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バカとテストと転校生

原作: その他 (原作:バカとテストと召喚獣) 作者: のんの
目次

第一問③

「――です。よろしく」



 島田さんの自己紹介の後は、淡々と自分の名前を告げるだけの作業が進む。さて、次の人は――



「――コホン。えーっと、吉井明久です。気軽に 『ダーリン』 って呼んで下さいね♪」


『『『ダァァーーリィーーン!!』』』



 野太い声の大合唱。これは最悪だ。五臓六腑が腐るんじゃないだろうか。



「――失礼。忘れてください。とにかくよろしくお願い致します」



 多分、吉井も耐えられなかったんだろう。顔色が明らかに悪くなってる。Fクラス恐るべし。

 その後もしばらくは名前を告げるだけの単調な自己紹介が続く。



「え、えと、姫路瑞希といいます。よろしくお願いします……」



 いい加減眠くなってきた頃、一人のクラスメイトが自己紹介を始めると教室内がにわかに騒ぎ出した。

 自己紹介をしているのは、さっき途中入室してきた女子生徒だ。肌は新雪のように白く、背中まで届く柔
らかそうな髪、保護欲をかきたてられるような可憐な容姿は、男だらけのFクラスで異彩を放っている。



「はいっ! 質問です!」



 既に自己紹介を終えた男子生徒の一人が高々と右手を上げる。



「あ、は、はいっ。なんですか?」



 急な質問に驚く姫路さん。その小動物のような仕草がとてつもなく可愛い。



「なんでここにいるんですか?」


「そ、その……」



 そんな失礼な質問に、緊張した面持ちで身体を硬くしながら姫路さんが口を開く。



「振り分け試験の最中、高熱を出してしまいまして……」



 その言葉を聴き、クラスの人々は 『ああ、なるほど』 とうなずいた。

 実際俺は振り分け試験を受けてはいないけど、たしか試験途中での退席は0点扱いとなるはずだ。彼女は
昨年度に行われた振り分け試験を最後まで受けることができず、結果としてFクラスに振り分けられてしま
ったのだろう。

 そんな姫路さんの言い分を聞き、クラスの中でもちらほらと言い訳の声が上がる。



『そう言えば、俺も熱 (の問題) が出たせいでFクラスに』


『ああ。科学だろ? アレは難しかったな』


『俺は弟が事故に遭ったと聞いて実力を出し切れなくて』


『黙れ一人っ子』


『前の晩、彼女が寝かせてくれなくて』


『今年一番の大嘘をありがとう』



 これは想像以上のバカだらけだ。



「で、ではっ、一年間よろしくお願いしますっ!」



 そんな中、彼女は急いで卓袱台に着き、顔を真っ赤に染めていた。

「はいはい、皆さん静かにしてくださいね」



 だんだんとヒートアップしてきたバカ共に福原先生が、パンパン、と教卓を叩いて警告を発す。




 バキィッ  バラバラバラ……




 ……そして、教卓はゴミと化した。まさか軽く叩いただけで崩れ落ちるとは。どこまで最低な設備なんだ
ろう。



「え~……替えを用意してきます。少し待っていてください」



 気まずそうにそう告げると、先生は足早に教室を出て行った。



                  ☆





「さて、自己紹介の続きをお願いします」



 壊れた教卓を替えて (それでもボロだけど)、気を取り直してHRが再開される。



「えー、須川亮です。趣味は――」



 特に何も起こらず、また淡々とした自己紹介の時間が流れる。



「坂本君、君が自己紹介最後の一人ですよ」


「了解」



 先生に呼ばれた雄二が席を立つ。



「坂本君はFクラスのクラス代表でしたよね」



 福原先生に問われ、鷹揚にうなずく雄二。
 クラス代表――つまり二年生のクラスを編成する振り分け試験において、この教室内で誰よりも優秀な成
績を収めた生徒。ただし、成績最低のFクラスで代表になったからといって、何の自慢にもならないどころ
か恥になりかねない。

 それにも関わらず、雄二は自信に満ちた表情で教壇に上がり、俺達の方に向き直った。



「Fクラス代表の坂本雄二だ。俺のことは代表でも坂本でも、好きなように呼んでくれ」



 そう言ったので、親しみをこめてこう呼ぶ。



「ロリコーン!」


「誰だ今ロリコンって呼んだやつはっ!!」


 怒られた。


「さて、皆に一つ聞きたい」



 気を取り直して、雄二はゆっくりと、全員の目を見るように告げる。

 間の取り方が上手いせいか、全員の視線はすぐに雄二に向けられるようになった。

 皆の様子を確認した後、雄二の視線は教室内の各所に移りだす。



 かび臭い教室。


 古く汚れた座布団。


 薄汚れた卓袱台。


 つられて俺達も雄二の視線を追い、それらの備品を順番に眺めていった。



「Aクラスは冷暖房完備の上、座席はリクライニングシートらしいが――」



 一呼吸おいて、静かに告げる。



「――不満はないか?」


『『『大ありじゃぁっ!!』』』



 二年F組生徒の魂の叫び。



「だろう? 俺だってこの現状は大いに不満だ。代表として問題意識を抱いている」


『そうだそうだ!』


『いくら学費が安いからと言って、この設備はあんまりだ! 改善を要求する!』


『そもそもAクラスだって同じ学費だろ? あまりにも差が大きすぎる!』



 堰を切ったかのように次々と上がる不満の声。



「みんなの意見はもっともだ。そこで」



 級友たちの反応に満足したのか、自信に溢れた顔に不敵な笑みを浮かべて、



「これは代表としての提案だが――」



 これから戦友となる仲間たちに、野性味満
点の八重歯を見せ、



「――FクラスはAクラスに 『試験召喚戦争』 を仕掛けようと思う」






 Fクラス代表、坂本雄二は戦争の引き金を引いた。
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