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銀河鉄道の夜明け

原作: その他 (原作:銀河鉄道の夜) 作者: 谷垣慶樹
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銀河鉄道の夜明け

10.カンパネルラのお父さんと
カンパネルラのお父さんは聞いているのかいないのか、じっとしていました。
ジョバンニは、話し続け、空が暗くなって、ついに、かおる子たちと別れて南十字を越えた先の話になると、カンパネルラがどこに行ったか話しました。
すると、カンパネルラのお父さんの顔は曇りました。ジョバンニは、
「先生からはこの話は誰にも話さないように言われました。だけど、カンパネルラは覚悟していました。自分から進んで、みんなの本当の幸いを探しに地獄かもしれない場所へ行きました。これは本当なんです。ザネリだけじゃない。ぼくも、カンパネルラに救われました。ぼくは昨日の夜、どこか遠くへ行きたいと強く願いました。だけど、カンパネルラはぼくを置いて行きました。
カンパネルラのように生きることが、ぼくがこれからもカンパネルラと旅を続けられる方法です。博士、もう悲しまないでください。カンパネルラとはまだまだこれからもずっと一緒です。信じてください。」
「ああ、信じているとも。ジョバンニくん。」
カンパネルラのお父さんは気だるそうに、しかしジョバンニを気づかうように、静かに笑って答えました。そして空を見上げ、何かを考えているようでした。そして、ふとジョバンニの方を向いて聞きました。
「カンパネルラがどこへ消えたか、指差して教えてくれないか。」
そう言われると、ジョバンニは立ち上がって必死に空を眺めました。
「あそこです。」
ジョバンニが指差した先は本当に真っ暗で、南十字座の近くにある明るい星々の中に大きな孔があいていました。
すると、カンパネルラのお父さんはしばらくそれを見た後、はっとして、少し嬉しそうに
「あれは暗黒星雲だよ。孔があるように見えて、本当はたくさんの塵が集まって後ろの光を遮っているんだ。あそこには他よりも濃度の濃いガスや塵が集まって、これから星になる。そうか、カンパネルラ、君はもう、誰にも見えない場所で先へ進もうとしているんだね。」
ジョバンニは、カンパネルラのお父さんが何を言っているのか理解できました。
「ぼくは、カンパネルラが空の孔へ向かった後、どうなるのか分からなかったので、誰にも教えることはできませんでした。カンパネルラは生まれ変わるんですか。」
「うん、あの子は天上で、お母さんと幸せに暮らすこともできる。だけど、そうだな。それよりも、誰かの幸せのために、もう一度生まれ変わろうとする子だ。あの子らしい。」
カンパネルラのお父さんの顔には、うっすらと笑みが見えました。それは誇らしそうにも見えます。
「ありがとうジョバンニくん。あの子にはもう会えないことは悲しいけれど、いつまでも忘れずに、心の中で共に生きていこうと思うよ。そのためにも、生きていたカンパネルラとの別れはしっかりしないといけないね。」
そう言われてジョバンニは、ほっと一安心しました。なんだか、自分の役目を果たせた気がします。
「長いこと付き合わせてしまったね。もう暗いから帰りなさい。ぼくも帰るよ。」
ジョバンニは、カンパネルラのお父さんと別れました。
そしてまた一人になりました。もう家に帰らないといけません。

11.ジョバンニのお父さんと
ジョバンニの足取りは重かったです。なぜなら泣かないように、怒らないように、お父さんに活版所をやめさせられた理由を聞かないと気がすまないからです。
「ただいま。」
「おかえり、ジョバンニ。遅かったね。心配したぞ。」
「はい。活版所に行ってきました。」
「働いてきたのかい。お前はもう、働かなくていいんだ。」
「働いていません。追い返されました。だけど、ぼくは活字拾いの仕事をやめたくなかったです。お父さんがまた出稼ぎに行ったら、ぼくと姉さんでまた働かなくちゃいけないんです。」
「その心配はいらない。今回はたしかに、なかなか帰ってこれなかったが、もう危険な仕事には行かないよ。」
「本当ですか。」
「ああ、少なくともお母さんが元気になるまでは、ここから一番近い港で働くから心配はいらないよ。」
ジョバンニにとって、それは嬉しい知らせではありました。しかし、今まで苦労してきて、それでも本当の幸いを探すとカンパネルラに誓ったばかりだったので、なんだかきまりが悪かったです。
「ジョバンニ、今朝のお前を見て、しばらく合わなかった間に大きく成長したと嬉しかったよ。お前は、みんなが本当の幸せになってもらいたいんだろう。それなら勉強をしなさい。本当の幸いは知性に宿るものだ。まずはお前が誰にでも伝えられる方法を見つけて、それをみんなに教えながら、実際に行動していきなさい。お前はもう、それができる。一所懸命に、家族のために頑張ってくれた。そしてお前はカンパネルラという友人も、家族のように愛した。そうやってお前は、みんなを家族のように愛せるんだ。そのためにも色々なことを学びなさい、その先にはきっと、今よりももっと多くの幸いがあるだろう。」
それを聞いた時、ジョバンニはまるで、夢でも誰かに同じことを言われたような気がして、無意識に自分のポケットを探りました。
しかし、ポケットの中には何もありません。それでも、何かをつかんだ気がして、
「はい、きっとそうします。お父さん、ありがとうございます。」
と、言うと、ジョバンニのお父さんは優しくジョバンニの頭を撫でて、ベッドに寝かしつけました。
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