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許されるならもう一度名前を呼びたい(山本、獄寺逆ハーレム)

原作: 家庭教師ヒットマンREBORN! 作者: ちゃんまめ
目次

前編

 一年の時に同じクラスになったアイツは誰ともつるまず、不良生徒として女子からも男子からも怖がられていた。

実際、アイツが屋上で独り煙草を吸っているのも見掛けた事もある。

でも、アイツは授業をサボる事の方が多いのにテストでは常に学年トップの成績っつー不思議な奴だ。

教師達からカンニングや成績が優秀な生徒達を脅していた、テスト問題を盗んだ等と疑いの眼を向けられたが、職員室にその件で呼び出された際に中学生では到底解けない数学の問題をスラスラと書き教師達の度肝を抜いたという伝説が生徒達の間で飛び交う様になっていた。

オレは一目見た時からアイツに一目惚れをしていた。

でも、周りを寄せ付けない、私に近寄るなという雰囲気?オーラ?みたい物が凄くてなかなか話し掛ける事が出来ずにただただ見ているだけだった。



 私は心を開く事が出来ない。

私の心の扉は酷く錆び付き、その扉を開ける鍵さえも何処かに行ってしまったのだろう。

幼い頃からの影響か……。私に近付いた人間は皆傷付けてしまう。いや、傷付けてきたからこそもう誰も傷付けたくない。

私にとって人を傷付けるという事は嫌がらせをする等生易しいものではない。

傷付ける、イコール、命を奪う事だったから……。

そんな私に唯一出来る贖罪は孤独に過ごす事だ。

痛い人間や、厨二病と表現されてしまうかも知れないけれど、私が煙草を吸い始めたきっかけは今まで殺めてしまった人々に対するお線香代わりの様な理由からだ。

煙草は身体に良い事なんて一つも無い。だから煙草を吸って一日でも早く私の身体が毒で蝕まれて壊れてしまう事も望んでいる。

しかし、煙草の依存性とは恐ろしいものでパッケージにも書いてある通り未成年である私は煙草が手放せなくなった。

煙草を吸えば心が少しだけ落ち着く気がする。

これでは贖罪にはならない。でも、本数が増えれば早く私の身体は壊れるだろう。

そんな事を考えて次の「依頼」が来ない事をただただ願って私は生きている。

周りが近寄らないのは丁度いい。こんな人間は友情も愛情も望んではいけないから。



 オレは強い決意を持って野球の朝練に向かっていた。

今日こそアイツに話し掛けてみよう。

突き放されたら突き放されたでそれで良い。

でも、どうしても話がしたい。

一体何を考えているのか、どうしていつも独りで居るのか……聞きたい事は沢山あるけどあまり突っ込んだ質問をするとそれこそ突き放されるだろう。

だから実家の寿司屋。親父がやっている竹寿司を良い様に話題にする事にした。

初めて話し掛ける緊張感とアイツの事で頭がいっぱいで朝練にはちゃんと身が入らなかった気がするけど……。

その日は珍しくアイツは授業に出ていた。

入学当初の席のままだから苗字の関係でオレの席からはアイツの姿がよく見える。

授業を聞いているのか何かぼんやりと考えているのか……教科書やノートは広げているけど心は此処に在らずといった様子だ。

チャイムが鳴ると同時にアイツは教室を出て行った。チャンスは今しかない。

後を追いかけるとどうやら屋上へ向かう様だ。

直ぐに声を掛けると気持ち悪い、と思われそうだから、屋上への扉が閉まるのを確認して一呼吸おいてから屋上への扉を開けた。

そこにはぼんやりと煙草を吸いながら独り佇む彼女の姿が。

今年最大の勇気を出して声を掛けた。

「よっ、休憩中か?」

驚いた表情でオレを見る彼女。敵意は感じなかったので更に言葉を続けた。

「授業って退屈だよなー。オレは頭悪いから全然分かんねえし。あ、オレ、山本。」

「知ってる。野球部の山本でしょ。」

彼女がオレを知っていた事に今度はオレが驚いた。

「ははっ、知っていてくれたのか。く……」

するとオレの言葉を遮る様に「苗字は嫌いだから下の名前でいい。」

「そうなのか……えーっと麻実さん?」

「なんで同級生なのにさん付けなの。」

「じゃあ、麻実ちゃん?」

「それはなんか恥ずかしいから呼び捨てでいいよ。」

「じゃあ、麻実で。」

「うん……私に話し掛けるなんて山本って物好きだね。自分から腐った食べ物を食べるタイプなの?」

「腐った物を好んで食べるって……お前、面白い事言うな!」

オレは意外と彼女が話し易い人間だった事と冗談も言う人間だという事をしれて嬉しいと同時に益々興味が湧いた。

「なあ、寿司って好きか?」

「寿司?好きだけど一人暮らしをしているから食べる機会は無いかな。」

「オレの家は寿司屋なんだよ。だから、良かったら食べに来ないか?お前とは前々から藩士がしたいと思ってたしさ。」一瞬考え込む様子を見せると「サーモンが食べたい。」と呟いた。

「おう!任せろ!親父に言って沢山サーモン用意して貰うからさ!」

そこで彼女の表情が曇ったそして哀しげな声色で、

「私には関わらない方が山本の為になるよ。」と言った。

さっきまでは友好的に話してくれていたのに一体どうしたのだろう。

でもオレは引かなかった。

「大丈夫!これからも話かけるから気が向いた時にでも話してくれよ。寿司もお前が食べたい時に言ってくれれば良いから!」

「ほんと、物好きだね。」少しだけ微笑みを見せてくれた表情は暫くの間、頭から離れなかった。
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