ネット喫茶.com

オリジナル小説や二次創作、エッセイ等、自由に投稿できるサイトです。

メニュー

色のついた世界

原作: その他 (原作:抱かれたい男1位に脅されています。) 作者: こだま
目次

― 第四話 高人視点―

実力の世界だからこそ
努力すればするほど、結果が出た。

俺は今まで輝かしく華やかな舞台に立ち続けてきた。

演じれば、自分では経験できない世界へ行くことができる。
自分とは、別の色が見える。
自分とは、違う景色を感じられる。

正直、役者として生きていく上で
自分自身のことは二の次だった。

「高人さん、お疲れ様です。奇遇ですね、こんなところで会うなんて」
「チュン太……また拉致りに来たな」
「千円いります?」
「いらん!」

キラキラした笑顔で
背中にバサバサと羽根を携えているのが見える。
東谷准太。今売れっ子の役者だ。
いろんな意味で俺には恐ろしい存在。

「さ、行きましょ。高人さん」
「お前は本当どうやってスケジュールを回しているんだ…」
「もちろん。高人さん中心にですよ」

やめろ、そんなキラキラしながらそんなことを言うな。
お前が言うと怖いんだよ。

と内心思ったが、口に出したところで変わらないのはわかりきっているので黙っておいた。

俺のマネージャーも楽できて助かるだなんて言い出す始末。

「明日は高人さん昼からですよね?」
「だからなんで俺のスケジュールを把握している」
「いやだなぁ~あははははは」
「答えになってないっ!」

本気で今売れっ子の彼が
なんで俺のスケジュールを把握できて
そしてご丁寧にお迎えにまでやって来ることができるのか。

「高人さんに会うことが俺の機動力ですから」

と爽やかな笑顔で言って
普通の女性なら絆されてしまうだろうが
俺は知っている。
あいつの笑顔の裏に渦巻いている欲望の塊を。

「外でご飯食べてもいいんですが、このまま俺ん家でもいいですか?」
「そのまま普通に俺を帰らせてくれ」
「え? 高人さん家行っていいんですか?」
「お前は帰れよ」
「えー、嫌ですよー」

そんなやり取りもいつも通り。

いつも彼の家に行くと色々なもてなしをされ
美味しい料理と美味しいお酒を飲みながら
色んな話を聞かせて欲しいと言われるから
少々個人的な主観を交えながら、仕事の話をしたり
一緒に映画やドラマを見たり。

それはそう、彼が一緒にいることが当たり前になってきている。

そして、その空間が俺にとって心地いいものになっている。

「個人的には、家に帰ってきたら高人さんがいるってシチュエーションが理想的なんですけど」
「俺がスタジオ離れる前にお前が拉致りに来てるんだろうが」
「あ、そっか! だって高人さん来てくれなさそうだし。もうやっぱ一緒に住みましょうよ」
「断る!」

彼の俺への愛情は、尊敬から来るもの。
学生か、と思うくらい恐ろしい熱量で
だからこそ、いつか急に冷めてしまうんじゃないかと。
熱が高ければ高いほど、ひょんなことがきっかけで興味が失せるのではないかと。

そう思うと怖くて。
彼と一緒にいる空間は心地よいけれど
受け入れてしまうのは
もし崩れたときに自分を保てない気がして。

まぁ、そもそも素直な性格ではないのだが。

「高人さん」

名前を呼んで、その手が伸びてくる。
ごく自然な動作で俺の体を引き寄せ、抱き締められる。

「あぁ、高人さん…愛してます」

何度も名前を呼ばれ、何度も愛を囁かれる。

いくら制しても、いくらかわそうとしても

強引にその腕の中に収められてしまう。

嫌なんだ。
恋や愛などに浮かれる年ではない。
けど、どんどん自分の中でチュン太の存在が大きくなっている。

今まで、一人で役者として作品と向き合ってきた。
なのに最近、台本を見ても作品を見ても
恋愛のシーンが出てくると、彼を重ねてしまう。

「今日も綺麗です。高人さん」

頬を撫でる指。歯が浮くような甘い言葉。
未だに慣れなくて、恥ずかしい。

こんな自分が初めてで。
どうしていいかわからなくて。
でも結局そんなことを考えられないくらいになって
包まれて、埋もれてしまって、満たされて。

本当にこんな時間がずっと続くのか。
素直に受け入れるときが訪れるのか。

役者としてたくさんの役を演じてきたのに
役を通じて、色んな物語と接してきたのに
現実になると、狼狽えるばかりで。
俺自身は昔から何も変わっていない。
ただの臆病者。

演じると強くなれるのに
本当はこんなにも弱い自分に気づかされる。

彼と向き合って
強くならないといけないことを知った

「俺は高人さんのこと俳優の先輩として尊敬してます。でも高人さん自身を愛してるんですよ。 例え高人さんが俳優じゃなくても必ず出会って愛せる自信あります。来世も一緒にいましょうね」
「……来世の約束は意味わからんぞ!」
「必ず見つけ出しますね」

俺に恐ろしいほど執着する。
彼の発言は、俺の想像を遥かに越えていて
たまに、異次元だ。

「…これからも、ずっと一緒にいましょうね」

そう言いながら、抱き締める腕に力が込められる。

俺は仕事のこと以外のことは全部二の次で。
というか、仕事をするためだけに生きていたようなものだから
自分のことを改めて考えたことなんてなかった。

役を写し出すためには
真っ白だった方がいいと思っていた。
その方が色がつきやすいから。

でも、彼は
どんどん色を重ねていく。
どんどん色鮮やかになっていく。

そうか、そういう方法があるのかと思った。

色は一色ではない。
色を重ねることで、より複雑な色合いを表現できる。

色の感じ方は人それぞれ。
彼と一緒にいると新しい色を見ることができる。
今まで感じてきた色が
少しずつ変化して、色が濃く鮮やかになっていく。

だから彼といれば
どんどん俺の見る世界は色づいていく。
俺の世界に新しい色をもたらしてくれる。

そして最後には
君とその色を共有できたらいいと思っている。
その時は素直な気持ちを君に伝えられるようになっていたい。

END
目次

※会員登録するとコメントが書き込める様になります。