チャプター2:脱走
「あのさ、言いたくなかったらいいんだけど、なんであんな事になってたんだよ?」
仁は自分の発言に少し後悔したが、美夏は微笑した後、仁にすべてのいきさつを話した。
事の発端は、美夏が周りから浮いている事にあった。人見知りの彼女は他の女性メンバーの輪に入ることができず、それが原因で目を付けられてしまい、女性達による精神的な嫌がらせが始まった。
こそこそとした噂話から始まり、物隠しや冤罪を着せたりとかなり酷い仕打ちが行われた。しかし、おかしなことに美夏はそれを全く気にせず毎日を過ごしていた。
本当は辛く悲しかったが、そういった態度を見せるとますます虐めがエスカレートするのではないかと危惧しての行動だった。
しかし、虐めというのは臨機応変であり、美夏の辛い反応が見たいがために虐めがエスカレートしてしまった。そして、その結果、女性達は男子を使って美夏を肉体的に追いつめたのだ。
美夏曰く、幸い性的暴行をやられなくて良かったとのことだが、肉体的にボロボロのその姿を仁は全く良いと思ってはいない。当然だ。
仁は、話を聞き終わり、少しの間黙ってしまった。そして2分ほど経って、仁は口を開蹴る。
「なぁ、俺がアンタを守ってやるよ。弱いかもしれないけど、アンタを連れて逃げ出す事に関してはプロフェッショナルだ」
女の子に対して「守ってやる」なんてカッコいいセリフに「弱い」なんて単語を使ってしまう自分が酷く憎らしく感じたが、それでも美夏を守りたい気持ちは本物だ。
「……門司君、ありがと」
それが仁が今日聞いた美夏の最後の言葉だった。
翌日、またメンテナンスルームでARTSを弄り回していた仁は、以前友人に教えてもらった胸のエンジンの改造を試している。仁は友人の言う、いらないパーツを次々と取り除いていき、武装の高速化を図っている。
友人の話によると、胸のエンジンには回路に繋がっていない無駄なパーツがあるようで、それを取り除いた後、別の部品に差し替える事で、ARTSが格段に強くなるそうだ。
パーツを取り除いてる最中、メンテナンスルームに男が一人入ってきた。改造を教えてくれた友人の高城優(たかぎ ゆう)だ。
「門司、支部長が呼んでたぜ? すぐに来いって」
支部長に呼ばれるのは大抵、問題を起こしたメンバーとその関係者だ。つまり、昨日の虐めについての話だろう。
仁はすぐにARTSを片付けると、支部長のいる部屋まで向かった。
仁は、部屋までたどり着き、支部長の話を聞いた。なんでも、仁が暴力沙汰を起こしたのでその処分についての話だという。
昨日、仁が蹴り飛ばしたのは財団のトップである会長の息子「銀崎敏郎(ぎんざき としろう)」であった。お偉いさんの息子を蹴ってしまえば、それこそ大問題であるが、仁は当然それに対し、美夏が虐められていた事を言った。
しかし部長はそんな事は関係ないと仁に言った後、ARTSの使用制限の処分を与えた。
ARTSの使用制限とは、ARTSの機能「管理者権限によるロック」を利用した変身不能状態のことを言う。メンテナンスも不可能になってしまい、仁は戦えなくなってしまったのだ。
その日から、美夏に対する虐めはエスカレートしていき、仁が止めに入ろうとしても、虐め側の力に屈服してしまう日が一週間ほど続いた。美夏の心と身体は当然ボロボロにされ、泣きじゃくる日もあった。
そんなある日、仁は廊下を歩いていたところ、妙な会話が聞えたので盗み聞きをした。
それは、美夏の虐めの話だった。
「で、いつになったらやれるんだぁ?」
「天野も門司ももっとメンタルをボロボロにしなきゃやらせてあげない。じゃないと私、嫌いになっちゃうから」
「そうは言ってもよぉ、アイツ、なかなかの上玉なんだぜ? なかなか良いもの持ってるマブいスケなんだぜ?」
「だったら……一回だけだよ? 特別に認めてあげる」
仁はその声を聞いて震え上がった。声の主は銀崎とその彼女であったことに対しても、会話の内容に対しても。
仁はここ数日、殴られた後に美夏とお互いを励ましあったりしていたのだが、そうする内につい数日前から抱いていたドキドキする気持ちがなんなのか分かってきた。
恋心だった。おそらく仁にとっては初めてと言っても過言ではないピュアで少し不謹慎な恋心だ。
美夏の事が好きでたまらなくなっていたのだ。特徴的な茶髪のショートのアホ毛、穏やかな光のような優しい声、小さい背丈、話し方、何もかも好きなのだ。もう仁は美夏の虜になっていた。
仁は勝手に美香は自分の彼女だと錯覚するようになっていた。それほど好きで、大切な存在なのだ。
そんな美夏がやられる。美夏が自分から遠ざかってしまうような気がして、それだけは勘弁してくれと心の中で叫んだ。
仁は、その時いい考えが思いついた。ここから逃げてしまえばいいのだ。虐めで心がボロボロになるくらいならそっちのほうが真っ当なのだ。昔、どこかの芸能人が虐めは逃げるが勝ちなんて言っていたのを覚えている。
そうと決まればやることは唯一つ。早速ここから逃げ出そう。
仁は自分の発言に少し後悔したが、美夏は微笑した後、仁にすべてのいきさつを話した。
事の発端は、美夏が周りから浮いている事にあった。人見知りの彼女は他の女性メンバーの輪に入ることができず、それが原因で目を付けられてしまい、女性達による精神的な嫌がらせが始まった。
こそこそとした噂話から始まり、物隠しや冤罪を着せたりとかなり酷い仕打ちが行われた。しかし、おかしなことに美夏はそれを全く気にせず毎日を過ごしていた。
本当は辛く悲しかったが、そういった態度を見せるとますます虐めがエスカレートするのではないかと危惧しての行動だった。
しかし、虐めというのは臨機応変であり、美夏の辛い反応が見たいがために虐めがエスカレートしてしまった。そして、その結果、女性達は男子を使って美夏を肉体的に追いつめたのだ。
美夏曰く、幸い性的暴行をやられなくて良かったとのことだが、肉体的にボロボロのその姿を仁は全く良いと思ってはいない。当然だ。
仁は、話を聞き終わり、少しの間黙ってしまった。そして2分ほど経って、仁は口を開蹴る。
「なぁ、俺がアンタを守ってやるよ。弱いかもしれないけど、アンタを連れて逃げ出す事に関してはプロフェッショナルだ」
女の子に対して「守ってやる」なんてカッコいいセリフに「弱い」なんて単語を使ってしまう自分が酷く憎らしく感じたが、それでも美夏を守りたい気持ちは本物だ。
「……門司君、ありがと」
それが仁が今日聞いた美夏の最後の言葉だった。
翌日、またメンテナンスルームでARTSを弄り回していた仁は、以前友人に教えてもらった胸のエンジンの改造を試している。仁は友人の言う、いらないパーツを次々と取り除いていき、武装の高速化を図っている。
友人の話によると、胸のエンジンには回路に繋がっていない無駄なパーツがあるようで、それを取り除いた後、別の部品に差し替える事で、ARTSが格段に強くなるそうだ。
パーツを取り除いてる最中、メンテナンスルームに男が一人入ってきた。改造を教えてくれた友人の高城優(たかぎ ゆう)だ。
「門司、支部長が呼んでたぜ? すぐに来いって」
支部長に呼ばれるのは大抵、問題を起こしたメンバーとその関係者だ。つまり、昨日の虐めについての話だろう。
仁はすぐにARTSを片付けると、支部長のいる部屋まで向かった。
仁は、部屋までたどり着き、支部長の話を聞いた。なんでも、仁が暴力沙汰を起こしたのでその処分についての話だという。
昨日、仁が蹴り飛ばしたのは財団のトップである会長の息子「銀崎敏郎(ぎんざき としろう)」であった。お偉いさんの息子を蹴ってしまえば、それこそ大問題であるが、仁は当然それに対し、美夏が虐められていた事を言った。
しかし部長はそんな事は関係ないと仁に言った後、ARTSの使用制限の処分を与えた。
ARTSの使用制限とは、ARTSの機能「管理者権限によるロック」を利用した変身不能状態のことを言う。メンテナンスも不可能になってしまい、仁は戦えなくなってしまったのだ。
その日から、美夏に対する虐めはエスカレートしていき、仁が止めに入ろうとしても、虐め側の力に屈服してしまう日が一週間ほど続いた。美夏の心と身体は当然ボロボロにされ、泣きじゃくる日もあった。
そんなある日、仁は廊下を歩いていたところ、妙な会話が聞えたので盗み聞きをした。
それは、美夏の虐めの話だった。
「で、いつになったらやれるんだぁ?」
「天野も門司ももっとメンタルをボロボロにしなきゃやらせてあげない。じゃないと私、嫌いになっちゃうから」
「そうは言ってもよぉ、アイツ、なかなかの上玉なんだぜ? なかなか良いもの持ってるマブいスケなんだぜ?」
「だったら……一回だけだよ? 特別に認めてあげる」
仁はその声を聞いて震え上がった。声の主は銀崎とその彼女であったことに対しても、会話の内容に対しても。
仁はここ数日、殴られた後に美夏とお互いを励ましあったりしていたのだが、そうする内につい数日前から抱いていたドキドキする気持ちがなんなのか分かってきた。
恋心だった。おそらく仁にとっては初めてと言っても過言ではないピュアで少し不謹慎な恋心だ。
美夏の事が好きでたまらなくなっていたのだ。特徴的な茶髪のショートのアホ毛、穏やかな光のような優しい声、小さい背丈、話し方、何もかも好きなのだ。もう仁は美夏の虜になっていた。
仁は勝手に美香は自分の彼女だと錯覚するようになっていた。それほど好きで、大切な存在なのだ。
そんな美夏がやられる。美夏が自分から遠ざかってしまうような気がして、それだけは勘弁してくれと心の中で叫んだ。
仁は、その時いい考えが思いついた。ここから逃げてしまえばいいのだ。虐めで心がボロボロになるくらいならそっちのほうが真っ当なのだ。昔、どこかの芸能人が虐めは逃げるが勝ちなんて言っていたのを覚えている。
そうと決まればやることは唯一つ。早速ここから逃げ出そう。
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