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銀河鉄道の夜明け

原作: その他 (原作:銀河鉄道の夜) 作者: 谷垣慶樹
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ザネリとジョバンニ

4.ザネリ
学校にて、ザネリは授業を受けていても集中できずに、つまらなそうに窓の外を眺めていました。
昨日の夜は帰ってすぐに暖かくして眠り、なんだか悲しい夢を見ました。しかし、どのような夢だったかは忘れてしまい、今朝はどうにも気分が悪く、休もうと思いましたが、親から
「お前はカンパネルラの分も生きなきゃいけないよ。いっぱい勉強して、人の役に立つ人間になりなさい。」
と、言われて、しぶしぶ登校しました。しかし、ほかの生徒からは話しかけられず、遠くから見られるばかりで、ザネリを心配して声をかけてくれたのは、カトウとマルソ、それと先生だけでした。
朝礼の前に先生からは、昨日のことでみんなに話したいことはあるかと聞かれましたが、なにも話したいことは無かったので、無いと言いました。なので先生は朝礼で、カンパネルラが川で行方不明になったとだけ、生徒たちに伝えました。しかし、生徒たちは、カンパネルラがザネリを助けるために死んだことを噂で知っていたので、ザネリを憐れんでそっとしておこうとする気持ちや、ザネリを憎んでいて話しかけたら喧嘩になってしまうという気持ちで、カトウとマルソ以外、誰もザネリに話しかけようとはしませんでした。
「もう時間ですね。今日はここまでです。では本やノートをおしまいなさい。」
先生がそう言うと、いっせいに本を畳む音や、机にしまう音が鳴って、ザネリははっとして、授業が終わったことに気づくのでした。
ザネリも急いで机の上を片付けて、きちんと立って礼をしました。しかしザネリは元気よく教室から出る気になれず、また座って、窓の外を眺めるのでした。

5.ザネリとジョバンニ
ザネリは学校から出て行く生徒たちを眺めていると、今ごろになって校門から入ろうとしている生徒を見つけました。ジョバンニです。
「あいつ、なんで…」
今日はジョバンニは休んでいてズルいと思って眺めていると、カトウが
「ジョバンニ、らっこの上着が来るよ」
と大声で茶化しましたが、ジョバンニは照れくさそうに何かを話し始めると、次々と生徒が集まって、ジョバンニの話を聞くのでした。
ザネリはそれを見て、きゅうっと胸が締めつけられるような気持ちとともに、怖くなって走って教室を出て、校門に駆けつけました。
「ザネリ、ジョバンニのお父さんが帰ってきたって!それと…」
マルソが続けようとすると、ザネリはそれだけを聞いて、そのまま走って帰ろうとしましたが、ジョバンニががっしりザネリの手首をつかんで、
「ザネリにも聞いてほしい。ぼく、カンパネルラがどこへ行ったか知っているんだ。」
ザネリはその一言がどうしても気になり、ジョバンニの話に耳を傾けざるを得ませんでした。
「カンパネルラはね、遠い遠い、天上のさらにその先に行ったんだ。」
そう聞くと、ザネリは何かを思い出しそうになりました。そして、ふと
「銀河鉄道の切符…」
と口に漏らすと、ジョバンニは驚き、ほかの生徒たちも、驚いたように、そして不思議そうに顔を見合わせるのでした。
ジョバンニの一言を聞いたら、ザネリはカンパネルラと銀河鉄道で旅をしていた記憶を思い出しました。いや、ジョバンニと一緒に旅をしていたような気もします。まだ記憶があやふやで、思い出そうとすると吐き気がしたので、走って逃げようとしましたが、ジョバンニがまだザネリの手首をつかんでいました。ザネリはそれを必死に振りほどこうとしても振りほどけず、ジョバンニは、ザネリが振りほどこうとしてるのに気づくとぱっと手をはなしました。
「ごめんね」
とジョバンニに心配そうに言われて、ザネリは顔を真っ赤にして走り去りました。

6.川
ザネリは、昨日、自分が溺れた川に来ていました。もう誰もカンパネルラを探していません。それでもザネリは、川を下るように土手を歩いてカンパネルラはいないかと探しました。
「ジョバンニの話はうそっぱちだ。カンパネルラはまだどこかで生きている。」
そう自分に言い聞かせて、夕方になってもザネリは歩き続けると、川辺に腰掛ける、カンパネルラのお父さんの背中を見つけました。夕陽に照らされて生まれた影は悲しそうに、まったく動かず、カンパネルラのお父さんによりそっています。
ザネリはカンパネルラのお父さんに話しかけられず、しかし何もしないこともできず、帽子をはずしてカンパネルラのお父さんの背中にお辞儀をして、歩き去りました。
そして、通り過ぎて見えなくなる前に、振り返ってカンパネルラのお父さんの横顔を見ると、カンパネルラのお父さんは ある一点を見つめていました。その視線の先を追って見ると、そこにはたくさんの花がそえられています。ザネリは気づいてはいけないことに気づかないように、ぐっとこらえて歩き続けました。
川のそばにある家々は、少しずつ家に明かりをつけ、ザネリの足もとも暗くなってきました。
「銀河鉄道…」
ザネリはそうつぶやき、空を見上げるとデネブとベガの星がくっきり見えて、ほかの天の川銀河の星々も少しずつ見えてきました。
やがてとっぷり日が暮れて、ザネリはいつのまにか、地上の川ではなく、天上の川を眺めてカンパネルラを探していました。
ザネリは暗い足もとも見ずに空を見上げていたものでしたから、足を踏みはずし、土手から転げ落ちました。両足は水に浸かり、無造作に生い茂る草やシダが、ザネリを隠しました。ザネリはそこでやっと、一人になれた気がして、声を上げないように静かに泣きました。
今なら天上のケンタウルス座も、ザネリの泣きべそを見ることをできません。
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