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色のついた世界

原作: その他 (原作:抱かれたい男1位に脅されています。) 作者: こだま
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― 第一話 准太視点―

昨日までどんよりした薄暗い空だったのに
今日は突き抜けるような青空が広がる。
眩しいくらいの太陽の光に目を細めた。

「んー! 久々の気持ちいい天気だなぁ」
マンションのベランダを出て、体を伸ばしながら手すりに寄りかかる。

空を見上げるとほとんど雲のない綺麗な青空だ。
こんなにも晴れの日って明るかったっけ?
と考えてから、微笑む。

そっか、今まで晴れだろうが雨だろうが気にしたことなかったんだ。

違いがあるといえば、傘が必要だったり、ロケのスケジュールが変わったりするだけの話。
こんなに穏やかな気持ちで空を眺めたことなんてない。

「あー、高人さんと一緒に眺めたいな…」

そう呟き、まだ薄暗い室内に目を向ける。
部屋の奥のベッドで彼はまだ寝ている。
昨夜無理をさせてしまったようで熟睡中だ。
起きたら昨晩のことで怒られるだろうが、仕方ないだろう。

「だって、高人さんが煽るんだもん」

昨夜のことを思い出して、微笑む。
あー、相変わらず可愛かったなぁ、高人さん。
俺にだけ見せてくれる表情、声。
全てが自分だけのものだと思うと体が熱くなる。
今まで、誰かに執着したことはない。
けれど、彼と体を重ねれば重ねるほど愛しさが増えていく。
それはきっと彼も同じで、毎度俺の理性を吹っ飛ばしてくれるのだ。

気づけばいつも無理をさせてしまっていて
気絶するように眠る彼を見ながら
少し反省し、次こそは紳士的にと思うのだが
一度も成功したことはない。

「高人さん、今日は夕方から仕事だったよな」

愛しい彼の為にスケジュールは全て把握済み。
彼のマネージャーさんに、僕は用済みだねと言われてしまうほどに。

小さいころから俺の中はカラッポだった。
自分を満たすものはないかと焦って色々試してみたけど
何かを注がれても、それは自分を満たすことはなかった。

昔から器用なせいで、たいていのことはそつなくこなしてしまう。
それが羨ましいと他人から言われるが、俺は器用な自分を恨んだ。
できるように一生懸命になることや達成感を味わうことができないのだ。

俳優の世界に入ってからは、面白いと思うことができた。
様々な役を通じて、いろんな世界を味わうことができるし
何よりも自分だけでは作品は完成しない。
その作品を考える人、作る人、演じる人、サポートする人がいて初めて完成する。
自分はうまく出来ていたとしても作品がうまくいっているとも限らない。
演出が急に変わることもあるし、相手が上手く演じられなかったりすると進まない。

元々、人を観察することは好きだったので、
相手が何を求めているのか、自分がどう立ち回るべきかはある程度理解できて
モデル、俳優業も順調だった。

ただ、順調すぎると、心のどこかで満たされない自分が脳裏をよぎった。
けれど、それは杞憂だった。
本物に出会ったのだ。

他のものはなんだか現実味がなかったのに
俳優としても、人としても
高人さんは色濃くそこに存在していた。

運命だなんて思わなかった。
出会えたと思ったら、何が何でも手に入れる。奪ってしまおうと。
自分の中にこんな熱量があったことに驚くほどだった。

彼は何を考えて、どう感じているのだろう。
彼が見える世界はどんなものだろう。
彼と同じ世界を見てみたい。そう思えた。

自分が満たされていないのではなく
熱量の注ぎ先がほしかったのかもしれない。

彼を意識するようになってから
色がつき始めた。
最初は彼だけが色づいていた。
するとその周りの景色が徐々に彩りはじめ
今では、世界はこんなに色とりどりだったのかと思う。
けれど、彼といる時間が減るとまた色彩が薄れていく。
だから、彼と一緒にいないといけない。

彼がいないと
俺の世界が灰となり、死んでしまう。

「高人さん小さくしてポッケとかに入れて連れていきたい…」

冗談ではなく、できるなら本当にそうしたい。
けれど、彼は俳優の仕事を愛しているし、俺もそんな彼を尊敬している。
彼の喜びの邪魔だけはしたくない。

彼と一緒にいられるために俺にはやることがある。
隣にいるのに相応しい男になるために
初めてできた目標であり、自分の目指す場所だ。
簡単にはたどり着けない。だからこそ楽しい。

「…さて、お姫様の為にご飯用意しておくか」

昼から仕事があるため、彼より先に家を出ることになる。
あの様子だと俺が家を出るころまでに起きてはこないだろう。

起きたとき、俺がいないと寂しがってくれるかな。
そんな顔も見てみたい。

「………カメラ仕掛けるか…」

しばらく葛藤したが、色々と歯止めが利かない気がしたのであきらめることにした。
高人さんのことになると基準が危うくなる。
よく高人さんにも怒られる。

「怒った顔も可愛いんだよなぁ…」

きっと、起きて俺がいないの気づいて寂しがって
でも昨夜無理をさせたことに怒るだろうから
ここは甘い甘いパンケーキでも用意しておけば
不機嫌そうな顔をしながらしぶしぶ食べて
食べ終わるころには機嫌を直してくれるはず。

テーブルに作っておいて
メープルシロップの大瓶を添えて
「温めて食べてください」とメモを貼っておく。
コーヒーも作ってあるし、角砂糖もミルクも置いてある。
さて、メープルシロップと砂糖はどれくらい減るのかな?

「行ってきますね、高人さん」

寝室でぐっすり寝ている彼の頬を撫で、
後ろ髪ひかれるのをぐっと堪えて家を出る。

貴方がいる場所はずっとずっと遠く高いところ
俺がたどり着くのは簡単じゃない。
けど、初めてできた目標だから
簡単じゃないことが嬉しい。
今日も明日もこれからもずっと、貴方のために。
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