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色のついた世界

原作: その他 (原作:抱かれたい男1位に脅されています。) 作者: こだま
目次

― 第二話 高人視点―

「……ぅ…ん……」

窓から差し込む光が眩しくて、徐々に意識が浮上する。
まだ寝ていたい。だるい。
なんでこんなにだるいんだ。
……そうだ。

「…チュン太め……」

不機嫌に低い声で隣を振り向いたが
そこにはいると思っていた人影がない。

「あれっ……」

眩しいくらいの笑顔でおはようございます、高人さんと声をかけられ
うざいくらい甘い手つきで頭を撫でるだろうと思った相手がいない。
ただ彼の香りがそこにあるだけだった。

「……なんだよ」

仕事か。なんだ俺より忙しいみたいで腹立つ。
起こしてくれればいいのに。
行ってらっしゃい、と見送るくらいしてやるのに。
そしたらこんなよくもわからない焦燥感はなくなるのに。

もぞもぞとベッドの中で体の向きを変えた。
また寝てやろうかとも考えたが、夕方から仕事のためそろそろ起きておきたい。

何よりも腹が減った。

「家にある甘いもの食いつくしてやろうか」

体力を消耗しているし、なんか腹立っているのでとにかく甘いものが食べたい。
ベッドから抜け出して、服を着てからリビングに向かう。

「……あの野郎」

リビングのテーブルにはご丁寧に「温めて食べてください」と書かれたメモと共にパンケーキが置いてある。
冷蔵庫を覗けば、一人用に盛り付けられたサラダとベリーソースの乗ったヨーグルト。

こういうことをそつなくこなすからこそ腹が立つのだが。

ドバドバとメイプルシロップをかけて、あえて行儀悪くナイフで切ることなく、そのままフォークでかぶりつく。

だるい身体に糖分が染み込むような感覚。

「……うまい。」

決してチュン太が作ったパンケーキが美味しいのではない。甘いものは総じて美味いものだ。

食べ終わる頃にはすっかり機嫌も直っていて
慣れたようにテレビを見ながらコーヒーを飲んでいた。

起きたとき隣にいないのは寂しい。
一緒に住むようになれば、こういう寂しさも感じられなくなるだろうか。

どんどん自分が弱くなっているような気がして
彼に依存してしまうんじゃないかと恐怖もある。

才能のある彼が、いつまで俺を純粋に憧れて目標にしてくれるのか
才能ではなく、理屈と努力の積み重ねで築いてきた自分はいつ彼にとって魅力的でなくなるのだろう。

だからこそこれまで以上に
慎重かつ的確に隙を見せず
輝かしい先輩として
彼の目に留まれるようにしないといけない。

失いたくないものがあると臆病になる。

「今日は夕方からだから…」

一旦自宅へ帰ってから、もう一度シャワーを浴びてマネージャーの迎えを待つか。

「…………。」




「あれ? 今日なんか東谷くんの匂いがする~」
「えっ!!!!?」
「シャンプー変えた?」

心臓が止まるかと思った。

「あっ……まぁ、そう。東谷くんのオススメのシャンプーにしてみた」
「珍しいね。人のすすめるもの取り入れるなんて」
「そりゃ、抱かれたい男一位様の意見なら」
「……まだ気にしてたんだ、それ」
「いや? ぜんっぜんっ気にしてないよ」

心臓はバクバクしていたけど、演者で良かった。きっとうまく誤魔化せたはず。

自宅へ帰ってからシャワーを浴びようとしたのに
なんだかんだと長居してしまい、着替えも置いてあったのでチュン太の家のシャワーを浴びてから自宅へ戻った。

特に他意はない。

「それにしても東谷くんとは本当に仲良いよね」
「勝手になつかれてるだけだよ」
「彼もかなりの才能の持ち主だし、これから楽しみだねぇ~」

そう、彼の才能は皆わかっている。
俺だって伊達にキャリア積んでいないから、簡単には今の立場は揺るがない。

しかし、彼はそれを脅かすほどの才能を持っている。

「俺もやっと良い若手が出てきてくれて、張り合いがあるよ」

これは本心だ。

役者は一人でやるわけではない。
作品は誰かが考えたもので、原作がある場合は原作者の考え方もあれば、脚本家の考え方もある。
それぞれが同じ捉え方をしているとは限らない。敢えて解釈を変えることもある。
捉え方や考え方を擦り合わせながら、行うのが役者の仕事だ。
どう求められているかを瞬時に理解しなければならない。

「東谷くんのことは目にかけてるよね」
「んー、まぁね……」

ある種の恐怖を感じるほどに。

今まで幾多の若手俳優の無駄な自信をねじ伏せてきたこの西條高人が年下にここまで感じるのは今までない。

「また俺とはタイプが違うからさ」
「あぁ…彼は勘が良い直感型だよね」

そういうタイプは器用になんでもこなす。
しかし、なんでも出来てしまうからこそ、極めたいと思わないことが多い。

今までもセンスが良いと思った役者がいても
本人が何となくで出来てしまうから、それ以上求めず、その何となくの地位で終わってしまう。

しかし、彼は
何故だか俺を目標にすると言い出し
ただでさえそのルックスと才能におののいているのに
どんどん俳優としてのスキルを積んでいる。

「抱かれたい男一位様は恐ろしいね」
「また、それ言うのね……」

マネージャーは苦笑いするけど、
俺と違う直感で演じる彼は正直羨ましい。

現実に忠実な綺麗な絵画も魅力的だが
人は何故か感情的なものの方が揺さぶられる。

彼は自然に感情そのものを出して演じることができる。

「東谷くん、色んなところで西條さんに相談に乗ってもらってるって言ってるらしいよ」
「押し掛けてる、の間違いだろ」
「ははっ、僕より優秀なマネージャーだもんね」

一緒にいる時間が長いから、俺は彼に役者の先輩として教えることができる。
子役から役者を続けているプライドがある。
簡単には追い付かせるわけにはいかない。
俺は完璧主義なんだ。

彼の目標とする先輩として、あり続けないといけない。

「単純に彼の役者としての成長は楽しみにしているよ」
「…最近、雰囲気変わったよね」
「えっ?」
「なんだか、前より穏やかな顔するようになったよ」
「そうかな……」
「ずっと西條高人を見てきた僕が言うんだよ? 間違っているわけがないよ」

今までの自分と変わりつつある感覚。

怖いと思う気持ちと
どうなるだろう、という好奇心

今までは感じたことなかった感覚。

確かに少しワクワクしている。

彼が与えてくれた感情だ。

俺は君に何か与えられているだろうか。

必要とされるように

俺はこれからもずっと何か君に
与え続けることができるだろうか。
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