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銀河鉄道の夜明け

原作: その他 (原作:銀河鉄道の夜) 作者: 谷垣慶樹
目次

12.銀河ステーション
銀河ステーション、銀河ステーション。
そう聞こえて、ジョバンニは目を開きましたら、ぱっと明るく、白いもやが足もとに漂っていました。
ジョバンニはベンチの上に座っていたようで、頭巾を被った人や、黒いコートを着た人たちがジョバンニの目の前を横切って、銀河鉄道の列車に乗っていきました。
「切符、今度は無くさないぞ。」
誰かがそう言って、声のした方を振り向くと、隣にはザネリが座っていました。
「思い出したんだ。昨日の夜、お前とカンパネルラは、私たちを誘って銀河鉄道に乗ろうとした。私は最後まで走ったけれど、間に合わなかった。そしてお前とカンパネルラは汽車に乗っていってしまった。そうやって、お前はいつもカンパネルラを独り占めしてきたよな。」
ザネリはジョバンニの目を睨むように見てそう言いました。
ジョバンニは、何もしていないのにどうしてここまで他人に嫌われなければならないのかと不思議でしたが、あることに気づいてザネリに話しかけます。
「ザネリもカンパネルラを独り占めしたかったんだね。ぼくもだよ。でも、それは間違いだった。」
そう言ってジョバンニは遠くを見つめました。ホームの向こうの川岸には、りんどうの花が咲いていました。
「かおる子って人がいたんだ。カンパネルラはその子とばっかり話していて、ぼくはつまらなかったけれど、つまらないと思う自分が嫌いだったよ。」
ザネリはぎくっとして、目を泳がせながら、うつむきました。それからジョバンニは、かおる子から聞いたサソリの話をザネリにもしました。そしてサソリの話を終えた後に
「ぼくのお父さんは蟹やらっこや、色んな生き物を殺して、ぼくを育ててくれた。それならぼくは、サソリのように、そしてカンパネルラのように、誰かの幸いのために生きたい。」
ザネリはそれを聞いて、落ち込んだように
「私のせいでカンパネルラは死んで、私は助かっている。だから私も、カンパネルラのように生きろって言うのか。」
「嫌なのかい。」
ジョバンニはそう聞くと、
「私、よくわからない。」
ザネリがそう答えて、それから黙っていると、汽車は汽笛を鳴らして、出発してしまいました。
「お前のせいで乗れなかったな。」
そう言ってザネリは切符を破り捨てようとすると、ジョバンニはザネリの手を握って
「その切符はずっと持っているんだ。君は君の好きなように生きればいい。だけど、それだけは持っているんだ。」
そう言って止めました。
「ザネリ、ぼくたち仲良くしようよ。学校で会っても、話しかけてもいいかい。」
ザネリははっとして、ジョバンニが何を言っているのかわかりませんでした。
「お前は馬鹿なのか。私はずっと、お前に」
ザネリは自分の声が震えてるのに気づいて、泣くのを我慢して最後まで言えませんでしたが、話しかけてもいいと、うなずいて答えました。
ジョバンニがホームの向こう側を見るとりんどうの花は、いつのまにか鈴蘭に変わっていました。

13.再びの夜明け
ザネリは気持ちが落ち着いて、顔を上げてジョバンニの方を見ると、ジョバンニはそこにはもういませんでした。
ザネリはばねのようにベンチから立ち上がると、バシャバシャという音と共に、身体中に草やシダがぶつかって、川の中に落ちました。そして川に流されそうになりながら、岸の草をつかんで、陸に上がると、空にはぼやけた太陽が上がっていました。
「急いで帰らないと。」
ザネリはそう独り言を言って、走って帰ると、その途中で
「おいこら、君はザネリさんだね。」
白い服を着た巡査は、そう言ってザネリを呼び止めました。
「ああ良かった。君はまたずいぶんずぶ濡れになっているじゃないか。君のために、たくさんの大人が君を探していたんだよ。君の両親が心配している。送ってあげるからすぐに帰ろう。」
ザネリは巡査に連れられて、家に着くと、両親に叱られました。

14.船
ジョバンニは朝、誰よりも早く学校に着くと、ちょうど新聞を届けにきた配達員と出くわしました。
「おはよう、ジョバンニ。」
「おはようございます。急にやめてしまい、ごめんなさい。」
とジョバンニは謝ると、配達員は笑って
「別にいいさ。お父さんが帰ってきたんだろう。良かったじゃないか。」
そう言ってもらい、ジョバンニは申し訳なさそうに少し照れていると、校長も学校に着きました。
「君は、ジョバンニくんだったか。おはよう。早いね。」
「おはようございます。校長先生。それでは失礼します。」
ジョバンニはそう言って立ち去り、校長は配達員と挨拶を交わして新聞を受け取り、その一面に目をやると驚いたように新聞をくしゃくしゃ音を立てて広げました。
『タイタニック号沈没』
記事にある犠牲者の一覧の中には、ジョバンニの話に出てきた人の名前もありました。校長はジョバンニが見たものは本当に夢だったのかどうか戸惑いながら、冷や汗をだらだら流して、去っていくジョバンニの背中を見つめました。

15.星
ジョバンニは教室に入って、星について書かれた学級文庫を手に、自分の席に座りました。いつも疲れて眠かったですが、今日からはもう頭がはっきりしています。
しばらくして、ザネリが教室に入ってきました。ジョバンニはザネリと目が合うと、二人ともしばらく黙ってお互いの顔を見続けて、ジョバンニが
「おはよう。」
と言うと、ザネリも
「おはよう。」
と返して、ザネリはジョバンニに近づいて、
「なに読んでいるの。」
と聞きました。ジョバンニは本を広げて、
「今ここを読んでいたんだ。」
と土星についてザネリと話しあいました。
やがて、教室に一人、また一人と生徒が入ってきて、カトウやマルソはジョバンニとザネリが仲良くしているのにびっくりしつつ談の仲間に入って、教室の中は他の生徒もそれぞれ遊んだり、おしゃべりしたりして賑やかになりました。
その賑やかな音は空にも響いて、いつもと変わらない朝を迎えました。
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