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ムシウタ。夢蕩かす弾丸

原作: その他 (原作:ムシウタ。) 作者: ザジデン
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連続殺人犯

 一号同士の争いから数日経った。特環は一号同士の戦いを、ガス会社の事故として処理したようだ。警察と消防がそれぞれ市民を非難させていたからか、被害は最小限に住んだらしい。人々は切り取られたメディアでしか事実を確認することができない。だから、ガス事故として報道されれば、それを信じるしかない。それが幸か不幸か、純には分からない。もし、事実を知ってしまえば、それこそ世界の深淵に踏み入れることに他ならないからだ。

「物騒な事件だねぇ」

 レポートを斜め読みしている六花が助手席で声を上げる。先程警察署で手渡された書類には大きく“極秘事項”という赤文字が躍っている。一枚目には学生服を着ている少年の写真が写っている。レポートにかかれている年齢とは10も違うように見えるので、おそらく、最新の写真がそれしかないのだろう。

「そいつの探索に加わるってことは、虫関係か?」

「おそらくね、こんなホトケさんの作り方、虫でなきゃおかしい」

 海風にあたりながら、車は走っている。まだ時間が早い頃なので、下りの車線はガラガラになっている。レポートにかかれている名前は相馬憲伸。歳は35。半年前に急に会社を退職した後は、引きこもり傾向があり、激昂や自傷行為を繰り返すなど躁鬱症状がみられる。両親は医療機関への受診を勧めるも、当人はこれを拒否。実家に戻ってくるものの、食事をとることも最低限であった。

「でも、おかしいな」

「なにが? 何か引っかかることでもあんのか?」

「ホシさんの年齢だよ」

 ペットボトル飲料を飲みほし、六花はレポートの写真をなぞった。

「虫憑きは基本思春期の青年少女に憑りつくものなの。それなのに、この人が虫に憑かれたと思われるのつい最近の事なの。珍しい事だと思うな」

「お前の事例があるだろうが」

「いや、私のは結構特例中の特例」

 皮肉が分かったのか、六花はケラケラ笑いながら手を振った。純は面白くない、と思った。なんにしても真剣みの足りない女だ。堅物は堅物で困るのだが、それでも六花の呑気な雰囲気にはなれない。

 純は、サービスエリアへと車を進めた。

「休憩するか」

「いつも思うんだけど、私のかくれほ使ったら、普通に飛行機乗り放題だよ?」

「ばかいえ。おれたちゃ警察だぞ。そんな犯罪に片足突っ込めるか」

 料金所ガン無視ししたのはスルーなんだ、と六花は小さくつぶやいた。

「ねぇ、すみちゃん。すみちゃんが車にこだわる理由は何?」

 交通手段はいくらでもある。それなのに、純は頑なに車に乗ろうとする。船に乗る時も、わざわざ車を持っていくほどだ。飛行機や新幹線に乗るくらいなら、高速道路を何日もかけて移動する。車に乗っているときは、特に何も話はないので、六花としても不満ではなかったが、車にこだわる相方に疑問がわいた。

「教えねぇ、特におめぇにはよ」

「ひどいなぁ、結構付き合い長いのに」

 また、ケラケラと笑いだした六花を無視して、純はフードコートへと入っていった。慌てて六花もついて行く。

「ここのラーメン美味しいんだよねー」

「離れて食え」

「はぁ、すみちゃんはええかっこしぃだなー」

 そう言い、六花は遠くの席へとついた。六花は、しばらくすると、本を開き、読み始めた。最近はまっているという外国語学習の本だ。今日はイタリア語か。英語だけでもひぃひぃ言っている奴が何を読んでいるんだと思った。運んできた定食を純はかきこんだ。

「あと何年生きられるか分かんねぇのに、呑気なもんだな」

 虫憑きは超常的な能力と引き換えに、いつ死ぬかもわからない寿命を犠牲にしている。だから、虫憑きになった人間の多くは厭世的な態度をとったり、逆に軽く振る舞おうとする。六花は後者の代表的な例だと純は思っている。

「おい、そろそろいくぞ」

「はぁい」

 六花がサンドイッチをほおばると駆け足で純の後ろをついて行く。それからしばらく車を走らせると、黄色い表示がいくつも見られるようになった。特環によって交通規制がされているのだ。

「ここから先は許可がある車しか入れません」

 車を止めてきた係員に、六花はハナカマキリを自らの肩に出現させた。特環から支給されている証書はもっているのだが、六花は面倒臭がって出そうとしない。最悪の場合は家に置いてきている時だってある。

「了解しました」

 顔色一つ変えずに純たちを通してくれた。

「なんで、特環の奴だと思った?」

「あの人、虫憑きだからだよ。私と同じ分離型かな。ここまで近くなったら、もう普通の人は立たせられないよ。まだ、政府は虫を公言してないんだもの」

 どこから出したのか、棒付き飴をなめだした六花が言った。確かに、そろそろ目的につくころだ。六花もゲートを超えたあたりで、ハナカマキリを出現させている。いつ相馬が虫を仕掛けてきてもいいように警戒しているのだろう。

「たぶん、相手も気づいているんだと思うよ。すみちゃん、もう少し迂回して近づいた方がいいと思う。相手の能力がこれには書かれてないもの」

 いつもとは違う声色で六花が言った。レポートをさっきから食い入るように見つめている。戦うための下調べ、といったところだろう。迂回してほしい、というのにはもう少し時間が欲しい、ということも含まれている。

「あいよ」

 純は短く答えると、右折するはずの道をわざと直進した。
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