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Still Still Still

原作: その他 (原作:うたの☆プリンスさまっ♪) 作者: めぐりめく
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第3話

1年ぶりに出会った彼女は、驚くほど覇気がなく、憔悴しきっていた。数日間何も食べていないらしい。

「トキヤくんと、別れることになった」

その言葉を聞いて、僕は気が気じゃなかった。半ば押しかけるようにして、僕は彼女の自宅を訪れていた。都内のマンションの一室。ぬいぐるみが置かれた可愛らしい雰囲気の部屋がなんとも彼女らしい。部屋の中央に置かれた丸テーブルの上には、例のスキャンダル雑誌が載っており、彼女は虚ろな目をしてそれを見ていた。

「この雑誌が発売された朝に、トキヤくんから電話がかかってきて、言われたの。別れようって」

あまりにも弱々しい彼女の声に、僕は胸が締め付けられた。

「実を言うと、トキヤくんとはあんまりうまくいってなかったんだ。デビューしてからトキヤくんは、仕事に追われる毎日で、全然会えなくって。それに比べて私は、アイドル活動も全然うまくいってなくて……。トキヤくんがどんどん遠い存在になっていくみたいで怖かった。だから、この間、テレビで恋人がいないっていうトキヤくんの言葉を聞いた時、すごく動揺しちゃって。会いたいなんて駄々をこねて、トキヤくんを困らせちゃった。そのせいで、こんなスキャンダルの写真まで撮られちゃって、私、本当にトキヤくんの足を引っ張ってばっかりだ……本当に、最低な人間だよ……」

泣き出す彼女。僕は堪らず、彼女のことを抱きしめた。腕の中の彼女は、細くて力を入れれば折れてしまうんじゃないかと思うくらい華奢だった。僕は幼い日に母にしてもらったように、髪を撫でながら彼女を抱きしめる。彼女は僕のシャツにしがみ付き、嗚咽を漏らしながら泣き出した。

不謹慎ながらも、僕はこの状況に幸福感を感じていた。あの日、彼女の腕を離してしまった自分。彼女のことを捕まえておくことができなかった。それが今、僕の腕の中にいる。

(今なら、奪えるぞ)

僕の中の悪魔が囁く。

友人の彼女を奪ってしまうなんて。僕の理性が押しとどめようとするが、彼女が好きだという気持ちの方が優った。

「那月は、優しいね」

ひとしきり泣きじゃくった彼女が、しゃっくりをしながらポツリと呟く。僕は抱きしめていた腕を解くと、彼女に目線を合わせてこう言った。

「君のことが好きでした。ずっと前から」

彼女が驚いたように目を見開く。

(もっとだ、もっと押せ)

悪魔の囁きが大きくなる。

「僕だったら、君をこんな風に泣かせたりはしません」

彼女へと顔を近づける。

「愛しています」

そして、彼女の唇に、自分のそれを重ねた。

彼女は抵抗しなかった。僕はもう我慢が利かなくなり、なんども深く唇を奪った。こんなにも強引にキスをするなんて。まるで自分が自分でなくなったようだ。

最初は戸惑い受け身だった彼女も、情熱的な僕の接吻にやがて応えるようになった。

「んっ……!」

時折漏れる彼女の甘い吐息が、僕の理性を崩壊させる。もはやキスだけでは満足できなくなっていた。

彼女をお姫様抱っこすると、ベッドの上へとそっと横たえた。顔は上気し、潤んだ瞳が僕を見つめている。

「しても、いいですよね?」

僕の言葉に、彼女は頰を赤らめながら頷いた。再び唇を奪い、僕は彼女のブラウスに手をかける。露わになった彼女の裸体を優しく愛撫しながら、僕は先ほどから激しく猛る自分のそれを取り出した。もう我慢ができない。十分に濡れそぼった彼女のそこへ当てがったとき、

「ゴム、着けて……」

彼女がベット下からコンドームを取り出した。ハッと我に返る。

「ごめんなさい、夢中になってしまって」

「ううん、なんだか今日の那月、別人みたい」

自分でもこんなことをするなんて、思っていなかった。彼女が取り出したのは、開封済み箱の中のコンドーム。それが何を意味するのか、考えたくなかった。

(このゴムで、こいつはトキヤとヤってたんだろうなぁ?)

僕の中の悪魔がうるさい。声を振り切るように、ゴムを着けると今度こそ僕は彼女の中へとそれを挿入した。

(一体何度、トキヤとキスした?)

僕の方が彼女を好きだ。上書きするように彼女の唇を奪う。

(一体何度、身体を重ねた?)

今はもう、僕のものだ。彼女の首筋にキスマークをつける。

(一体何度——)

黙ってくれ!彼女に激しく腰を打ち付ける。

僕はどうしようもなく、トキヤに嫉妬していた。僕よりも早く彼女のキスを奪ったトキヤを、彼女と体を重ねたトキヤを、どうしようもなく妬ましく思っていた。

やがて、快楽が絶頂を迎え、僕は彼女の中で激しく達した。息を荒げる彼女に、優しくキスをする。

「好きです。大好き」

僕の言葉に、ようやく彼女が笑顔を見せた。良かった、今日はずっと彼女の泣き顔しか見ていなかったから。

優しく抱き寄せ、彼女に腕枕をする。彼女は安心したように抱きつき、やがて静かに寝息を立てて眠りだした。

(良かったな。これで彼女はお前のものだ)

悪魔が満足げに笑う。僕の中にいる、君は一体誰——?

僕にも睡魔が襲いかかり、意識が遠のいていった。
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