八番目の王女殿下
そんな彼らの傍では、薄黄色のシルクのドレスを身にまとった少女が俯いていた。デニア王国の末子、第八王女のウェルティルナ王女である。
国王は3人の妃をもっているが、なぜか生まれた子は全員女の子であった。ウェルティルナの姉は、王位継承権を持つ第一王女エカテリーナ以外全員が他国へ嫁いでいる。
ウェルティルナは、八人目の王女ではあるが、彼女の母は今は亡き正妃である。そのため、デニア王が手放したがらず、未だ嫁に出すことなく大切に育てられている。
彼女は、島嶼地域では非常に珍しいストロベリーブロンドの髪を腰のあたりまでのばしている。知性を称えた神秘的で大きな青い瞳は海の色をそのまま溶かしたようだと謳われ、透き通るような白い肌は白浜のよう、頬と唇は珊瑚のよう――とにかく、大変な美貌の持ち主である。そして彼女は神殿の巫女でもあるため、民からは「海の女神の化身」と慕われている。
「ウェルティルナ」
「はい、お父さま」
「お前の力を使って欲しい」
「はい。エカテリーナおねえさまと、アレク王子殿下の行方を捜すのですね」
うむ、と、父王が重々しく頷く。それまで宰相に向けていた鋭いまなざしがふと柔らかくなり、ウェルティルナを見る。
「そなたの体力を著しく消耗させることであるのはわかっておるが……今は、そなたの力に頼るしかない」
わかっております、と、ウェルティルナは頷いて立ち上がった。
「宰相さま、お願いがございます」
「なんでしょうか」
「アレク王子殿下が身につけていたものを貸して頂けますか?」
は? と、宰相が首を傾げた。
「えっと、その……お国から身に着けていらした、お洋服や装飾品の類で構いません。王子の気配をたどるために使いたいのです」
「ああ、それは構いません。乳母か王子付きメイドなら知っているでしょうから……しかし、あなたが気配をたどる、と?」
「はい」
「失礼、王女。私は呪術や魔術の類は少しばかり知識がございますので、そのような大技があることも、こちらの国の女性は魔力を持って生まれることが多いということも存じております。が……それは太古の術、今では使い手も数少ないと……」
ウェルティルナは気を悪くしたふうもなく、穏やかに微笑んだ。
「はい。古の術でございます。わたくしは幼いころより魔力が桁外れに高く、父が城下に招いてくださったラオル老師について修業をつみました」
ウェルティルナは、空中に次々と映像を投影して見せた。幼いウェルティルナがたいへんな魔力を秘めていることがわかるシーン。成長し、両親に連れられて老師のもとへ挨拶に行くシーン。師とともに修行に励むシーン。
「ラオル老師……本当に……」
ラオル老師。近隣で名を知らぬ者はいない伝説の大魔導士である。年齢はゆうに百を超え、杖を持てば癒し系魔法、攻撃系魔法、特殊系魔法すべてを使いこなし、水晶玉を覗けば明日の天気から天変地異、果ては開戦したばかりの戦の行方など彼に読めぬものはないと言われる。
「師の教えで、日常生活では術を使うことはありません。出来る限り魔術に頼らず、魔力など持ち合わせていないかのように暮らすように、と教わりました」
「左様、それはとても大切な教えです。魔術を悪用されてはならない――」
こくり、とウェルティルナが頷く。
「大掛かりな術になります。わたくしはこれから神殿に戻って準備を致します。宰相におかれましては……王子殿下の私物を、神殿までお届け頂けますか?」
「承知いたしました。頼みましたぞ、ウェルティルナ王女」
国王は3人の妃をもっているが、なぜか生まれた子は全員女の子であった。ウェルティルナの姉は、王位継承権を持つ第一王女エカテリーナ以外全員が他国へ嫁いでいる。
ウェルティルナは、八人目の王女ではあるが、彼女の母は今は亡き正妃である。そのため、デニア王が手放したがらず、未だ嫁に出すことなく大切に育てられている。
彼女は、島嶼地域では非常に珍しいストロベリーブロンドの髪を腰のあたりまでのばしている。知性を称えた神秘的で大きな青い瞳は海の色をそのまま溶かしたようだと謳われ、透き通るような白い肌は白浜のよう、頬と唇は珊瑚のよう――とにかく、大変な美貌の持ち主である。そして彼女は神殿の巫女でもあるため、民からは「海の女神の化身」と慕われている。
「ウェルティルナ」
「はい、お父さま」
「お前の力を使って欲しい」
「はい。エカテリーナおねえさまと、アレク王子殿下の行方を捜すのですね」
うむ、と、父王が重々しく頷く。それまで宰相に向けていた鋭いまなざしがふと柔らかくなり、ウェルティルナを見る。
「そなたの体力を著しく消耗させることであるのはわかっておるが……今は、そなたの力に頼るしかない」
わかっております、と、ウェルティルナは頷いて立ち上がった。
「宰相さま、お願いがございます」
「なんでしょうか」
「アレク王子殿下が身につけていたものを貸して頂けますか?」
は? と、宰相が首を傾げた。
「えっと、その……お国から身に着けていらした、お洋服や装飾品の類で構いません。王子の気配をたどるために使いたいのです」
「ああ、それは構いません。乳母か王子付きメイドなら知っているでしょうから……しかし、あなたが気配をたどる、と?」
「はい」
「失礼、王女。私は呪術や魔術の類は少しばかり知識がございますので、そのような大技があることも、こちらの国の女性は魔力を持って生まれることが多いということも存じております。が……それは太古の術、今では使い手も数少ないと……」
ウェルティルナは気を悪くしたふうもなく、穏やかに微笑んだ。
「はい。古の術でございます。わたくしは幼いころより魔力が桁外れに高く、父が城下に招いてくださったラオル老師について修業をつみました」
ウェルティルナは、空中に次々と映像を投影して見せた。幼いウェルティルナがたいへんな魔力を秘めていることがわかるシーン。成長し、両親に連れられて老師のもとへ挨拶に行くシーン。師とともに修行に励むシーン。
「ラオル老師……本当に……」
ラオル老師。近隣で名を知らぬ者はいない伝説の大魔導士である。年齢はゆうに百を超え、杖を持てば癒し系魔法、攻撃系魔法、特殊系魔法すべてを使いこなし、水晶玉を覗けば明日の天気から天変地異、果ては開戦したばかりの戦の行方など彼に読めぬものはないと言われる。
「師の教えで、日常生活では術を使うことはありません。出来る限り魔術に頼らず、魔力など持ち合わせていないかのように暮らすように、と教わりました」
「左様、それはとても大切な教えです。魔術を悪用されてはならない――」
こくり、とウェルティルナが頷く。
「大掛かりな術になります。わたくしはこれから神殿に戻って準備を致します。宰相におかれましては……王子殿下の私物を、神殿までお届け頂けますか?」
「承知いたしました。頼みましたぞ、ウェルティルナ王女」
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