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色のついた世界

原作: その他 (原作:抱かれたい男1位に脅されています。) 作者: こだま
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― 第三話 准太視点―

愛する人が尊敬できる人で。
いつも凛として綺麗で。
そんな貴方をもっともっと知りたくて。
隣にいる権利を
どんな手を使ってでも
守ってみせる。

「ひと昔前は、テレビや雑誌とかのメディアが指針だったから
事務所がごり押ししてるヤツが大した実力がなくても俳優名乗って人気出てたんだ!」

高人さんは、俳優という仕事が好きで。
いつも熱意のある話を聞かせてくれる。

「ただ今は、舞台を観る人も増えているし、演劇を身近に感じる機会も多い。本当に実力で評価されるようになった。だから気が抜けないんだよ。いいか、東谷くん」

俳優として接している時は「チュン太」だったり「東谷くん」だったりする。可愛い。

「はい、高人さん」
「今はメディアの評価に左右されない。だから悪い作品は悪いと評価される」
「俳優の実力がきちんと評価されるようになったんですね」
「そう! 今までなんて、演技の幅もない顔だけのやつが主役張ってでしゃばって、結局どの作品も同じような演技しかできやしない……」

以下略。

高人さんはお酒が弱いわけではないけど、どうやら俺が強すぎるみたいで
ある程度酒が進むと俳優談話。

でも、仕事の話を自信持って語る高人さんはかっこいい。

どうやら今までも色んな俳優の仕事を軽くみた人たちに苦労しているようで
社長が言ってた若手潰しは嘘ではないようだ。

「だけど、今は実力で評価されたからこそシビアなわけだ……
今までは良い味だしてた脇役中心の俳優が次々と主役をこなす作品も多い。
つまり、俳優の幅をどんどん広げないとあっという間に飽きられるんだ」

高人さんの視点は的確で冷静で
長いことこの芸能の世界で活躍してきたから
見えることなんだろう。

「だからな、チュン太。キラキラしてるだけじゃすぐ飽きられる。また違った一面を見せないと」
「キラキラしてますか? 俺が?」
「……まぁ、その辺は事務所がうまくやってくれればいいがな」

最終的に何か納得したらしく、手にしたビールを飲む。

「でも、俺はやらせてもらえるなら色んな役をやってみたいです」
「早めに悪役をもらえるといい」
「悪役ですか?」
「悪役こそが俳優の腕の見せ所だからな!」
「なるほど!」

高人さんはあんまり人と飲みに行ったりしないらしい。
行ってもそこそこですぐ帰ってしまうとか。
じゃないとこんな可愛い高人さんが
色んな人に見られてしまうのは耐えられない。

とろんとした目で、頬を赤らめて。

………やばい。むらむらしてきた。

「聞いてんのか、チュン太!」
「高人さん、結構飲んでますし、そろそろ帰りましょうか? 話の続きは帰ってからで」
「なにぃ!?」
「家に美味しいスパークリングワイン冷やしてあるんですよ」
「………ふん、しょうがないな」

捕獲完了。
好きな餌を見せて小動物を誘導しているようだ。

「高人さんは本当に俳優の仕事が好きなんですね」

これは常日頃から感じていることだ。
いつだって本気で仕事に向き合っている。

妥協など1ミリもしない。

仕事だって多く抱えて大変だろうに。
小さい作品でもちょっとした役でも
自分が納得するまで向き合い続ける。

「好きっていうか…俺にはこれしかないし、これしかできないんだよ」

子役から続けてきた演じること
自分の意思で始めたわけではないはずなのに。

「俺は高人さんに出会えて良かったです」

そう、心の底から思ってる。

「………恥ずかしいヤツ」

照れたように視線を反らして呟いた。

彼が表舞台の人で良かった。

そうでなければ、俺は多分、いやほぼ確実に高人さんを監禁して外と遮断しようとしただろう。

「さ、行きましょう。高人さん」

会計をすませて、自宅へ向かう。

「タクシーすぐ捕まるかな」
「チュン太」
「はい?」
「そう遠くないから歩いていこう」

意外な言葉に驚いた。

「いや、でも見つかったら大変ですし」
「車移動ばかりだと体がなまるんだよ。酔いざましにもちょうどいいだろう」

そう言うと勝手に歩き出す。

「バレて囲まれても知りませんよー」

けれど、少し嬉しい。
彼と並んで歩けるのは

「どうしたんですか、急に」

先を歩いていた高人さんに追い付いて顔を覗きこむ。

「別に。…気まぐれだ」

高人さん動物に例えると気高い猫だよなぁ、と心で呟く。

「……今日は星が見える」

空をあおぐとまばらに見える星の輝き。

「沖縄に行くと空一面に星が見えて、降ってくるような感覚になるらしいですよ」
「へぇ」
「離島ならあまり人の目も気にならないだろうし、今度一緒に行きましょうね」
「………」

無言は肯定の証。
顔を見ればわかる。

恥ずかしそうに、少し不機嫌そうに。

「まぁ、そんなスケジュール空くことはないけどな!」

そう言うとそっぽを向かれてしまった。

空から降ってくるような星空を
貴方と一緒に見れたらどんなに幸せだろう。

今まで星空が綺麗だとは思ったけど
こんなに心踊ることなんてなかった。

隣に貴方がいるからだ。

「高人さん。俺は貴方とこれからずっと一緒に色んな風景を見たいと思ってますよ」

「本当に日本人か、お前はっ!」

何故か益々怒らせてしまう。
なんでだろう? 素直な気持ちを伝えただけなのに。

「今までもそうやって色んなヤツ口説いてきたのか!?」
「いえ。今まで口説きたいと思ったのは人生で高人さんだけです」
「っ………!!!」

顔を真っ赤にして黙り込んでしまった。

黙々と夜の道を二人で歩く。
沈黙もなんだか心地いい。

高人さんは俺に今まで知らなかったことを教えてくれる。

俳優としての心構えもそうだし
人をこんなに愛することができるんだと。

もっと知りたい。もっと見ていたい。

貴方が隣にいると輝くから

最初は何の色も感じなかった俺が

どんどん周りの色に気づいていく。

俺が見る世界はこんなに彩り豊かになるんだと初めて知った。

貴方が俺の世界に色を与えてくれた。
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