キャプテンの憂鬱
「麦わらたちの船から戻ってから、キャプテンが可笑しいんだ」
「可笑しいってか、上の空っていうか・・・」
「無理やり呼び戻したの、やっぱりまずかったんじゃない?」
そんなベポ達の会話が聞こえていないわけじゃない。
ただ、それに反応する気がないだけだ。
麦わら屋の船からの帰り際に、トニー屋が言った言葉が引っ掛かって仕方がない。
『俺にはあの傷を診せてくれない』
どういうつもりだと考えた所で、行動そのものが突飛な麦わら屋の真意など汲める訳がない。
そう分かっていても気になって、他の事が考えられないでいた。
「キャプテン、いつもなら行く前はウキウキして帰ってきたら寂しそうな顔してるのにね。」
「は?おい、ベポ。そりゃどういう意味だ。」
「へ?いやそのまんまの意味だけど・・・だってキャプテン、麦わらに会いに行くのいつも楽しそうに・・・」
「ベポ!余計な事言うなって!!」
「そうだそうだ!こーゆー事はちゃんと自分で気づかないと意味ないし。」
「シャチ、ペンギン、お前ら、それどういう意味だ。」
何か隠されている。
それにイラついたのは本当で、睨みを利かせれば慌てて逃げる連中を眉間に皺を寄せて追いかけた。
「・・・ちくしょう、あいつ等・・・後で覚えてろよ」
船の中を縦横無尽に逃げ回るベポ達を捕まえる事が出来ず、諦めて自室に戻ったのはあれから1時間もした後だっただろうか。
少しは頭もすっきりするだろうと風呂に入って寝床に横になった時には、もうすっかり夜中になっていた。
目を閉じればさすがに疲れていたのかすぐ眠りにつく事ができ、落ちるように闇の中へと沈んでいく。
「ねぇ、キャプテンまだ怒ってるかな。」
「ベポ、見てこいよ」
「やだよ!なんで俺が行かなきゃいけないの!」
「元はと言えばお前が口を滑らしたから悪いんだ!」
「だって、キャプテンが鈍いなんて知らなかったんだよ!」
ぎゃーぎゃー煩ぇな。
ドアの外で聞こえる声に深い眠りから半ば強制的に起こされ、窓から外を見ればまだ夜明け前。
この時点で額に血管が浮き出たのを自分でも感じたが、それよりもベポの言葉が気になって気配を殺してドアに近付いた。
「キャプテン、絶対麦わらの事好きだって見てるだけで分かったから、本人だってわかってると思ったんだもん」
「キャプテンは遊びならいいけど本気は分かんねぇんだって!」
「・・・おい、ベポもペンギンも、あんまり大声出すと・・・」
「大声出すと、なんだ?シャチ」
地を這うような低い声が、良く出せたものだと自分でも思う。
ベポとペンギンの頭にそれぞれ片手ずつ乗せて上から力を掛けると、青ざめた二人はゆっくりとこちらを振り返った。
「キ、キャプテン、あの、」
「うわーん!キャプテンがガチで怒ってるよー!!!」
「う、うるさいベポ!今はとりあえず静かに、」
「で?誰が、誰を好きだって?」
泣き出したベポをなだめようとしていたシャチに、我ながら凶悪になっているだろう笑みを向ければシャチも同じく青ざめて。
恐らく逃げる心配はないだろうと三人を廊下に正座させると、睡眠を邪魔した事への謝罪と先ほどの言葉の真意を問いただす事にした。
「・・・だって、キャプテン、麦わらの事好きなんじゃないんですか?」
「なんでそんなぶっ飛んだ話になんだよ。」
「見てれば分かるっていうか、特別扱いっていうか・・・」
「そうそう、だってキャプテン、一度診た人間をもう一回診るのって嫌がってたし。なのに麦わらには自分から会いに行ってまで診察してるし」
「っていうか、キャプテンの麦わらを見る目がすっごく優しいの、俺知ってるんだ。だから好きなのかなって・・・」
正座し項垂れる部下達を見下ろしながら、言われた言葉を整理する。
俺が、麦わら屋を、好きだ、と。
この三人はそう言っているのだ。
「・・・俺が、麦わら屋を・・・?」
冗談だろうと笑いたいが、笑えない自分が居る事に笑えない。
ガシガシと寝起きの頭を掻きむしって、船を飛び出したのは衝動的にだった。
「ほらー、キャプテン行っちゃったじゃん」
「仕方ねぇから、麦わら達のトコに連絡入れておいた方がいいんじゃね?」
「前にあの航海士の姉さんから、事前連絡ないと困るって怒られたし。」
「じゃぁベポ、連絡しといて」
「なんで俺!?やだよ!あの航海士、怖いんだもん!」
そんな会話があった事などつゆ知らず、ただ真っ直ぐに目指すのは前日に行ったばかりの麦わら屋の船。
「・・・・・お前なぁ、約束してから来いって言ったじゃねぇか!」
日が昇り始めた時間帯、その眩しさで影を作りながらサニー号の船首に仁王立ちしていた麦わら屋を見つけると、何も言わずに近付いた。
「お前のトコのクマ!連絡寄越してくれたけど時間考えろってナミに怒られてたぞ、可哀想に。で?俺に用事だったんだろ?何の用だよ、早くしねぇと朝メシになっちまうだろ!」
「お前はホント、メシの事ばっかりだな」
良く分からない焦燥も、ぐだぐだ考えていた女々しさも、こちらを見て変わらず笑う麦わら屋を見たら吹き飛んでいた。
「可笑しいってか、上の空っていうか・・・」
「無理やり呼び戻したの、やっぱりまずかったんじゃない?」
そんなベポ達の会話が聞こえていないわけじゃない。
ただ、それに反応する気がないだけだ。
麦わら屋の船からの帰り際に、トニー屋が言った言葉が引っ掛かって仕方がない。
『俺にはあの傷を診せてくれない』
どういうつもりだと考えた所で、行動そのものが突飛な麦わら屋の真意など汲める訳がない。
そう分かっていても気になって、他の事が考えられないでいた。
「キャプテン、いつもなら行く前はウキウキして帰ってきたら寂しそうな顔してるのにね。」
「は?おい、ベポ。そりゃどういう意味だ。」
「へ?いやそのまんまの意味だけど・・・だってキャプテン、麦わらに会いに行くのいつも楽しそうに・・・」
「ベポ!余計な事言うなって!!」
「そうだそうだ!こーゆー事はちゃんと自分で気づかないと意味ないし。」
「シャチ、ペンギン、お前ら、それどういう意味だ。」
何か隠されている。
それにイラついたのは本当で、睨みを利かせれば慌てて逃げる連中を眉間に皺を寄せて追いかけた。
「・・・ちくしょう、あいつ等・・・後で覚えてろよ」
船の中を縦横無尽に逃げ回るベポ達を捕まえる事が出来ず、諦めて自室に戻ったのはあれから1時間もした後だっただろうか。
少しは頭もすっきりするだろうと風呂に入って寝床に横になった時には、もうすっかり夜中になっていた。
目を閉じればさすがに疲れていたのかすぐ眠りにつく事ができ、落ちるように闇の中へと沈んでいく。
「ねぇ、キャプテンまだ怒ってるかな。」
「ベポ、見てこいよ」
「やだよ!なんで俺が行かなきゃいけないの!」
「元はと言えばお前が口を滑らしたから悪いんだ!」
「だって、キャプテンが鈍いなんて知らなかったんだよ!」
ぎゃーぎゃー煩ぇな。
ドアの外で聞こえる声に深い眠りから半ば強制的に起こされ、窓から外を見ればまだ夜明け前。
この時点で額に血管が浮き出たのを自分でも感じたが、それよりもベポの言葉が気になって気配を殺してドアに近付いた。
「キャプテン、絶対麦わらの事好きだって見てるだけで分かったから、本人だってわかってると思ったんだもん」
「キャプテンは遊びならいいけど本気は分かんねぇんだって!」
「・・・おい、ベポもペンギンも、あんまり大声出すと・・・」
「大声出すと、なんだ?シャチ」
地を這うような低い声が、良く出せたものだと自分でも思う。
ベポとペンギンの頭にそれぞれ片手ずつ乗せて上から力を掛けると、青ざめた二人はゆっくりとこちらを振り返った。
「キ、キャプテン、あの、」
「うわーん!キャプテンがガチで怒ってるよー!!!」
「う、うるさいベポ!今はとりあえず静かに、」
「で?誰が、誰を好きだって?」
泣き出したベポをなだめようとしていたシャチに、我ながら凶悪になっているだろう笑みを向ければシャチも同じく青ざめて。
恐らく逃げる心配はないだろうと三人を廊下に正座させると、睡眠を邪魔した事への謝罪と先ほどの言葉の真意を問いただす事にした。
「・・・だって、キャプテン、麦わらの事好きなんじゃないんですか?」
「なんでそんなぶっ飛んだ話になんだよ。」
「見てれば分かるっていうか、特別扱いっていうか・・・」
「そうそう、だってキャプテン、一度診た人間をもう一回診るのって嫌がってたし。なのに麦わらには自分から会いに行ってまで診察してるし」
「っていうか、キャプテンの麦わらを見る目がすっごく優しいの、俺知ってるんだ。だから好きなのかなって・・・」
正座し項垂れる部下達を見下ろしながら、言われた言葉を整理する。
俺が、麦わら屋を、好きだ、と。
この三人はそう言っているのだ。
「・・・俺が、麦わら屋を・・・?」
冗談だろうと笑いたいが、笑えない自分が居る事に笑えない。
ガシガシと寝起きの頭を掻きむしって、船を飛び出したのは衝動的にだった。
「ほらー、キャプテン行っちゃったじゃん」
「仕方ねぇから、麦わら達のトコに連絡入れておいた方がいいんじゃね?」
「前にあの航海士の姉さんから、事前連絡ないと困るって怒られたし。」
「じゃぁベポ、連絡しといて」
「なんで俺!?やだよ!あの航海士、怖いんだもん!」
そんな会話があった事などつゆ知らず、ただ真っ直ぐに目指すのは前日に行ったばかりの麦わら屋の船。
「・・・・・お前なぁ、約束してから来いって言ったじゃねぇか!」
日が昇り始めた時間帯、その眩しさで影を作りながらサニー号の船首に仁王立ちしていた麦わら屋を見つけると、何も言わずに近付いた。
「お前のトコのクマ!連絡寄越してくれたけど時間考えろってナミに怒られてたぞ、可哀想に。で?俺に用事だったんだろ?何の用だよ、早くしねぇと朝メシになっちまうだろ!」
「お前はホント、メシの事ばっかりだな」
良く分からない焦燥も、ぐだぐだ考えていた女々しさも、こちらを見て変わらず笑う麦わら屋を見たら吹き飛んでいた。
※会員登録するとコメントが書き込める様になります。