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鍵を拾った少年

ジャンル: ホラー 作者: ファンシーホラー
目次

第二十五話(完)


「にゃぁ~、ごぉおおおおおっ」
化け猫の『ダマ』が、歓喜の叫び声を上げていた。
そして、疾走していた。
背中に、二人を乗せて。
「いけぇ、いけぇ~っ」
楽しそうなのは、女の子。
フード付のマントが、風に激しく舞い踊っている。
「ははは、猫?これで、猫?」
大変楽しそうな女性もいた。
大人の女性といったところだ、二十歳を少し越えたあたりだろう。実年齢は違っても。
そして、少年もそこにいた。
まだ少年と呼ばれてもいいが、学生と言う身分は終わりを迎えようとしている。今日はその報告のために、ここにいた。
今は、再会した友人の語らいと言うか、化け猫ロデオ?の真っ最中だ。

十数分後………

「まったく、頑固親父なんだから、うちの父は。ダマだって、ちょっと大きくなっただけなのにねぇ」
巨体に全身を預けて、リラックスしている女性が、少し懐かしそうに笑う。
悲しみも、少しは含まれているのだろう。それでも、気持ちが通じていると、少年に聞かされたのだ。もう、満足らしい。
「にゃぁ~………ごぉ」
懐かしいご主人の隣で、化け猫『ダマ』も、満足そうだ。
そしてもう一人の女の子は、すやすやとお昼寝中だ。
子供はすぐに元気を取り戻し、そして調子に乗って、すぐに眠るものだ。
きっとまだ、何十年もこの光景は変わらないだろう。
少年の姿も、いずれ変りにくくなる。
成長が、遅くなると言い換えるべきだ、ここは不思議な場所である。
怪奇現象と呼ばれる、様々な色々が、日常の場所である。
確かに、もう戻れないという恐れは、とても大きなものである。
しかし、世界が元に戻れなくなるという恐れに比べれば、なんら迷うこともない。知ってしまった、巻き込まれてしまった、では、どうする。
選択肢は、選択肢と呼べるものがある今は、まだ幸せなのだ。
「やぁ、相変わらず人で遊んで………困った子だ」
珍しい。
本を片手に『転校生』が現れた。
自分が言うのもおかしいが、草原に制服姿であるのは、似つかわしくない。
言いながら、自分も制服だと思い出す。
もう一人は、違っていた。
「やぁ、それがずっと言っていた『ダマ』か………管理人さんの家にあった絵は見ていたけど、ずいぶんと育ったんだなぁ………」
色々、達観としている。
作業着姿の若者は、先輩であった。
学校は卒業して、もう何年にもなる。今は学生アパートの管理人の後を継ぐべく、経験を色々つんでいる最中らしい。
とりあえず、建築に進んだようだ。
「ところで、もう一人………」
少年が周囲を見回すまでもなく、背中を影が覆った。
人でありながら、これほど影を落とす人物は、一人しかいない。
「おう、ここだ」
神官の末裔である、体育のバカ力だった。
絶対に誰も信じないだろう、だからこそ、隠れて生き延びてきたのだ。そして、自分たちもそうしなければならない。世界には、不思議などないことにされたのだから。
「って、その格好で学校の旧校舎に?」
驚いた。
少年は、言葉と態度で驚きを表していた。
何をどう間違えたのか、その姿は、何事だ。はちきれそうと言うより、すでにところどころ千切れかかっている、学生服姿であった。
「いやぁ、ちょっと卒業記念だとかで、遊ばれてな。一生に一度だから、まぁいいと、先生方にも大好評だったよ………ほら」
言って、二の腕を曲げた。
すでに引きちぎれていた袖が、もう少しだけ、引きちぎれた。
哀れだと、服に同情したかった。だが、どうせ作業着と言うより、ゴミになる予定の品らしい。わざと敗れやすい服を着た、パフォーマンスだ。
体格に自慢の有志に、混じったという。
後夜祭などと言う、しゃれたものはないのだが、こういった、最後のお願いと言う行事は、あるのだ。
体育会系でないため、普段は接点がないために、見逃したようだ。
卒業生の一人として、少し寂しいながらも、その最後の輝き………残骸?は見せてもらった。
「ところで、おまえらは三人だったろ。あの………二年生になってから、急に委員会活動に活発になったアイツ、ほれ、生徒会長の」
少年の友人は、結局あれ以来こちら側に来ることはなかった。
代わりに、何かを決めていたのだ。生徒会長にまで上り詰めた今は、失われた歴史の発掘と歌って、各地の遺跡跡の再評価に忙しい。
それは、大人たちにもどうやら好評のようで、将来は学者になるべく、進学が確定している。
貧乏アパート初の快挙だと、大いに驚かれているが、一番驚いているのは、友人である自分たちであった。
怪奇現象は、確かに恐ろしく、怪奇現象だ。
だが、出会ってみると、それはただの現象だ。
少年は、そう割り切ったつもりでも、気になった。
「なぁ、最初に鍵を作ったのって、誰なんだ。そう簡単にさび付いたりしないだろうに、これっていったい、いつ作られた?」
ぶら下げていた鍵を、見せた。
体育教師のバカ力の首にもかけられている、赤色は、女の子の首に、『転校生』の首にと、かけられている。
「伝わっていないんだ。きっと、俺たちのように、自然に集まった誰かが作ろうとして、作ったって所だろうけどな………神官の子孫同士のつながりも弱い、まぁ、弱いほうがいいか」
「でも、そのうち分かりませんよ。生徒会長の次は学者で、人気が出たら、過去の再評価って動きが、世界中で動くかもしれませんし。こっちみたいに」
言いながら、遠くを見た。
ここは草原だ。
それも、森の中の草原ではなく、森を出た草原だ。
あの赤い扉のある、ぽつりと拓かれた草原に向かうには時間がかかるが、遊びまわるにはここがいい。
広い草原であれば、遠くから誰かが歩いてくれば、気づくこともできる。誰か、まではわからない。
一人を除いて。
「あぁ………『アイツ』だ、間違いない」
『転校生』が、大切にしていた本を落とした。
間違いないようだ。
「ほんとうに、不思議ですよね」
「はは、ほんとうだ」
未知は、まだまだ未知のままだ。
そしてこの先は、もっと分からないと、ともかく久々の再会を、一同分かち合っていた。


おわり

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