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月明かりの下で

原作: その他 (原作:鬼滅の刃) 作者: アユーラ
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月明かりの下で2

 しかし、それから驚異的な回復力で炭治郎はいつもの状態に戻っていった。取り立てて珍しいことではない。柱はみんなそうだ。鬼殺隊員の中では早い方かもしれないけれど。
「炭治郎さん、ようやく起きられるようになってよかったですね!」
「うん、蝶屋敷のみんなが看病してくれたからだよ。ありがとう。そう言えば、しのぶさんは?」
「今は柱合会議に出られています」
「もうすぐ戻ってきますよ!」
 なほ、すみ、きよがそれぞれ答える。それを聞きながら炭治郎は小さく咳払いをした。
「そっか…、じゃあカナ……」
「あっ、炭治郎さん!禰豆子さんが今日洗濯物を干すの手伝ってくれたんです!」
「今はアオイさんと一緒に庭の掃除をしてます!」
「すごく優しいの!」
「そうか……良かった。みんなが遊んでくれて禰豆子も嬉しいと思うよ」
 禰豆子の話に炭治郎は目を細めた。けれど、すぐにまた問いかける。
「あの…、カナヲは?ここに来てからまだ一度も顔を見てないんだけど…」
「あー…カナヲさんは四日前から任務に行かれているんです」
「炭治郎さんの意識が戻らないこと、気にしていたんですけど…」
「……そうか。早く会えるといいな」
 ほんの少し寂しく歪んだ瞳を隠しながら、炭治郎は窓の外をそっと見つめた。


……………


 任務を終えて、ようやくカナヲは蝶屋敷に戻ってきた。みんなが歓迎してくれるが、まずはすぐに炭治郎に会いに行きたかった。
 部屋を訪れると、炭治郎は不死川玄弥と共に何か話していた。
「炭治郎…!」
「カナヲ!お帰り!」
 カナヲの顔を見て、すぐに炭治郎は起き上がって歩いてくる。どうやら体調は戻りつつあるようで安心した。
「任務お疲れ。大丈夫だった……、えっ」
「え?」
 炭治郎がカナヲの顔を見て息をのんでいる。理由がわからずきょとんとしていると、そっと頬に触れられたので慌てて後ずさった。
(えっ、えっ!?何!?)
「い、いや、カナヲここ怪我してるから!あっ、ここも!」
「え……、ああ」
 任務の最中に少しだけ怪我をしてしまったのだ。自分の怪我のことなどどうでもよくて、それよりも炭治郎の方がよほど心配だった。
「た……」
(炭治郎の方が重症なんだから、ちゃんと寝ていて)
 そう言いたいが言葉が出てこない。言葉に詰まるカナヲを見て炭治郎が首を傾げている。
「カナヲ?どうかしたか?」
「う、ううん」
「え?あっ、おい、カナヲー?」
 名を呼ばれたが振り向かずそのまま廊下の方へ戻った。ぱたぱたと足音を立てながら、そっと胸を押さえる。
(良かった…炭治郎、元気そうで)
 まずはそのことにホッとする。任務に出ている間も気がかりで仕方なかったのだ。
 しかし帰ってきたからには、これからきっともっとゆっくり会える時間が持てる。しばらくは炭治郎も蝶屋敷に滞在するはずだ。
 しかし、そう甘くはなかった。炭治郎のところにはひっきりなしに人が訪れるため、なかなか話す時間が取れない。
(私の順番が回ってこない……)
 部屋の扉の影に隠れてウロウロするものの、大体いつも誰かと喋っている。様々な人たちが会いに来る中で、それを押しのけられるような我の強さをカナヲが持ち合わせているわけもなかった。徐々に焦りだすがどうにもならず、しょんぼりして部屋に戻るしかなかった。
 しかしある日、炭治郎を訪ねたが部屋にいない。屋敷の中をあちこち探し回っているのに見つからない。仕方ないので庭の方へ降りていこうとしたその時、
「あっ、カナヲ!」
「炭治郎……」
 後ろから声をかけられ振り向く。急にドキドキしだした胸に手を添えた。
(どうして、名前を呼ばれただけなのにこんなにドキドキするの…)
 そんな胸のざわめきを隠して向き合うと、炭治郎はお日様のような笑顔を向けた。
「あ、あのさ、カナヲ」
「うん……」
「この前のことなんだけど……」
「この前?」
 真っ直ぐに見つめられ、同じように真正面から視線を返す。そんなカナヲを見て、炭治郎は少し口ごもった。
「あ、あの………」
「……?」
「あーっ!!居た!おい!炭治郎!!」
 しかし何か言いかけた炭治郎の言葉は、廊下の奥から響く甲高い声に遮られた。振り向くと、そこには鬼殺隊員の我妻善逸が立っている。
「ああ、善逸。久しぶ……」
「炭治郎おおおお!帰って来てたのかよ!なぁなぁ禰豆子ちゃんが庭でとんでもないことになってるんだけど、あれは何!?」
「ああ、禰豆子は今…」
「何!?何でああなったの!?燦々と陽の光を浴びてるよ!?それは俺との結婚のためなわけ!?」
「いや、あの……」
 興奮しまくっている善逸に炭治郎は困惑している。一旦説明をしなければと思ったのか、カナヲの方を振り返った。
「ごめん、カナヲ。ちょっと善逸と話してくるから」
「あ、うん…。い、行ってらっしゃい」
 せっかく二人きりになれたのに少し寂しい想いになる。視線を下げて返事をすると、毅然とした声が降ってきた。
「カナヲ、あの…今日の夜……」
「え………」
「炭治郎!いいから早く話せよ!何がどうなって禰豆子ちゃんがああなった!?」
「ああ、わかったってば!ごめん、カナヲ、後でな!」
「……うん」
 引っ張られるように連れていかれた炭治郎の背中を見つめながら、またとくんとくんと鼓動が速くなっていく。
 そっと隊服のポケットに手を忍ばせると、ずっと持っているコインが出てきた。

―表が出たら、カナヲは心のままに生きる―

 炭治郎にそう言われた時から、それまでとは違う意味で大事にこのコインを持っている。
(夜…その後何て言いかけたんだろう……)
 炭治郎の言葉の続きが気になる。けれどそれもどうしてなのか、自分にはわからない。
(……………)
 きゅっとコインを握りしめると、カナヲはゆっくりと部屋に戻っていった。
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