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サヨナラだけが人生だ

原作: ONE PIECE 作者: 柚月
目次

イート・イート・イート

「ゆっくり温まれたかい?」
そう言いながら皿をシンの前に置いたのはサンジで、目の前に置かれた湯気を立たせるその料理にシンの目は釘付けになる。
「食べな。早く食わねえとルフィに全部食われちまうから。」
にっと優しく笑ったサンジの顔を一回見上げたシンは、躊躇いがちに頷いてから近くに置かれたスプーンを手に取った。
ナミはテーブルに肘をついてその掌に自分の頬を乗せながらシンの様子を見、ロビンはいつの間にかサンジが用意していたコーヒーを手に取るとそれを口に運んで。
サンジはシンの顔を覗き込む体制のままでシンが料理を口に運ぶのを見守る。
「・・・」
ゆっくりと、多少の警戒もありながらも口に運ばれた料理。
口に入れた直後に目を丸くして驚いた表情を浮かべたシンだったが、一瞬の間を置いてから手にしたスプーンを勢いよく動かすとまるで流し込むようにその料理を口に運んだ。
「クソうめえだろ?」
勢いよく食べるその様子にサンジは笑みを浮かべてそう言い、それに頷く事で返事を返したシンは瞬く間に出された料理を食べ尽くしていた。
そして食べ終わった直後、コトン、とスプーンを置いたシンはサンジの顔を見返しながら小さく笑みを浮かべて言葉を発する。
「こんな温かくて美味しいご飯、初めて食べた」
ナミはそれに良かったわね、と笑いながら返したが、その言葉を聞いたサンジは一瞬固まった後でシンの側からすっと離れると背中を向けて調理場の方へと足を進め出す。
「コックさん?」
「まだまだ作ってやるから、しっかり食え。」
その様子に違和感を覚えたロビンが声を掛けてもサンジは振り返る事をせずに言葉だけを返して包丁を取り出す。
その手が僅かに震えていた事に気が付いたロビンは、シンの先ほどの言葉を思い出してあぁと何かを察したように困ったような笑みを浮かべた。
そんな様子を知ってか知らずか、背を向けたまま調理を始めたサンジに近付く一つの影があったのはその時で。
「おいコック、酒がねぇんだけ・・・って、お前、何泣いて・・・」
「っ泣いてねえよ、クソマリモ!酒ならそこに置いてあんだろ、勝手に持ってけ!」
それがゾロであり、サンジの顔を見た直後に驚きで固まるゾロに対してサンジは語気を強めながら睨みつける。
何なんだと不機嫌そうに眉間に皺を作るゾロ。その様子を見ていたロビンが助け舟を出すように声を掛けたのはその直後。
「剣士さん、お酒ならこっちにあるわよ」
「お、おう、悪いな。」
ロビンの声にはっと我に返ったゾロがロビンの方へと近付けば、サンジは再び包丁を動かして料理を再開した。
「ったく、何だってんだ。」
「『こんな温かくて美味しいご飯を食べたのは初めて』だそうよ。」
「あ?」
「コックさんの料理を食べた感想。」
シンが言った言葉を繰り返してゾロに伝えるロビンのその真意を、新しく開けた酒瓶を口に運びながら考えるゾロ。
そして気が付いた、言葉の意味。
「・・・温かくて、か。」
「えぇ。温かくて、よ。」
美味しいのは分かる。だが、温かいというのは当たり前の事じゃないのか。
けれどもシンは温かさも初めてだと口にしたのだ。
「それでコックは泣いてんのか。」
「あら、優しいのね。」
それは今までの食生活がどんなものであったかを想像させるもので。
そこまで考えてそれ以上考える事が嫌になったのか、ゾロは小さく舌打ちをすると酒を一気に煽った。

ゾロとロビンがそんなやり取りをしている頃、テーブルに並べられた料理を次々と口に運んでいたシンにルフィが声を掛けていた。
「サンジのメシはすっげーうめえだろ?」
「うん・・・うん!」
「ははっ、そーだろそーだろ!!」
にっと満面の笑みを浮かべたルフィはガシガシとシンの頭を撫でまわす。
「ちょっとルフィ、あんまり乱暴にするんじゃないの」
「ったく、ルフィ。お前は女の扱い方がなってねぇな」
その行動に苦言を呈したのはナミとフランキーで、ルフィに撫でられたせいで頭がぼさぼさになったシンの頭をフランキーが大きな掌でぽすんとひと撫でする。
「しかし、小ぎれいにしてりゃ結構な美人になるじゃねぇか。」
「ヨホホ、確かに。これは将来有望ですね。お嬢さん、成長したらパンツ見せて・・・」
「子供に向かって変な事吹き込むな、このエロ骸骨!」
まじまじとシンを見ながら言葉を続けたフランキーに同調するようにブルックが続いたが、ブルックの言葉を慌てて遮るようにナミの拳がブルックに振り下ろされて。
そんな光景は日常茶飯事なのか、フランキーはその騒動を気にも止める様子もなくシンの前に様々な料理を次々と運んでは置いて行く。
「ほら、もっと食え。腹ぁ減ってんだろ?」
「お腹空くとかは分かんないけど、でも、ご飯美味しい」
それを着々と食べていくシンは、フランキーの問いに答えながら頬を膨らめる程に料理を頬張っていて。
その様子とその言葉を聞いたフランキーがぐ、と涙を堪えたのは言うまでもない事だった。
そこにチョッパーが近付いたのはその直後で、あまりの勢いで食べるシンを心配するように声を掛ける。
「あんまり慌てて食べるなよ。胃が空っぽだったんだ、急に食べ物が入ってきたら胃がびっくりするからな。」
「わ、わかった。ありがとう・・・えっと、たぬき、さん?」
「たぬきじゃねぇよ!トナカイだ!名前はチョッパー!」
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