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月明かりの下で

原作: その他 (原作:鬼滅の刃) 作者: アユーラ
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月明かりの下で3

 しかし、結局この日は夜遅くになるまで炭治郎と喋る機会は無かった。カナヲも自分から積極的に会いに行けないし、蝶屋敷は常に人の出入りがあるため、どうしても二人きりの時間が取れない。
(……また明日にでも話せるかな)
 そんな期待を胸にすごすごと部屋に戻る。するとその時、
「あ、いた!カナヲ!」
「…っ炭治郎」
 昼間と同じく後ろから声をかけられ振り向く。カナヲを見て、炭治郎は安心したような顔を見せた。
「やっと見つけた。あのさ、カナヲに話があって……」
「え……」
 ふわりと当然のように手を繋がれ息をのんだ。驚いて離すことも忘れてしまい、炭治郎を見つめ返したその時、
「やい!紋次郎!!」
「……っ」
 これまた昼間と同じく話が遮られる。しかし今度の相手は伊之助だった。
「伊之助?あ、善逸も…どうかしたのか?」
「なぁ!今から、どんぐり拾いに行くぞ!」
「お前、馬鹿なの?そんなくだらないことよりも、俺は禰豆子ちゃんと夜の逢引がしたいんだけど」
「ねず公ならいつでも会えるようになったんだからいいだろうが」
「そーーなんだよ!!伊之助ええええ!!俺、すっごく幸せなのおおお!!」
「わかったわかった、二人とももう夜なんだから、そんなに騒ぐなって」
 兄のように炭治郎がたしなめている。その時、後ろからきよの声が聞こえてきた。
「あっ、カナヲさん!」
「え?」
「ここにいらしたんですね。しのぶ様が呼んでおられます」
「あ、うん…わかった。……炭治郎、私行ってくる」
(……後で、その、話って何か…聞かせてほしい……)
 心の中で呟くが、どうしても口から出てこない。もたもたしている間に、炭治郎はまた引っ張られるようにして二人に連れていかれてしまった。
「…………」
 しんと静かになった廊下でため息を吐いた。瞼の奥がつんと痛くなる。
(どうして、私も一緒にいたいって言えないんだろう…。どうして、私は…自分の気持ちを口にできないんだろう……)
 そんな現実が辛くなってきてしまい、しゅんとして踵を返す。
「…カナヲさん?どうしました?」
 きよが心配そうに瞳を覗き込んでくるが、いつものように淡々と返した。
「何でもない。師範の部屋に行ってくる」
「あ、はい!」
 きよに見送られながら、カナヲはその場を立ち去った。


……………


「失礼します、師範」
 三つ指を突いて部屋に入る。すると、しのぶがゆっくりとこちらを振り返った。
「カナヲ、こちらへ来なさい」
「はい」
 笑顔で呼ばれたのでその通り近づく。しかし距離が縮まると、しのぶの眉間に皺が寄った。
「…師範?」
「その傷、また放っておいているの?」
「え?あ………」
 以前の任務の時に頬と手に付いた傷を軽く突かれる。痛みは無いが、痕が少し残っていた。
「渡した傷薬はつけたの?」
「……忘れていました」
「もう、だめよ。女の子が傷を残したら」
 心配そうに言うと、しのぶは困ったように笑った。
「いいわ。私のやり方が間違っていたのだと思います」
「え?」
「あなたが必ず付けるように方法を変えました。その内わかると思うけど」
「………?」
 しのぶの言うことがわからず目を瞬かせる。けれどしのぶは笑うばかりで、それ以上は何も教えてくれなかった。
「それを伝えたかっただけよ。もう遅いからお休みなさい」
「…あ、ありがとうございます、師範」
 よくわからないまま部屋を出た。
 首を傾げながら部屋に戻ると、確かにもうだいぶ夜も更けていて、月が屋根の向こうに見えている。いつものように布団を敷くと、ふうっと息を吐いた。
(炭治郎とほとんど喋れなかったけど…、でも顔が見れてよかった)
 お互い任務に出てしまえばひと月ふた月と会えないこともよくある。そう考えれば、同じ屋敷にいて一日一度は顔を合わせられるだけでも良かった。
 そんな風に前向きに考え直し、寝巻に着替えた。布団に横になると天井が視界に入る。何も考えず目を閉じると、なぜか炭治郎の顔ばかり浮かんでしまう。
(…どうしてかな)
 自分の気持ちが見えずにもやもやする。けれど、決して不快ではなく、むしろ心地良い。そんな感情を持て余していたその時、障子の向こうに影が映った。
「……っ」
 驚いて思わず起き上がる。すると涼やかな声が聞こえてきた。
「………カナヲ?」
「…った、炭治郎?」
 障子の向こうに覗いた顔に驚いてしまう。炭治郎はカナヲを見ると、少し照れくさそうな顔を見せた。
「ごめん。こんな夜遅くに」
「う、ううん。でも…どうしたの?」
「いや、実はさ……、……っ!」
「え?」
「カナヲ、あのっ、それっ」
 何故か大慌てになった炭治郎が、急に肩に触れる。驚いていると、寝巻の衿をしっかりと重ねられた。
「………?」
 何故そんな風に慌てるのかわからず、またきょとんとしてしまう。すると炭治郎が少し焦った声で言った。
「だめだよ、ちゃんと閉じないと……」
「え?」
「寝巻の襟!そうじゃないと見えちゃうだろ。だめだよ、女の子なんだからそんな…」
「あ、う、うん」
「って、夜遅くに女の子の部屋に来た俺が言う事じゃないよな……」
「……………」
 それだけ言って炭治郎は黙ってしまう。いつもと違う雰囲気に、カナヲはそっと姿勢を正した。
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