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鍵を拾った少年

ジャンル: ホラー 作者: ファンシーホラー
目次

第二十四話

「昨夜に続いて、連続でお邪魔してしまいまして………」
親しき仲の礼儀と言うやつだ。息子といっていい年齢の若者が、お辞儀をして、庭に現れた。
体格がよいために、遠くからでも足音で気付く。
しかし、老人はあまり社交的ではない。様々なことがあり、人と関わることが、面倒になっていたのだ。
今は、そうも言っていられないだろう。足跡は、ごっついものだけではなかった。
「こんにちは」
「どうもっス」
「おじゃまします」
三人組が、現れた。
そういえば、学生が帰ってくる時間だ。
やや不機嫌そうに、老人は口を開く。
「なんだ、ここは子供の遊び場じゃねぇぞ。遊ばせるなら、どっか他でやってくれ」
彼らがそろって現れた理由は、そんなものではない。明確に予感しながらも、老人はぶっきらぼうに告げた。それは、かれの性格でもアリ、もしかして、どこかで誰かが聞いて入るかもしれないという、偽装も含まれていた。
偽装が、もはや日常だった。
まぁ、扉を含めた、色々な絵が飾られているのだ、見る人が見れば、関係者と分かる。
ここ数十年、現れたのは全て、味方ばかりであることから、敵はもう、忘れているのかもしれない。そう思っていてもだ。
「にゃぁ~………」
猫が、気まぐれに現れた。
少年は、また走り出すのか。さして期待していたわけでないが、様子を眺めていた。
………案の定、走り出していた。距離は、昨日ほどではなかった。
「ん、アイツはどうしたんだ?」
「先生、聞いてませんか、アイツ、『ダマ』って化け猫と追いかけっこして以来、ああなんです」
「って言っても、ここ最近の話ですし、もうすぐなれるでしょう」
辛らつに聞こえるのは、気のせいか。あるいは、異常な事態が日常になって、麻痺しているのだろうか。
しかし、その上を行くのが老人だ。
長く生き、多くを見て、聞いて、苦しんで、もはや多少のことでは動揺しない。人に自慢するつもりもないが、本人は悟ったつもりでいたのだ。
投げ出しだけだという、時折聞こえる自分の声も、無視できるほどに。
のんびりと、駆け出した少年が、とぼとぼとこちらに向かうのを眺めていた。
「はぁ、はぁ………これ………きっと、その続き………」
老人は、腰を抜かすほど、驚いた。
その文字は、毎日読み返す娘の筆跡であった。

月が、だいぶ満月の形から遠ざかってきた。
惜しいことだ、二つとも満月になることなど、めったにないのだ。体外、どちらかが満月でも、どちらかがかけているのだ。
言いや、だからこそ珍しく、『月の狂宴(きょうえん)』と、言い習わされてきたのだ。
言葉として、そして、魔力にいざなわれて、魔物と呼ばれる色々が、あふれることからも。
その月がはっきり見える時刻になっていた。
「おまえ………いったいどうするつもりなんだ」
遅い帰り道、友人が訊ねる。
管理人の老人の自宅からの帰り道、体育教師はいったん学校に戻るといっていたが、自分たちは学生だ。もう帰る時間も遅いのだ。
最近、朝から夜に、働きどおしで、休みたいのだ。
「………わからない」
少年は、はぐらかしたのではない。本当に、分からないのだ。
気分としては、新しい世界を知ってしまった。正しくは、過去の争いの結果、なかったことにされた世界を、ということになる。
二百年以上前の、この土地にあった帝国が崩壊した原因、戦争。
その結果、神殿を含めた、文化がことごとく破壊された。
歴史の授業で学ぶのは、ここまでだ。進歩を阻む勢力と、進める勢力の戦いは、進歩の勝利に終わったと。
結果、御伽噺や伝統など、アリもしないものを信じ、おびえることはないと。
それは単に、戦争に勝利した側により、奪われただけだと知ったのだ。
知ったなら、では、どうする。
少年は、本当に分からなかった。
先輩が、先輩面で言った。
「おまえたちはまだ一年生なんだ、あせらなくていいさ。俺もまだあせるつもりもない」
言いながら、先輩は何かを、すでに決めているように見えた。管理人の老人に、後継者がいなくなれば、あの学生アパートはどうなるのかと、訊ねていたのだ。子供が心配することではないと、老人は受け流していたが、おそらく………
ただ、今はもっと話すべきことがあった。
「ところで………あの葉っぱみたいなので出来た本………どう思います」
託された本の話だ。
そして、管理人である老人に預けてきた。
老人あてではないが、老人に当てたものだと分かる文面も、ちらほらあった。
二十年ぶりの、娘からの手紙である。
人の手紙を見せられた気まずさもあったが、それ以上に、それだけではない、誰かに向けられた、継承者へ向けられた言葉も、たくさんあったのだ。
少年は、内容を思い出す。
「新しい発見しかない。御伽噺の中にいるようで、ここはここで色々大変だけど、ないことにするには、あまりにもったいない。いつかきっと、みんなも分かる――って事だったな」
「しっかし………思い切ったもんっスよね。故郷からここに来るのだって、俺たち大冒険って気分だったんスから。それが、もっとずっと遠くって………大人って、すげぇ」
友人が、気もなく言った。
こういう人もいるんだ、すごいな。
そんな感想なのだ。巻き込まれたからここにいるが、深みには進まないと、すでに決めているようだ。
「きっと、『転校生』の友人だった『アイツ』って呼ばれた人………その人はもっと遠くに、もっと色々を知っているんだろうな」
先輩は、月を見上げた。
つられて、少年と友人も見上げる。
「長生きなんだ、きっと『転校生』も、『アイツ』って人に会えるさ」
「ですね」
「っスね………」
そのときは、あの扉はどうなるのだろうと、ふと思った。
好奇心のままに、こちら側に顔を出し『転校生』と言う噂を生み出した人物だ。
それも、二度も。
なら、あの場所を放置して、どこかに旅立つ事もあるのではないか。番人を失った門はどうなるのか。
あちらとこちら、赤の鍵を持つ番人と、青の鍵を持つ番人。
青の鍵を持つ一人として、少年は、今がもしかすると、最後の機会なのかと思い始めていた。
わずかながらに気付いた『アイツ』や、管理人の老人の娘さん、そして、神官の末裔。
身近にこれだけ入るが、これだけかもしれない。
迷っているといいつつ、進路はすでに、固まりかけていた。
故に、心をよぎるものが合った。
「どちらにしろ、用心しないと………僕たちの動きを嫌がる人たちって、色々いるから」
「はぁ………それだよ、それ………なんか用事作らないといけないって」
「かつては、学校の不祥事の噂を隠れ蓑にしたんだ。今回も何か………って、それが昨日の罰清掃だったな」
笑い合った。
今はまだ、気ままな学生三人組。
一人は先に離れてしまうが、すぐに新しい仲間が入ってくる。
学生アパートは格安なのだ。そして、代々いたずらと言う歓迎式が待っている。
学校の噂が耳に入るほど、暮らしになれた頃には、今度は自分たちが明かそう。
『第四資料室』の噂話の、真相を。
そして………
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