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女神の告げる未来は重く苦しい。

ジャンル: ハイ・ファンタジー 作者: 日南れん
目次

島の城にて

一週間ほど前から降りっぱなしの雨は、まるでその国の未来を暗示しているかのようで不安と不吉さで重苦しかった。

ファルデニア海に浮かぶ大小さまざまな島を領土とするデニア国。建国数百年を誇る古い国である。

かつて近隣諸国を恐怖のどん底に陥れた大海賊が国を興したという。
方々から奪ったお宝を元手に海賊砦を堅牢な城へと改築し、人望厚く知性と武勇両方を兼ね備えていた海賊のキャプテンが王となり、荒くれものどもが臣下となり、各地で攫われた人質たちが住人となったと言われている。

その名残だろうか、城は質素で無骨だ。尖塔やアーチや飾り窓といったものは必要最低限、そのかわり堀や物見やぐら、砲台といったものが備えられている。その城を中心にして城下町は整然と広がっている。当然、そのような『国』を認めず攻め寄せてくる国も多数あったと聞くが、なにせ海賊、ご上品な『国の正規軍』に負けるような連中ではなく、ことごとく敵を退けて、めでたくデニア国建国と相成ったのである。

防具や武具や馬具を専門に扱う店がやたら多いのが海賊砦の名残、そのほかはいたって普通の町、今では住人も家臣も海賊の名残は皆無である。


その中心部に聳える王城の『御前会議の間』は、いつになくピリピリとしたものが漂っていた。

「デニア王、これはどういうことなのかご説明頂きたい」

詰め寄るのは、陸の大国グーゼレン王国の宰相だ。ひょろりとしたやせ型の男で、灰色の髪と灰色の髭に灰色の服を着ている。そのためか、なんとなく印象が薄いが、口を開けばやかまし――いや、有能である。

長年にわたり敵対関係にあった両国の関係改善をはかり、王族同士の婚姻による同盟までとりつけたのはこの宰相の手柄である。そして、国から取り巻きをごっそり引き連れた王子が『婿入り』してきたのは、二十日ほど前だっただろか。

その宰相が、血相をかえて喚いているのである。

「知らぬ!」

「王たるものが、言い逃れをするおつもりか」

「知らぬから知らぬと申したまで。貴国こそ、王子をかような野蛮な小国と結婚させるのが惜しくなって隠したのではないか?」

「左様なことをするわけがない!」

国王と宰相がにらみ合う。まさに一触即発の雰囲気である。

無理もない。

2日後に挙式予定の二人――グーゼレン王国の第三王子と、この国の第一王女エカテリーナ、二人が忽然と姿を消してしまったのだ。今朝は、二人睦まじく城下を散策する姿が目撃されているが、底から先、ぷつんと足取りが途絶えてしまった。

これは一大事である。婚姻による同盟のため、結婚が中止になれば両国の同盟は破棄されてしまう。さほど広くない城下町、両国の兵士や人間が総出で探したが、見つからない。

何らかの陰謀では、と、互いの胸に暗い炎が灯るのも無理はなかった。
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