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其の名は

原作: ONE PIECE 作者: 柚月
目次

自覚と無自覚



「トラ男、どーした?」

麦わら屋が顔を覗き込んだのは、俺の様子がいつもと違う事に気が付いたからのようだ。

「いつもより、優しい顔してんぞ。お前、そんな顔出来んのな。」

笑った麦わら屋が頭を撫でようとしてか手を伸ばしてきて、咄嗟にその腕を掴んだのは無意識だったようだ。

「おい、何だよ?俺に用があって来たのだろ?」

「・・・」

「言いたい事あるんならはっきり言えよ!お前らしくねーじゃねぇか!」

腕を掴んだまま黙っている俺に対していらついたのだろう、麦わら屋の声が少し大きくなる。

そんな事を言われても何を言いたいかがまとまる前に体が先に動いて来てしまったのだから、急かされたところで言葉など出ては来ない。

「トラ男ってば!聞いてんのか?」

ふと、コイツはきっと無意識にだろう。

俺の顔を、覗き込むように顔を近づけて来やがった。



油断していた事もあって、此方を見上げてくる麦わら屋の顔に思わず心臓が跳ねたのがはっきりと分かった。

分かって、ああ、と自分でようやく納得した。



「麦わら屋、」

呼べば何だと無防備な顔で見上げてくるその顔に、自覚した途端に歯止めが効かなくなったのが自分でも気付いたが止める事など出来はしなかった。

本能のままに、なんて言葉が合うのだろうか。俺は何の警戒もしていないその顔に影を落とす。

「なぁ、麦わら屋。お前、どうしてその傷をトニー屋に診せないんだ?」

至近距離まで近付いた顔はもう隙間すら僅かしか残してはいない。

そんな状態で問いかけても尚、麦わら屋の顔は何の戸惑いも見せやしないから驚きを通り越して呆れさえ感じた。

「何だ、チョッパーに聞いたのか?どうしてってお前、そんなの決まってんじゃねーか。これはお前が治してくれた傷だからな。気になるんならお前が診ればいいだけだ。」

「はっ、とんだ口説き文句もあったもんだ。」

「口説き文句ぅ?俺が誰を口説くってゆーんだよ?」

「自覚がない分、余計にタチが悪いな。」

どういう意味だという言葉は、麦わら屋の額に落とした口付で黙らせた。

麦わら屋への気持ちがどんな物か気付いたら、もう躊躇う必要もないだろう。そんな自分でも呆れる言い訳を思い浮かべながら額から口を離せば、黙ってしまった麦わら屋が俺に向けていた顔を下に向けたのを眼下に確認できた。

「何だ?お前でも一丁前に照れたりするのか?」

どうせ突拍子もない言葉を返されるんだと思いながら、からかうような言葉を投げかけながら腰を屈めて覗き込んだ麦わら屋の顔。



その、表情ときたら。



「おい、何て顔をしてやがる」



自分で言っておいてと思うが、覗いた麦わら屋の顔は見た事のない程に真っ赤に染まっていて。

「おっ、お前が急に変な事するからだろ!」

どもった声ははっきりと動揺が伺えて、思わず緩みそうになる口角を必死の思いで引き締める。

こんな表情をするこの男の顔を、一体誰が見た事があるだろうか。

少しばかりの優越感さえ感じながら、俯いたまま頑なに目線を逸らそうとする麦わら屋の顔に手を伸ばすと両手で顔を包み込み、自分の方を無理やりに向けてみる。

「ははっ、タコみたいだな」

「っ・・・っおま、なんだその嬉しそうな顔は!からかうにしてもタチ悪ぃぞ!」

「からかっちゃいねぇさ。何せ、今さっき気付いたばかりだ。」

たが、もう気付いたからには遠慮はしない。

そう言って麦わら屋の顔から手を離し、その手の片方をそのまま麦わら屋の頭に持っていき、黒い柔らかい髪の毛の上に手を置いた。

思い返してみれば、麦わら屋の胸の怪我を見て感じていたのは独占欲だったのだろう。

誰の思い通りにもならないこの男に、自分が跡を残しているという事に対しての。

気付いてしまえばそんな物が自分の中にあったのかと思える程にその欲は深く大くなってしまい、口元に思わず自嘲の笑みが浮かんだ。

「覚悟しろよ、麦わら屋。」

言えば、未だに赤さが治まらない麦わら屋の顔が困ったような表情になる。

あぁ、そんな顔も出来るのかと、もっと誰も見た事のないようなこの男の色々な表情が見たいと、そう思ってたまらず笑い声が口から漏れ出す。

「知ってると思うが、俺は狙った標的は何が何でも逃がさない質だ。この意味が、流石にお前でももう分かるだろ?」

「わ、分かんねぇよ!」

「なら分からせるまでだな。」

「っトラ男!カオが怖えって!何だよ、お前が来るっていうから早起きしてやったのに!意地悪されるって分かってたら起きなかったぞ、俺は!!」

「早起きして待っててくれたのか?そりゃ可愛い事で。」

「ふざけんな!そんな事言ってねーだろうが!」

「諦めろ、口で俺に勝てるとは思ってねえだろ?」

からかっている訳でも、馬鹿にしている訳でもない。

けれど素直に反応してくる麦わら屋が可愛くて、饒舌になった口からは次々と言葉があふれてくる。



愛だの恋だの色恋沙汰が何かは知らないが、相手の表情に一喜一憂する其れを人は恋と呼ぶ。



(キャプテン、急に生き生きとしてる・・・)

(俺らの前じゃあんなに笑わないのにな。)

(だけど結果オーライ?機嫌も直ったみたいだし。)



(アンタ達、協力料金として100万ベリーね。あ、因みに後で早朝料金も加算させて貰うから。それと利子は3割で。)

(高ぁっ!!!!)
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