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テッコウガ-ハジマリ-

ジャンル: 現実世界(恋愛) 作者: プリズムの使者
目次

チャプター1:出会い

 ここ10年で世界は一変した。

かつて存在した職業の3割が消え、若者は就職難に陥ったかと思えばそうでもなく、寧ろ数年前に起きた近代兵器、機械人形(デストロイヤー)による大虐殺とそれによる内戦がきっかけで、壊れた街の復興事業がG財団を中心に盛んに行われるようになった。

 崩壊した街を直す為、そして失われた個人の経済力を取り戻すため、みんなせっせと働いた。

 G財団は、かつて人間を恐怖に陥れたデストロイヤーの脅威から人々を守るために財団の力を結集してバトルスーツを開発、これを「Ability Realize Technology System」、通称「ARTS」という。

 ARTSは、普段は音楽プレーヤーのようなポケットに入るサイズの小さな機械であるが、腕に装着し起動し、本人認証を終えるとバトルスーツが出現し、そのまま装着されるという前代未聞のシステムで、G財団の特許となっている。





 そこで働く少年、門司仁(かどつか じん)は、親をデストロイヤーに殺され、それでも生きねばと今はデストロイヤーに対抗する武力組織の一員として100人以上のメンバーと共に毎日を過ごしている。





 この物語はそんな門司仁の視点で進んでいく。





 G財団大阪支部の訓練所のメンテナンスルームに入り浸るのが仁の日課だ。物心ついた頃から機械いじりが大好きだった仁は、今日も自分のARTSを整備していた。財団の規則で、ARTSは財団の定めた規定の範囲内での改造が認められている。仁はより効率的に動作を行えるようにする為、毎日こうして微調整を欠かさないでいる。



 1時間ほど機械いじりに熱中した後、仁はぐっと伸びをして、辺りを片付け始めた。そろそろ夕食の時間だ。

早く戻らないと他のメンバーに飯を根こそぎ取られてしまう。皆育ち盛りの食いしん坊なのだ。



 仁は自分の工具を鞄に詰めて、メンテナンスルームを出ると、そのまま食堂へと向かった。今日の夕食は確か月に一度のカレーだったはずだ。この施設は財団が運営しており、たまにこういった豪華な料理が出るのが売りなのだ。



 食堂へ行く途中、仁は妙な叫び声と悲鳴を聞いた。財団では、ARTS所有者間での実力のランク付けがされており、それによるイジメが時々起こる。実際の現場は見たことないが、そう言った話題はよく耳にする。しかし、いつもならイジメの対象は図に乗った男であることが多いが、悲鳴の主が女の子の声だったのだ。

 財団のメンバーには女性は少なく、かなり美人が多いため男性からはイジメの対象というよりかは性の対象になっていたりして、それを利用してかこの組織の女性は強い男と一緒になったりして自分を守ったりしているため、女の子の悲鳴なんて虫が出たとき以外に聞けるものじゃない。

 仁は助けなければと思い、声がする方へと走っていき、物陰に隠れて様子を見ることにした。



 虐められていたのは、同期の天野美夏(あまの みか)。少ししか話をしたことがないが、とても大人しい性格で、虐められるような原因が思いつかないが、きっとトラブルか何かがあったのは間違いない。

 見たところ、倒れている美夏を囲むように4人の男子が立っており、立ち上がろうとするところを狙って蹴りを入れている。こういう状況に出くわした時はまずそういった状況把握が大事だが、よく見ると美夏の身体は傷だらけだ。状況把握なんて言っている暇はない。美夏を助けねば。



 仁は、物陰から姿を現し、男子に向かって言葉を放った。

「おいおい……楽しそうじゃねぇかよ。俺も混ぜろや」

 次の瞬間、男子の一人に蹴りが入り、皆がそれに注目する。その隙に仁は美夏の手を引き、走り出した。

 そのことに気付いた男子の一人が仁に向かって言った。

「おいてめぇ、どういうつもりなんだよ!?」

「やんのか!?」

 そんな言葉も気にせず、仁は走り、そのまま人気のないところへ逃げ切ることができた



「……門司君。ありがとう」

 走り終え、床に尻餅をつき、少し時間が経った頃、美夏は仁に礼を言った。

「別に、あいつらが気に食わなかっただけさ」

 仁は少し格好をつけてそう言うが、実際虐められて傷ついた美夏を見ていられなかったのが本心だ。



 その二言の会話の後、また時間が過ぎた。お互い、何を話せば良いか分からないのだ。別に何も話さずお互い解散しても良かったのだが、何故かそんな気にもならなかった。

 それよりも、美夏が隣にいるだけで仁はドキドキした。今ほど女性を魅力的に感じた事はなかっただろう。



 今まで、仁は異性という存在を特別視はしてはおらず、女性はむしろ強い男と一緒になったりする汚い存在と軽蔑していた。これは仁の異性に対する興味のなさと視野の狭さによるものである。

 それでいて、仁は生まれてこの方機械にしか興味を向けなかった。将来は機械と結婚するとさえ思っていたほどだ。

だがそんなことはどうだっていい。それより今は美夏の話だ。

美夏は自分の抱く女性の偏見とは正反対の魅力を持っていた。

 今すぐ美夏を抱きしめたい、そう思ってしまう自分は頭のどこかがぶっ壊れているのかと思っていた。
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