中編
転校生が来るらしい。
教室は朝からその噂で持ち切りになっている。そして担任が入って来た。
「今日は転校生を紹介する。」それと同時に一気に騒ぐクラスメイト達。
入って来たのは銀髪が印象的な眼つきが鋭い男子生徒だった。
転校生は「獄寺隼人。よろしく。」とだけ自己紹介をして担任に促された席へと着いた。
この時、獄寺と麻実がお互いを見て驚いた表情をした事をオレは見逃さなかった。
知り合いなのだろうか……心がモヤモヤして授業にはいつも以上に集中出来なかった。
まさか、アイツが此処に居るとは思わなかった。
幼少期を少しだけ共に過ごしていた時のアイツの無邪気さや屈託のない笑顔はまるで別人かの様に何処かへ行ってしまっていた。
影を全身に纏ってアイツが経験してきた事を投影しているかの様で……オレの事には気が付いた様子だが、一瞬だけ驚いた表情を見せただけで自分の殻に閉じこもったかの様な印象を受けた。
それはまるで、「私には関わるな。過去の事は忘れろ。」と言われている様で少しだけ寂しい気持ちになった。
日本の中学生の授業とはなんて簡単なものなのだろう。オレはくだらないと思って腹が痛いと適当な理由を付けて授業をサボりに屋上へと向かってみた。
青空の元、屋上には先客が居た。
「よお、久し振りだな。」
アイツはオレを一瞬だけ見ると小さな声で「久し振り。」とだけ言った。
暫く逢わなかった時間の中、何十年も経っている訳ではないのに、何がコイツをここまで別人へと変えたのか。
質問しか浮かばなかったが、無用な詮索は出来る雰囲気ではなかった。
「テメェも煙草を吸う様になったのかよ。ヤンキーが。」
「不良にヤンキーなんて言われたくないっつーの。」
少しだけだが昔の気持ちに返れた気がしてオレはつい笑ってしまった。
「何笑ってんの?」
「いや、少し昔を思い出してよ……。」
「……」
タブーだったのかヤンキー少女は黙り込んだ。
「元気にしてたか?」
「まあ……」
これもタブーな話題なのかよ。そりゃそうだ。今のコイツはオレが知っている人物ではない。
心を堅く閉ざして別の人間を「演じている」だけだ。昔のコイツを知っているオレには分かる。
そして……もう一度あの頃の様に、いやコイツの笑顔をまた見たいと強く思っていた。
それからはくだらない話をした。
「授業って怠いよな。」
「まあ……」
「良い天気だな。」
「まあ……」
駄目だ、会話が続かねえ。
オレも一服するか。煙草に火をつけると「そんな物吸ってたら早死にするよ。」と自分も堂々と吸っているクセに凄く矛盾した球が飛んできた。
「お前だって吸ってんじゃねえかよ。」
「私は良いの。」
「俺様感が凄いんだが。」
「屋上にはよく来るのか?」
「うん。此処は独りになれる場所だから。」
「オレもヤニを吸いに来るわ。」
「身体に悪いから煙草なんてやめな。」
頑なに矛盾した言動を貫いているコイツの態度に思わず笑ってしまった。
「ご心配どーも。この不良少女が。」
「うるせーよ。不良少年が。」
やっと少し会話らしくなった。くだらない事を言い合って少しだけ昔を思い出した。
「なんか今一瞬だけ懐かしいと思った。」
「オレもだ。」
どうやらコイツも同じ感覚になったらしい。
それからは特に言葉は交わさずに屋上でただただ一緒に過ごしていた。
転校初日から授業をサボり、オレも完全にコイツと同じ不良生徒扱いをされるのだろう。
昼休みになったのか、校庭に出て来る生徒の姿が見え始めた。
約半日の授業をサボり屋上でコイツと過ごしていたのか。
意外と無言でも平気だったのは矢張り昔のよしみがあったからだろう。
そこに新たな声が聞こえた。
「またサボってんのかー……って転校生も一緒なんだな。」なんつー呑気な奴なんだ。
コイツに用があって来たのだろう。
「初めましてだな。オレは山本武。えーっと獄寺だったよな。」
「おう。そうだ。」
「よろしくな。転校初日からサボるなんて良い度胸してんのな。」山本は明るく笑った。
そこは注意しろよ、と思ったが山本は気にしていない様子だ。
「お前等って知り合いなのか?」
「……」
オレ達は少し黙り込んでしまった。
「まあな、腐れ縁だ。」
「へー。そうなんだな。」なんだろう声のトーンや表情は明るく呑気なままの山本だが一瞬だけ違和感を感じた。
「山本は野球部の期待のルーキーだよ。」
「そんな事ねえって。野球をは大好きだけど勉強は全然出来ねえし。」
「成程な。野球馬鹿って事か。納得した。」
「おいおい、それって酷くねえか?獄寺だって勉強は……」
「あんな簡単な授業を受けるのあ退屈で此処に来たんだよ。」
「え、獄寺も不良なのに勉強出来るのか?それってズルくねえ?」
「あんな問題、勉強以前に一般常識だろうが。」
「その一般常識さえ理解出来ないオレの立場って……」
「だから野球馬鹿なんだろ。」そんオレと山本の会話をしていると不良少女は笑った。
「あんた達って良いコンビだね。漫才を見てるみたい。」
「誰がこんな野球馬鹿と。」
「まあ、ボケとツッコミで結構良いコンビかもな。」
「何を呑気な事言ってやがんだよ!」
「ほら、正に漫才じゃん。」
悔しいが山本が来たお陰でコイツとの会話も円滑になったし笑った姿も見られた。
それから度々昼休みは三人で過ごす事が自然と多くなっていった。
オレと山本の会話の遣り取りを見ては笑う不良少女。
昔は普通に名前で呼び合っていたが、なんか照れ臭くていつの間にかオレはコイツの事を不良少女と呼ぶ様になっていた。
山本は普通に下の名前で呼んでいる。それが少しだけ羨ましく思う。
今日の放課後は十代目と山本の、いや十代目の為だけにテスト勉強を一緒にする約束をしている。
不良少女も誘おうか、オレが一人考えていると山本が「テスト勉強一緒にしねえ?あ、でもお前は必要ないだろうから先生役として。先生は多い方が良いからさ。」と簡単に誘いやがった。
「別に良いけど。」不良少女は山本には少しだけ心を開いているんだろうか。会話も普通にしているし表情も柔らかくなる気がする。
そこでオレは少しずつ不良少女への想いに気が付き始めていた。
きっとこの想いは山本も抱いているのだろう。それは転校初日にオレと不良少女が知り合いだった事を知った山本から感じた違和感がそうなのだろうから。
放課後の教室でオレは主に十代目の勉強を教えて差し上げていた。素直な性格じゃない事が災いして「野球馬鹿は勝手に自習でもしてろ。」と言ってしまったから自然と不良少女が山本の勉強を見ている。
最初はこんな問題も解けないのかと言われると思ったけど、コイツは意外にもオレのレベルに合わせて問題を丁寧に教えてくれている。分からない事だらけなのにオレが質問しても嫌な顔一つせずに根気よく対応してくれる。
こんな一面があったのか。それを知れて嬉しく思っていた。
獄寺と目が合った。獄寺は直ぐに目線を逸らしたが、見ていたのはオレの事じゃない事は直ぐに分かった。
そうか……もしかすると獄寺もか……。
教室は朝からその噂で持ち切りになっている。そして担任が入って来た。
「今日は転校生を紹介する。」それと同時に一気に騒ぐクラスメイト達。
入って来たのは銀髪が印象的な眼つきが鋭い男子生徒だった。
転校生は「獄寺隼人。よろしく。」とだけ自己紹介をして担任に促された席へと着いた。
この時、獄寺と麻実がお互いを見て驚いた表情をした事をオレは見逃さなかった。
知り合いなのだろうか……心がモヤモヤして授業にはいつも以上に集中出来なかった。
まさか、アイツが此処に居るとは思わなかった。
幼少期を少しだけ共に過ごしていた時のアイツの無邪気さや屈託のない笑顔はまるで別人かの様に何処かへ行ってしまっていた。
影を全身に纏ってアイツが経験してきた事を投影しているかの様で……オレの事には気が付いた様子だが、一瞬だけ驚いた表情を見せただけで自分の殻に閉じこもったかの様な印象を受けた。
それはまるで、「私には関わるな。過去の事は忘れろ。」と言われている様で少しだけ寂しい気持ちになった。
日本の中学生の授業とはなんて簡単なものなのだろう。オレはくだらないと思って腹が痛いと適当な理由を付けて授業をサボりに屋上へと向かってみた。
青空の元、屋上には先客が居た。
「よお、久し振りだな。」
アイツはオレを一瞬だけ見ると小さな声で「久し振り。」とだけ言った。
暫く逢わなかった時間の中、何十年も経っている訳ではないのに、何がコイツをここまで別人へと変えたのか。
質問しか浮かばなかったが、無用な詮索は出来る雰囲気ではなかった。
「テメェも煙草を吸う様になったのかよ。ヤンキーが。」
「不良にヤンキーなんて言われたくないっつーの。」
少しだけだが昔の気持ちに返れた気がしてオレはつい笑ってしまった。
「何笑ってんの?」
「いや、少し昔を思い出してよ……。」
「……」
タブーだったのかヤンキー少女は黙り込んだ。
「元気にしてたか?」
「まあ……」
これもタブーな話題なのかよ。そりゃそうだ。今のコイツはオレが知っている人物ではない。
心を堅く閉ざして別の人間を「演じている」だけだ。昔のコイツを知っているオレには分かる。
そして……もう一度あの頃の様に、いやコイツの笑顔をまた見たいと強く思っていた。
それからはくだらない話をした。
「授業って怠いよな。」
「まあ……」
「良い天気だな。」
「まあ……」
駄目だ、会話が続かねえ。
オレも一服するか。煙草に火をつけると「そんな物吸ってたら早死にするよ。」と自分も堂々と吸っているクセに凄く矛盾した球が飛んできた。
「お前だって吸ってんじゃねえかよ。」
「私は良いの。」
「俺様感が凄いんだが。」
「屋上にはよく来るのか?」
「うん。此処は独りになれる場所だから。」
「オレもヤニを吸いに来るわ。」
「身体に悪いから煙草なんてやめな。」
頑なに矛盾した言動を貫いているコイツの態度に思わず笑ってしまった。
「ご心配どーも。この不良少女が。」
「うるせーよ。不良少年が。」
やっと少し会話らしくなった。くだらない事を言い合って少しだけ昔を思い出した。
「なんか今一瞬だけ懐かしいと思った。」
「オレもだ。」
どうやらコイツも同じ感覚になったらしい。
それからは特に言葉は交わさずに屋上でただただ一緒に過ごしていた。
転校初日から授業をサボり、オレも完全にコイツと同じ不良生徒扱いをされるのだろう。
昼休みになったのか、校庭に出て来る生徒の姿が見え始めた。
約半日の授業をサボり屋上でコイツと過ごしていたのか。
意外と無言でも平気だったのは矢張り昔のよしみがあったからだろう。
そこに新たな声が聞こえた。
「またサボってんのかー……って転校生も一緒なんだな。」なんつー呑気な奴なんだ。
コイツに用があって来たのだろう。
「初めましてだな。オレは山本武。えーっと獄寺だったよな。」
「おう。そうだ。」
「よろしくな。転校初日からサボるなんて良い度胸してんのな。」山本は明るく笑った。
そこは注意しろよ、と思ったが山本は気にしていない様子だ。
「お前等って知り合いなのか?」
「……」
オレ達は少し黙り込んでしまった。
「まあな、腐れ縁だ。」
「へー。そうなんだな。」なんだろう声のトーンや表情は明るく呑気なままの山本だが一瞬だけ違和感を感じた。
「山本は野球部の期待のルーキーだよ。」
「そんな事ねえって。野球をは大好きだけど勉強は全然出来ねえし。」
「成程な。野球馬鹿って事か。納得した。」
「おいおい、それって酷くねえか?獄寺だって勉強は……」
「あんな簡単な授業を受けるのあ退屈で此処に来たんだよ。」
「え、獄寺も不良なのに勉強出来るのか?それってズルくねえ?」
「あんな問題、勉強以前に一般常識だろうが。」
「その一般常識さえ理解出来ないオレの立場って……」
「だから野球馬鹿なんだろ。」そんオレと山本の会話をしていると不良少女は笑った。
「あんた達って良いコンビだね。漫才を見てるみたい。」
「誰がこんな野球馬鹿と。」
「まあ、ボケとツッコミで結構良いコンビかもな。」
「何を呑気な事言ってやがんだよ!」
「ほら、正に漫才じゃん。」
悔しいが山本が来たお陰でコイツとの会話も円滑になったし笑った姿も見られた。
それから度々昼休みは三人で過ごす事が自然と多くなっていった。
オレと山本の会話の遣り取りを見ては笑う不良少女。
昔は普通に名前で呼び合っていたが、なんか照れ臭くていつの間にかオレはコイツの事を不良少女と呼ぶ様になっていた。
山本は普通に下の名前で呼んでいる。それが少しだけ羨ましく思う。
今日の放課後は十代目と山本の、いや十代目の為だけにテスト勉強を一緒にする約束をしている。
不良少女も誘おうか、オレが一人考えていると山本が「テスト勉強一緒にしねえ?あ、でもお前は必要ないだろうから先生役として。先生は多い方が良いからさ。」と簡単に誘いやがった。
「別に良いけど。」不良少女は山本には少しだけ心を開いているんだろうか。会話も普通にしているし表情も柔らかくなる気がする。
そこでオレは少しずつ不良少女への想いに気が付き始めていた。
きっとこの想いは山本も抱いているのだろう。それは転校初日にオレと不良少女が知り合いだった事を知った山本から感じた違和感がそうなのだろうから。
放課後の教室でオレは主に十代目の勉強を教えて差し上げていた。素直な性格じゃない事が災いして「野球馬鹿は勝手に自習でもしてろ。」と言ってしまったから自然と不良少女が山本の勉強を見ている。
最初はこんな問題も解けないのかと言われると思ったけど、コイツは意外にもオレのレベルに合わせて問題を丁寧に教えてくれている。分からない事だらけなのにオレが質問しても嫌な顔一つせずに根気よく対応してくれる。
こんな一面があったのか。それを知れて嬉しく思っていた。
獄寺と目が合った。獄寺は直ぐに目線を逸らしたが、見ていたのはオレの事じゃない事は直ぐに分かった。
そうか……もしかすると獄寺もか……。
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