだろうか?……『不死鳥狩り』に対する彼女のモチベーションや覚悟を反映した迫力か?……あるいは―――。

 ―――彼女には秘密にしろという、ミシェル・ルオの命令に従ってナラティブの操縦機構に搭載している、NTDのフィードバックではないのだろうか?

 ……ニュータイプ・デストロイヤー……高い感応波を出すターゲットに対し、搭乗者の精神を部品の一つにしてオートパイロット・モードとなるシステム。

 ……パイロットの人権を侵害しているような、しかし……一般のパイロットが、ニュータイプ・パイロットの戦闘を行い、勝利するには必要不可欠と考えられている、狂戦士化のシステム。

 それもまた当然のごとく、悪名高いサイコミュ装置のひとつであり、精神を操作する機械であって……パイロットの精神を徐々に蝕む能力を持っているものだ。

 サイコフレームは、ニュータイプと反応し過ぎてしまう傾向がある。エンジニアはそんな持論を持っていた。

 もしも、ジュナ・バシュタ少尉のニュータイプとしての能力が、徐々に開花しようとしているのなら、NTDの存在を感知し、彼女の精神はNTDからの情報を受け取ってしまい、それをトレースするのではないだろうか……?

 つまり、自ら強化人間のように、攻撃性を強化して、まるで狂戦士のように振る舞うようになる可能性は否定すべきじゃない。

 エンジニアは医療スタッフに連絡を入れておくことにする。

 ジュナの体調に急変があれば、問答無用に訓練は中止して……強制的にサイコスーツを脱がせて、スーツも彼女もクールダウンさせる。

 そのあいだに、医療スタッフと会議をして……場合であれば、NTDの感応波受信性能を、下げなければならない。

 今のままでは、もしかすると……封印状態のNTDにすら、少尉はアクセスしてしまうかもしれない。機械仕掛けの戦闘システムと、人体の中枢神経がリンクする。

 それは、強化人間の特徴であり……ニュータイプ的な能力の発現とも言えるのだ。

 ジュナ・バシュタ少尉は……おそらく、ニュータイプに近しい存在なのだろう。強化人間とニュータイプのあいだにあるような立場かも?

 エンジニアとしても、医療スタッフの意見に賛同しておきたくなっていた。彼女は、きっとニュータイプに迫れる存在なのだと。


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