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サヨナラだけが人生だ

原作: ONE PIECE 作者: 柚月
目次

暗転

「チョッパー?」
「そうだ!俺は船医だからな。痛いとことかあったらすぐ言えよ!」
チョッパーの名を繰り返すシンに満足そうに頷くチョッパー。
それに続くように皆が自己紹介を始めたのはその直後だった。
「あたしはナミ、航海士よ。」
「私はロビン。考古学者をしているわ。」
「私はブルックと申します。あ、骨ですが生きてます。この船の音楽家を任されています。」
「俺はこの船の船大工、フランキーだ。」
それぞれに名を告げれば、シンはその名を覚えるように繰り返す。
「おいおい、この俺を忘れちゃいねえか?」
すると少し離れた場所に居たウソップもそれに気付いてか近付いてきて。
ブルックとフランキーを押しのけるようにシンの前に登場したウソップは、にっと笑みを浮かべて胸を張った。
「俺様がこの船の狙撃手でもあるキャプテーン、ウソップだ!!何かあったら俺を頼ってもいいからな!!」
かなりのボリュームでそう告げるウソップをシンは驚いたように見上げ、ナミはそんなウソップを呆れた笑みを浮かべながら押しのける。
「はいはい、分かった分かった。で、あのあっちでお酒飲んでるのが剣士のゾロ。この料理を作ってくれてるのがコックのサンジ君で、あとは、そうね。この船の船長が、」
「俺だぞ!」
自ら自己紹介をしそうにないゾロと料理を作っているサンジの紹介も済み、最後にナミが船長と呼べば、再び頬をぱんぱんに張らせながら食事をしていたルフィが反応してシンの前のテーブルに飛び乗った。
その行為を行儀が悪いとナミに怒られ頬を引っ張られるルフィだったが、それに動じる事なくそのままニカっと笑みを浮かべる。
「俺はモンキー・D・ルフィ!海賊王になる男だ!!」
「海賊王、って・・・」
「この海の王様だ!俺はそれになるぞ。」
「・・・じゃぁ、この船ってまさか、」
すっと、シンの顔から表情が消えて、代わりに冷や汗がその額を伝った。
その表情を見たナミが慌てて声を掛けたのはその直後の事。
「大丈夫よ!海賊っていったって、その辺の傍若無人な海賊とは違うから!」
そんなナミの言葉が届いているのか、いないのか。
ふと皆の顔から視線を外したシンは、途端に俯いて両手で耳を塞いだ。

殺せ、許すな、殲滅しろ。
遥か昔に聞いたその声は、今もまだ褪せる事なく脳内に響いていて。
耳を塞ごうと聞こえるその声に全て従いそうになる。

「おい、シン!!どうしたんだ!?」
シンの異変にいち早く気付いたチョッパーが慌ててその顔を覗き込めば、カッと目を見開いたシンはテーブル上にあったナイフを握るとそれをチョッパーに向けて突き刺そうとして。
その殺気に反応出来たのはゾロとサンジの双璧。
刀を抜いたゾロはその刃でシンの持っていたナイフを弾き飛ばし、ナイフを握っていた腕をサンジが掴んで止めた。
「シンちゃん、どうした?」
サンジはそう声を掛けながらも、その頬には僅かに冷や汗が伝う。
およそ姿からは想像のできない力を、その止めた腕から感じたせいだ。
「おいルフィ、俺は言ったぞ。おかしな動きを見せたら斬る、と。」
そして刀を未だ仕舞わず、その刃をシンに向けたゾロはルフィに向けてそう言って刀を構える素振りを見せる。
「ゾロ、サンジ、落ち着けって。」
そんな殺伐とした空気の中、場違いな程に明るい声が響いて。
誰もがその声の方向へ視線を動かせば、声の主は能天気に笑いながら食事を続けようとしていた。
「ルフィさん?」
そこでやっと言葉を発したのはブルックで、年の功とでもいうべきか誰よりも早く冷静な思考を取り戻したブルックはルフィに声を掛ける。
「本気じゃねーから、そんなカッカしても仕方ねーだろ。」
「本気ではない?」
「見りゃ分かるだろ?」
はて、と首を傾げたブルックにルフィが追い打ちをかけるようにそう告げ、その言葉に導かれるままにシンの表情を見たブルックはあぁと納得したような声を上げた。
「無意識、でしたか。ヨホホ、これは驚いた。」
「無意識・・・?」
ブルックの言葉にサンジも続いてシンの表情を見て、それから同じく納得したと同時に怪訝そうな表情を浮かべる。
更に他の面々もそれに続くようにシンの表情を見ては納得と疑問の入り混じった表情を浮かべ、サンジはシンから手を離しゾロは刀を鞘に仕舞った。
「お前一体、」
浮かんだ疑問を唯一口にしようとしたのはウソップだったが、言葉を発しようと口を開いたその次の瞬間だった。

ドン・・・!!!!

と、想像を絶する衝撃と爆発音が響き渡り、船は大きな揺れに見舞われた。
そのせいでウソップの言葉は遮られ、テーブル上にあった料理は散乱し、不安定になった足場のせいで足元を抄われた一同は堪らず床へ座り込む。
少ししてその揺れが落ち着いた後、一斉に向かったのはサニー号の甲板だった。
「何だ!!?」
怒声にもにた声を上げながら皆が外へと出れば、サニー号を遥かに上回る巨大な軍艦が目の前に鎮座し、その船首には此方を見下ろす人影が一つ。
「っ!!??」
それを目にしたシンが、少し後ずさったのをゾロは見逃さなかった。
「おい、顔見知りか?」
低く威嚇するような声でシンに問いかけたゾロに、シンからの返事はない。
ただ僅かに震えているその様子を見れば何かしらの事情がある事は察する事が出来て、無意識にシンを背に庇うように立ったのはその刹那の事。
「ルフィ!ガキの様子がおかしい!」
そう叫んだゾロの言葉を、誰もが聞き逃さなかった。
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