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バカとテストと転校生

原作: その他 (原作:バカとテストと召喚獣) 作者: のんの
目次

閑話③

「悪いわね、わざわざ見送りにきてもらって」


「気にするな。散歩のついでだ」



 時刻は八時。いくら戦闘能力が高いとはいえ、夜道を女子一人で歩かせるわけにはいかず、こうして明日
香の言う知り合いの家の近くまで送ってやっているというわけだ。



「ふふ、相変わらず智也はツンデレね」


「違うわっ! っていうか、デレたことねえよ!」


「照れなくてもいいわよ」


「照れてねえよ!」


「あっ、少しここに寄って行ってもいい?」


「……ん? なんで公園なんかに……て、ちょっと待て、何で聞いておいて俺が答える前に入るんだよ!」


「早く来なさい愚図」


「誰が愚図だっ!」



 明日香は一直線にグローブジャングル (丸いジャングルジムのようなもの) に向かい、まるで子供の
ようにそれを登る。ちなみに明日香はスカート着用だったが、俺はけっして覗いたりしてない。本当だぞ?



「……で? なんでここに寄ったんだ?」



 頂上まで登りきったところで、俺は明日香に尋ねる。



「…………さあ」


「……は?」


「…………ねぇ、智也」


「……なんだよ?」


「…………新しい学校は楽しい?」



 今までと一変して、真面目な表情をする明日香。

 こいつがこんな顔をするのは、極めて稀だ。今までのやりとりからもわかるように、俺と明日香は普段か
らバカな会話しかしない。昔から、それが当然のようになっていた。

 だからこそ、こいつが久々に見せる真剣な顔に、俺は驚きを隠せないでいた。


「なんで、そんなこと聞くんだよ?」


「……そんなの、決まっているじゃない」



 そう言って、明日香は夜空を仰ぐ。
 こんなこと、思いたくもないが、月明かりに照らされた明日香は、綺麗だった。



「智也が前の学校を転校しなきゃいけなくなったの、わたしのせいなんだから」


「そんなこと……」


「あるわ。智也が転校したのは、わたしのせい。だから聞いたの。心配だから」



 俺が文月学園へ転校する、いや、転校しなければならないきっかけになった、ある事件。

 それはけっして明日香のせいではないのだが、こいつは、自分のせいだと思っている。



「…………」


「で? どうなの?」


「……楽しいさ」



 これは本心。雄二や明久、それに姫路さんやFクラスのバカ達。まだ出会って間もないが、あいつらとな
ら、多分楽しい学園生活を謳歌できる。



「楽しいさ。あいつらとなら、日常を楽しく暮らしていける。だから――」



 明日香の瞳を見る。お前が責任を感じる必要はない、そう伝わればいいなと思いをこめて、



「心配すんな。俺なら平気だ」



 できうる限りの笑顔で、こう答えた。


「…………そう」



 グローブジャングルから飛び降りると、明日香は公園の出口へと歩き出す。



「智也、見送りはここまででいいわ。知り合いの家、ここからそう遠くないし」


「……そっか」


「ええ。……智也」



 立ち止まり、こちらを向く。



「……また、ね」



 それだけを告げると、明日香はまた歩きだす。

 俺の気のせいだとは思うが、明日香の表情が、少しだけ、ほんの少しだけ――



「ああ、またな」



 ――寂しそうに、見えた気がした。


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