後編
ある日、学校にだけは来ていた不良少女が珍しく学校を休んだ。
出席を取る際に無断欠席だった様で交流があるオレと十代目と山本に事情を知らないかと担任に訊かれたが誰も知らなかった。
一応オレ達三人は不良少女の携帯の番号とメールアドレスを知っていたので連絡を入れてみたが返信はない。どうせ只の気紛れだろう。
しかし、それから一週間アイツは学校を休んだ。
担任に溜まったプリントを届ける事と様子を見て来てくれとオレと山本が頼まれた。
アイツはオレと同じく一人暮らしをしている。
住所を書いた紙を渡されてマンションを訪ねた。
チャイムを押しても反応がない。居ないのか?すると山本が「あれ?鍵が開いてる。」
と言った。
オレ達は一応「お邪魔します」と小さく言ってから扉を開けた。
部屋の中は暗く、差し込む太陽の光で室内が見渡せた。
玄関から少し進んだ所で衝撃的な光景が飛び込んできた。
うつ伏せに倒れている不良少女。オレ達は慌てて駆け寄った。
「おい、大丈夫か?!」
「救急車だ!」
「意識はあんのかよ?!」
慌てふためくオレ達に「救急車は呼ばなくていい……。このまま……」と無意識の様に呟く不良少女……「おい、怪我してんじゃねえか!」「今救急車呼ぶからしっかりして!」
「これで良い……。このまま死ねるのなら……」ぼんやり呟く声に思わずオレは「死にたいなんて言うんじゃねえ!お前が死んだら悲しむ人が居るんだ!」と叫んでしまった。
暫くすると救急車のサイレンが聞こえてきた。
来ないでくれと願っていた新しい依頼。
学校で会話が出来る友達と言って良いのかは分からないけれど、一緒に授業をサボったり、昼休みに他愛もない会話が出来る存在が出来た。
どうか、この大切な存在だけは傷付きません様に……。
久し振りに感じた「楽しい」「嬉しい」の感情。この感情を感じてしまった私への罰だ。
願いは虚しく依頼が来た。
そこで私は初めて「失敗」し逃げ帰って来た。
家へ着くと怪我をした場所が酷く痛む。そこで浮かんだ考えは「このままずっと独りで居たらもう誰も傷付けずに済む」それが例え自分が死ぬ事に直結していても構わないと思った。
携帯の電源は依頼を受けた後に落とした。
学校へ行く事はもうないだろう。最期にまた話がしたかったな。浮かぶ顔があったが、私には望んではいけない事だと言い聞かせて家に入ると数歩歩いた所で倒れ込んでしまった。
嗚呼、やっと楽になれる……私が居なくなったら誰か何か想ってくれるのだろうか……薄れゆく意識、朦朧とする意識の中で独り考えていた。
どれ位の時間が経ったのかも現実の出来事なのかも判断出来なくなっていた時に、もう一度聴きたいと思っていた声が聞こえた。
病室にてオレと山本は沢山の管を繋がれて眠っている様子をただただ見守る事しか出来なかった。
命に別状はないが発見が少しでも遅くなっていたら危険な状態だったと聞いた時は様子を見に行って大正解だったとホッとした。
「良かったな、様子を見に行って。」
「ああ。」
「コイツ、死にたいって言ったよな……獄寺は何か知ってるのか?」
「いや、詳しい事は何も……ただ……」
「どうした?」
「昔のコイツとはまるで別人になってた。昔はおてんばな子供だっだんだ。何があって人格が変わっちまったのかは分からないが……」
「そうなのか……。最初はさ、人を近寄らせない様なオーラを放って誰とも仲良くしようとしなかったんだ。でも、オレはコイツに興味があったから勇気を出して話し掛けてみた。そしたら意外にも話しやすい奴だって分かってさ。獄寺が転校して来た日からはもっと話やすくなっていって……何かが変わったって思ってた。でもオレ達はコイツが抱えているものを全く知らなかったんだな。」
「昔から気が強くて同い年の男相手にも喧嘩となると殴られようが痛いなんて言わない奴だった。弱音を吐いた姿なんて見た事がなかったからコイツは強い心を持っている奴だって勝手に思っていたが、誰よりも繊細な心の持ち主だったんだな。」
「抱えている物の少しでもオレ達に任せてくれて良いのにな。」
「オレ、後悔したんだ。もしも本当にコイツがあのまま死んじまったら名前さえ呼ばずに終わっちまうと思ってよ。」
「獄寺は不良少女って呼んでたもんな。獄寺だって不良のクセに。」
「今更名前で呼ぶのは照れ臭くてよ……素直になれなかった。だからコイツを名前で呼んでいる山本が正直羨ましかった。」
「目が覚めたら名前を呼んでやれよ。喜ぶと思うぜ?」
「馬鹿にされそうだけどな。」
「それはそれで良いじゃねえか。」
「確かにな。」
「実を言うと獄寺が転校して来た日に麻実と獄寺が知り合いだったって事にオレ、すげー嫉妬しちまってさ。もしかしたらオレが知らない姿を沢山知ってるんじゃねーかと思ってな。」
「やっぱりそういう事だったのか。山本も。」
「も、って事は獄寺もか。」
オレは返事が出来ずに居たが山本は全てを悟ったらしい。
「目が覚めたら。正式なライバルだな。悪いけど負けるつもりはねーから。」
「上等だ。」
「今のオレ達の関係が崩れんのは嫌だけどな。」
「それはそうだな。だが、譲らねえぞ。」
「これでコイツがオレ達二人のどちらかじゃなくて全然違う奴と付き合ったりしたら、とんだ咬ませ犬もいいところだよな。」
「それは確かに。ま、そん時は惨めな男二人で傷の舐めあいをするしかねーな。」
「笑えねえ冗談にならない様にはするからよ。」
「オレもだ。覚悟しとけ。」
段々と意識が鮮明になってきた。
そして薄っすらと聞こえる大切な声。
夢だろうか……私の大切な存在の姿が徐々に見えてきて私は「もっと生きたい」と言う初めての感情を抱いていた。
大切な人達とこれからもずっと居たいし、年頃らしく恋愛もしてみたい。
許されるならば……彼だったら私の闇も何もかも受け入れてくれそうな気がする。
私を「普通の女の子」に近付かせてくれて有難う。
今はまだ眠気が酷いから、ちゃんと目が覚めたら感謝と謝罪を伝えよう。
そしてまた名前を呼びたい。
出席を取る際に無断欠席だった様で交流があるオレと十代目と山本に事情を知らないかと担任に訊かれたが誰も知らなかった。
一応オレ達三人は不良少女の携帯の番号とメールアドレスを知っていたので連絡を入れてみたが返信はない。どうせ只の気紛れだろう。
しかし、それから一週間アイツは学校を休んだ。
担任に溜まったプリントを届ける事と様子を見て来てくれとオレと山本が頼まれた。
アイツはオレと同じく一人暮らしをしている。
住所を書いた紙を渡されてマンションを訪ねた。
チャイムを押しても反応がない。居ないのか?すると山本が「あれ?鍵が開いてる。」
と言った。
オレ達は一応「お邪魔します」と小さく言ってから扉を開けた。
部屋の中は暗く、差し込む太陽の光で室内が見渡せた。
玄関から少し進んだ所で衝撃的な光景が飛び込んできた。
うつ伏せに倒れている不良少女。オレ達は慌てて駆け寄った。
「おい、大丈夫か?!」
「救急車だ!」
「意識はあんのかよ?!」
慌てふためくオレ達に「救急車は呼ばなくていい……。このまま……」と無意識の様に呟く不良少女……「おい、怪我してんじゃねえか!」「今救急車呼ぶからしっかりして!」
「これで良い……。このまま死ねるのなら……」ぼんやり呟く声に思わずオレは「死にたいなんて言うんじゃねえ!お前が死んだら悲しむ人が居るんだ!」と叫んでしまった。
暫くすると救急車のサイレンが聞こえてきた。
来ないでくれと願っていた新しい依頼。
学校で会話が出来る友達と言って良いのかは分からないけれど、一緒に授業をサボったり、昼休みに他愛もない会話が出来る存在が出来た。
どうか、この大切な存在だけは傷付きません様に……。
久し振りに感じた「楽しい」「嬉しい」の感情。この感情を感じてしまった私への罰だ。
願いは虚しく依頼が来た。
そこで私は初めて「失敗」し逃げ帰って来た。
家へ着くと怪我をした場所が酷く痛む。そこで浮かんだ考えは「このままずっと独りで居たらもう誰も傷付けずに済む」それが例え自分が死ぬ事に直結していても構わないと思った。
携帯の電源は依頼を受けた後に落とした。
学校へ行く事はもうないだろう。最期にまた話がしたかったな。浮かぶ顔があったが、私には望んではいけない事だと言い聞かせて家に入ると数歩歩いた所で倒れ込んでしまった。
嗚呼、やっと楽になれる……私が居なくなったら誰か何か想ってくれるのだろうか……薄れゆく意識、朦朧とする意識の中で独り考えていた。
どれ位の時間が経ったのかも現実の出来事なのかも判断出来なくなっていた時に、もう一度聴きたいと思っていた声が聞こえた。
病室にてオレと山本は沢山の管を繋がれて眠っている様子をただただ見守る事しか出来なかった。
命に別状はないが発見が少しでも遅くなっていたら危険な状態だったと聞いた時は様子を見に行って大正解だったとホッとした。
「良かったな、様子を見に行って。」
「ああ。」
「コイツ、死にたいって言ったよな……獄寺は何か知ってるのか?」
「いや、詳しい事は何も……ただ……」
「どうした?」
「昔のコイツとはまるで別人になってた。昔はおてんばな子供だっだんだ。何があって人格が変わっちまったのかは分からないが……」
「そうなのか……。最初はさ、人を近寄らせない様なオーラを放って誰とも仲良くしようとしなかったんだ。でも、オレはコイツに興味があったから勇気を出して話し掛けてみた。そしたら意外にも話しやすい奴だって分かってさ。獄寺が転校して来た日からはもっと話やすくなっていって……何かが変わったって思ってた。でもオレ達はコイツが抱えているものを全く知らなかったんだな。」
「昔から気が強くて同い年の男相手にも喧嘩となると殴られようが痛いなんて言わない奴だった。弱音を吐いた姿なんて見た事がなかったからコイツは強い心を持っている奴だって勝手に思っていたが、誰よりも繊細な心の持ち主だったんだな。」
「抱えている物の少しでもオレ達に任せてくれて良いのにな。」
「オレ、後悔したんだ。もしも本当にコイツがあのまま死んじまったら名前さえ呼ばずに終わっちまうと思ってよ。」
「獄寺は不良少女って呼んでたもんな。獄寺だって不良のクセに。」
「今更名前で呼ぶのは照れ臭くてよ……素直になれなかった。だからコイツを名前で呼んでいる山本が正直羨ましかった。」
「目が覚めたら名前を呼んでやれよ。喜ぶと思うぜ?」
「馬鹿にされそうだけどな。」
「それはそれで良いじゃねえか。」
「確かにな。」
「実を言うと獄寺が転校して来た日に麻実と獄寺が知り合いだったって事にオレ、すげー嫉妬しちまってさ。もしかしたらオレが知らない姿を沢山知ってるんじゃねーかと思ってな。」
「やっぱりそういう事だったのか。山本も。」
「も、って事は獄寺もか。」
オレは返事が出来ずに居たが山本は全てを悟ったらしい。
「目が覚めたら。正式なライバルだな。悪いけど負けるつもりはねーから。」
「上等だ。」
「今のオレ達の関係が崩れんのは嫌だけどな。」
「それはそうだな。だが、譲らねえぞ。」
「これでコイツがオレ達二人のどちらかじゃなくて全然違う奴と付き合ったりしたら、とんだ咬ませ犬もいいところだよな。」
「それは確かに。ま、そん時は惨めな男二人で傷の舐めあいをするしかねーな。」
「笑えねえ冗談にならない様にはするからよ。」
「オレもだ。覚悟しとけ。」
段々と意識が鮮明になってきた。
そして薄っすらと聞こえる大切な声。
夢だろうか……私の大切な存在の姿が徐々に見えてきて私は「もっと生きたい」と言う初めての感情を抱いていた。
大切な人達とこれからもずっと居たいし、年頃らしく恋愛もしてみたい。
許されるならば……彼だったら私の闇も何もかも受け入れてくれそうな気がする。
私を「普通の女の子」に近付かせてくれて有難う。
今はまだ眠気が酷いから、ちゃんと目が覚めたら感謝と謝罪を伝えよう。
そしてまた名前を呼びたい。
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