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銀河鉄道の夜明け

原作: その他 (原作:銀河鉄道の夜) 作者: 谷垣慶樹
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銀河鉄道の夜明け

1.家
ジョバンニは、はぁはぁ息をきらせて走りました。お母さんにお父さんが帰ってくる事を早く教えたかったのです。そして家の扉の前に着くと、部屋から楽しそうな声が二つ聞こえてきます。片方はお母さんの声だけど、もう片方はとても懐かしい、聞きたかった声です。
ジョバンニは扉を開けて走りだそうとしますが、つまずいて牛乳を落としそうになり、数歩 歩いてしっかり持ち直して立ち上がり、部屋の中を見ると、お父さんと目が合いました。
「やぁ、ジョバンニ。」
「ただいま、おかえりなさい、お父さん。お勤めご苦労様です。」
「うん。お母さんをしっかり看病していてくれたようだね。ありがとう。」
お母さんも嬉しそうに、ベッドから身を起こしてジョバンニをにこにこ見ています。ジョバンニは牛乳をコップに注ぎ、角砂糖も入れて、お母さんに渡すと、お母さんの頭には きらりと光る髪止めが付いているのを見つけました。
「ジョバンニ、お前にもお土産がある。ご覧なさい。」
そう言ってジョバンニのお父さんは、包みをジョバンニに渡しました。ジョバンニはそれをじっと見つめ、
「らっこの上着…?」
と聞くと、お父さんはにっこり笑って、ただ見つめていました。ジョバンニは答えない お父さんをもどかしく思い、包みをくしゃくしゃに開けながら、中の物を手に取り、残念そうに中の物を包みに戻しました。
「お父さん、これはただの毛皮ですよ。」
「これは らっこの毛皮だよ。これを明日、仕立て屋に持って行こう。」
ジョバンニはぱっと嬉しそうに顔を上げましたが、また顔を下に向けて、
「僕も町に行きたいけれど、明日は学校と仕事があるから だめなんです。」
「明日は学校も仕事も休みなさい。お前も来るんだ。そうしないと採寸できないだろう。」
「僕、やっぱり、らっこの上着はいらないです。」
そう言うと、ジョバンニは急ぐように自分のベッドに入って、寝たふりをしました。ジョバンニのお父さんは、何度もジョバンニを呼びましたが、ジョバンニはそれを無視し続けて、目をつぶっています。
やがて、ジョバンニのお姉さんが帰ってくると、お姉さんが大きな声をあげて父親の帰りを喜んでいるようでした。
父親はジョバンニにかまうのをやめて、お姉さんと楽しそうに話を始めました。

2.草原
ジョバンニは誰にも気づかれないように、うっすら目を開け、壁に映った自分の影を見つめました。部屋の明かりがジョバンニの影をゆらゆら揺らし、ジョバンニはそれをずっと見つめていると、その影に目が現れ、ジョバンニを見つめました。ジョバンニは静かに見つめ返すと、今度は白い歯が見え、鼻が現れ、真っ黒な顔がジョバンニに近づきました。
その顔はどこかで見たことがあるような気がして、よく思い出そうとすると、カンパネルラに似ているようでした。それに気づいた時、目の前がさあっと暗くなって、ジョバンニは何度も目を擦りました。
あたりを見回すと、きらきらと光る鈴蘭の草原の中に、ジョバンニはぽつんと立っていました。
ぽうっと大きな音がして、音が聞こえる方を見ると、汽車がジョバンニに迫り来る勢いで近づいてきました。ジョバンニは汽車の進行方向の左手に向かって、走って逃げようとすると、何かにつまづいて飛ぶように転んでしまい、汽車は走り去って行きました。そこで初めてジョバンニは、自分が線路の上に立っていたことに気づいて、走り去った汽車を見つめました。
しかし、汽車はどんどん遠くへ行ってしまいました。ジョバンニは何かとんでもない失敗をしてしまったような気がします。
ジョバンニは ひざまずき、顔を両手で覆い、泣かないように我慢しました。

3.夜明け
ジョバンニが目を覚ますと、部屋いっぱいに太陽の光が入って、部屋を明るく照らしていました。日が高いので、ジョバンニは自分が寝坊してしまったことに気づき、あわてて起きると、お父さんが言いました。
「大丈夫。今日はお休みだよ。学校にも活版所にも話をしておいた。さぁ、出かける支度をしなさい。」
ジョバンニは不安そうにお父さんを見ました。
「お父さん、カンパネルラがザネリを助けるために死んだよ。今日、ぼくは学校に行って、みんなを元気にしたいんだ。きっとみんな、カンパネルラが死んで悲しいはずだから、ぼくがカンパネルラがどこへ行ったのか教えたいです。」
「ああ、聞いているよ。博士にも挨拶してきた。だけどジョバンニ、お前はいつもカンパネルラたちから仲間はずれにされていたのだろう。らっこの上着を着て、みんなに見せなくていいのかい。」
「ぼく、らっこの上着はいらないです。それよりも、みんなが本当の幸せになれるようになりたいです。」
ジョバンニのお父さんは ほうと言い、しばらく考えた後、
「分かった。今からでも行ってきなさい。着く頃には学校も終わる頃だが、みんなと話をしてきなさい。」
「ありがとうございます。お父さん。」
ジョバンニは靴を履いて、昨日の残りのパンを少し食べ、顔を洗い、鞄を手に持ちました。お姉さんはもう先に出かけていたようで、家にはお父さんとお母さんしかいませんでした。
「それでは お父さん、お母さん、行ってきます。」
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