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おとぎの国へようこそ!

原作: その他 (原作:薄桜鬼) 作者: 澪音(れいん)
目次

ヘンゼルとグレーテル②


※グリム童話にそって構成を組んでいます。
ただ、最後の部分だけ残虐な描写がないように変えてしまいました。
原作通りでないものが苦手な方は閉じられることを推奨いたします。


「捕まえた。もう逃げようったって、逃がすものかい」

外にでたおばあさんはそう言って庭先にある水くみ場を見ました。
この親切なおばあさんの正体は、2人がこの森へやってくる前日に父が言っていた
「魔女」だったのです。
魔女はとっても目が悪い生き物でした。その分人間の臭いを嗅ぎつける嗅覚を持っていました。
だから、平助と千鶴が森へやって着たときから2人がこの屋敷へやってくるように誘導していたのです。

起きた時にはもう遅く、暖炉近くに縄で縛られた平助を見た千鶴は小さな悲鳴を上げます。
あの時、何としてでも平助を説得して帰ればよかったと、後悔しても遅いのです。
ガチャリと音を立てて扉が開いた音に、千鶴は思わず目をつぶり寝たふりをしました。
まだ平助は起きません。おばあさんだろう足音は千鶴とは少し離れた暖炉の方へと向かうと、少ししてからこちらに向かって来るのが分かりました。
嫌な心臓の音が、おばあさんに聞こえてしまわないように、起きているのがバレないように、おばあさんの隙を見て平助を連れて早くここから逃げなければなりません。
そんな千鶴の思案が分かったかのように、おばあさんは千鶴の肩を乱暴に揺すると「起きな、ほれ起きな」と何度も起きるように促しました。

「さあ、早く起きて水を汲んでおいで。兄さんに美味しい物でもこしらえておやり。せいぜい太らせなきゃ、だいぶ脂ののったところでおばあさんが食べるのだからな」

昨日の優し気なおばあさんは何処へ行ったのでしょう。
千鶴は泣きそうになるのを必死にこらえながら、未だに眠っている平助が起きるように念じますが、一向に起きる気配はありません。

あの時、お父さんとの約束を忘れなければよかったのです。
きっと父はあの後家に帰っていない2人に気付いて森へと探しに来てくれたでしょう。
けれど父は平助と千鶴は果物園に行ったとばかり思っています。
こんな森の奥深くまで、探しに来てくれる保証はありません。
しっかり者の千鶴は自分が平助を説得しきれなかったことを悔やみながら立ち上がり、おばあさんが促す通り水汲み場までやってきました。

千鶴は水をいっぱい入った大鍋をつるして、火をつけるように言われました。
きっと2人共無事には済まないでしょう。お父さんが毎日言っていた、「森へは行くなよ」の言葉が今頃身に染みて分かることになるなんて、千鶴は思いもしませんでした。
「ほら先にパンを焼くんだよ」そう言ったおばあさんは、千鶴をパン焼きかまどの方へ、強く突き飛ばしました。かまどからはもう炎がちょろちょろと見えています。

「中へ入ってごらん」

魔女は千鶴にそう言うと、つい、と指でかまどの中を指さします。

「火がよく回っているか見るんだよ。よければそろそろパンを入れるからね」

これでもし、千鶴が中に入ればおばあさんは直ぐにかまどの蓋を閉めてしまうつもりでした。
そして千鶴はきっとかまどの中で焼かれてしまうのでしょう。
しかし千鶴は嫌な予感がして、おばあさんに問いかけてみる事にしました。

「ごめんなさい、私こんな大きなかまどを見たのは初めてでどうしたらいいんだか分かりません。中に入るってどうするんですか?」

おばあさんはそれを聞いてそれはもう不機嫌そうな顔をします。

「目を開けてよく見ればわかるだろうに。この通りおばあさんだって入れるのだから」

おばあさんは千鶴に見ているように言うとかまどの中へ顔だけそっくり入れ込みました。
するとどういうことでしょう。いつの間にか起きていたのやら、平助はおばあさんの隙をついて千鶴の方へと走ってくると「逃げるぞ」と戸口の方へと向かいます。

「これ待て!」

それにはおばあさんもびっくりしました。
気持ちの良さそうに眠りについていた平助がまさか、寝たふりだったなんて思いもしませんでした。千鶴が扉を開けると追ってくるおばあさんから逃げるように2人でお菓子の家を飛び出します。

「これ、待ちやれ!」

おばあさんも久しく見ていない人間の子供に必死になって追いかけてきます。
どんどんと森を駆け抜け、家へと帰ればきっと父が居てくれる。
そうしたら謝ろう。随分と帰りが遅くなり心配をさせてしまったことを、そしてもっといい息子、娘であれるようにしようと心に誓いながら山道をずんずんと進んでいきました。

けれど幼子であり、ひとりは動けぬように縛られていましたから、すぐにおばあさんに追いつかれ千鶴はその細い腕をおばあさんに掴まれてしまいます。
いくら男の子と言えど、まだ年端の行かない子供。必死にその手を千鶴から離させようとしますが、おばあさんはそんな平助を払いのけます。

「ええい、この悪ガキめ。連れて行ってかまどの中へひょいっと、くべてやる」

相手はおばあさんと言えど、大人と子供の力の差は歴然としていました。
どんどんと引きずられまたお菓子の家の方へと戻されていく千鶴に、平助はそんなおばあさんの腕にしがみつき必死に抵抗します。

もうお父さんの言いつけを破ったりしないから、神様と心の中でうんと誓いながら平助は必死におばあさんの腕に食らいついたその時です。

原田「平助!千鶴!」

沖田「2人共無事!?」

ずっと2人が心の中で求めていた父と、村人数人が思い思いの武器を持って2人を探してきてくれたのです。おばあさんはそれを見て少しばかり怯みましたが千鶴をうんと自分に引き寄せるとその首根っこを掴んでしまいます。



つづく(次回完結)

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