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鍵を拾った少年

ジャンル: ホラー 作者: ファンシーホラー
目次

第二十二話


心臓が止まるほど、びっくりする。
少年はその事態に、すでに遭遇しているはずだった。満月の夜に、古びた鍵を拾ってしまってから、その連続のはずだった。
まだまだ、甘かった。
寝起きの少年は、知った。
瞬間、ぎょっとして全ての思考が、動きが、停止する。
このことだと、知った。
「………本?」
目の前に、本が置かれていた。
なぜ気付かなかった、おなかの上にである。
感心にも、読書をしつつ、力尽きて眠ったのか。そんな読書少年ではないと、自分でよく知っている。
いやいや、更に驚くべき事態が、ある。
「………くぅ………くぅ………」
少年の隣では、女の子が眠っていた。
ご近所の子供が、勝手にやってきた。
印象としてはそうなのだが、この瞬間を正に、心臓が止まるほどびっくりする事態であった。
しわになっても知らないぞ。短いフード付のマントの女の子だった。
化けのこの『ダマ』に最近はよくまたがっている、あの女の子だった。
少年は、改めて見回す。
間違いなく自分の部屋だと、確認できている。
眠っているのだ。
眠っている間に、周囲があちらに向かったなどと言うことではなく、どういうことだ。
少年が、混乱している証であった。
そして、猫の鳴き声がしないか、数十秒、息を殺して、聞き耳を立てる。
結果、可愛らしい子供の寝息以外、一階の様子、そろそろ動き出す町の様子が、かすかに部屋に入ってくるだけであった。
少年は、思った。
怪奇現象が、日常になった。それはこういうことなのだと。
その後、少女のお目覚めを待つことも出来たが、まず少年は、起き上がる。
そして、洗面所に向かった。
一定時間すれば、消える。
そんなものではない、理屈も、理由も分からないが、ただそこにあるのだ。
青い扉が、そこにはあった。
「………どうしよ」
とりあえず、日常がまた一つ、崩れたことは確かなようだ。あちら側から、勝手に何かがやってくることはない。そう信じ込んでいたのだから。
しかし、それは間違いだと、冷静な自分が分析する。『転校生』の件で、すでに知っていたはずなのだ。大勢が目にするほどに『転校生』は学校を歩き回っていたと。
今度は、女の子が少年の部屋を我が部屋のようにする事態が発生したようだ。
まさか、学校に手をつないで連れて行く。そんな事態になりは住まいか、少年は大変、困ったことになったと思った。
目下のところは、寝起きのトイレが問題だった。

「だからってよ、オレんトコに来るか。しかも、窓から」
友人は、眠気眼で不平をたれた。
学生さん達は、疲れていたのだ。
まず、普段は目覚めることのない、早朝に起こされた不満から、言葉は始まった。
先日の大掃除の疲労が、たった一晩で取れることがないと、それももちろんだった。
しかしながら、一番のお疲れは、手にしている本だった。
「仕方ないだろ、眠ってたんだからよ」
少年は、さすがに悪かったと思いながら、手にしている本の文字を見る。
どこかで見た文字だと思ったのは、筆跡を即座に分析する特技を持っているからではない。
『赤い扉と、青い扉について』
表紙に書かれている題材が、自分たちの関わっている怪奇現象のことだと分かったからだ。
しかもそれを、あちら側からわざわざ女の子がもって来てくれた事態だ。
一刻も早く渡すべきだと思ったのか、頼まれたのか、初めてあちら側からやってきた。
『転校生』の話しを知っているのだ。なら、この事態を覚悟すべきであったのに、勝手に思い込んでいたのだ。
「起こせば早いんじゃないのか、こっちにわざわざ来たんだ。早く話をしたほうが言いと思ったからだろ」
先輩も、いた。
二人は共に一階に住まっている。少年が窓に回って、すなわち寝室側に回って友人を起こせば、それは先輩の部屋にも届くというものだ。
怪奇現象が日常になっている、その自覚と恐れは、あるいは先輩が一番強く抱いていたのかもしれない。単に、目覚めがよいだけかもしれないが。
「かわいそうだけど、起こしてやってくれ。この本の作者は、もしかするとこのアパートの管理人さんのお嬢さんかもしれない。面識がある女の子に、こっち側に持ってくるように頼んだ。そう考えるのが自然だろう」
しぶしぶ同意した少年は、ご機嫌を損ねないことを祈りつつ、女の子を起こした。
あちらとこちらで、昼夜が逆転していると、なんとなく察しはついている。なら今は、あちらではどの時間帯だ。
夕方から夜にかけての、いつものあちらに行く時間帯が、昼なのだ。なら今は、あちらにとって夕方から夜になっている時間帯ではないのか。
寝ぼけた頭で考えつつ、女の子を揺さぶる。
「んぅ………」
うるさそうに、寝返りを打つ。
そして、何かを探しているようだ。もしかしたら化け猫の『ダマ』かもしれない。
そして、ないことに気付く。
異変に気付く。
「ん………?」
少年は、可能な限りさわやかな笑顔を見せた。
次いで、女の子が持ってきただろう、本も見せた。
「おはよう、えっと………ボクにこの本、見せたかったのかな?」
可能な限り、さわやかな笑顔で、少年は訊ねた。
何が目的なのだ。
誰かに頼まれたのなら、いったい誰だ。
早く教えてくれ。
あせりながら、女の子のお目覚めを待った。

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