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おとぎの国へようこそ!

原作: その他 (原作:薄桜鬼) 作者: 澪音(れいん)
目次

ヘンゼルとグレーテル①



大きな森の麓にある小さな家。
そこではお父さんと一緒に2人の子供が暮らしていました。
2人の子供のうち、男の子が平助、女の子が千鶴。
生活は決して裕福なものではありませんでしたが、親子3人力を合わせて暮らす生活に不満などなく。ただ一つだけ、村から離れたこの近辺では満足に食料が確保出来ないことはお父さんの唯一の悩みでした。
まだ幼い子供たちは食べ盛り、そんな2人に我慢などさせたくはありませんが、日中は仕事がある為なかなか上手いようには事は運びません。
そこでお父さんは、2人にある頼みごとをすることにしました。

原田「2人共いいか?この森の道を進んだ先にある開けた場所に果物のなる木が植えてある。
そこで果物を少しばかり採ってきてくれねぇか?」

藤堂「わかったよ、左之さん。地図にある場所に行けばいいんだな?」

原田「そうだ。けれど森の奥には行かないようにな。そこには怖い怖い魔女が居るっていう噂だ、暗くならねぇうちに帰ってくるんだぞ」

雪村「わかりました、原田さん。行って参ります」

平助と千鶴は翌朝、少しの食料と森へ行く準備を整え、日が昇ると同時に家を出る事に。
行く前に見送りに出てきた父が、心配そうにこちらを見ているに「大丈夫だよ」の意味も込めて手を振り、2人仲良く森の中へと入っていきました。



千鶴「平助君、あの二手道を右に曲がって少し行ったところが原田さんの言う果実園みたい」

藤堂「そうみたいだな。左之さんも言ってたし早めに行って早く帰ろうぜ、千鶴」

果実園は父の行っていた通り、森に入ってすぐの開けた場所にありました。
美味しそうに実った果実を2人は手分けをして次々と籠へ入れていき、父に渡された2つの手提げカゴはあっという間に果実でいっぱいになりました。
もういいだろう、と腰を上げた千鶴は辺りを見回して平助を探しますが、彼はどうやら木の実を探しにどんどんと奥の方へと進んでしまった様子。遠くのほうで「千鶴―!来て見ろよー!」なんて声が聞こえた千鶴はそちらへと足を進めながら「もう家に帰ろうよ」と彼に聞こえるように言いますが、平助は「早く早く」と急かすばかり。

千鶴「平助君、もう戻ろうよ。原田さんも遅くならないうちにって言ってたし」

藤堂「まだ大丈夫だって千鶴。朝早くに出てきてまだこんなに日が高いんだからさ」

千鶴「でも…果物はもうこんなに集まったし、仕事から帰ってきた原田さんが心配するよ?」

藤堂「大丈夫だって。あそこに千鶴に見せたいものがあったんだ」

千鶴の手を引いて奥へ奥へと行く平助に、千鶴は何とか説得を試みようとしても「大丈夫だから」の一点張り。お父さんの帰ってくるおやつの時間までには帰ろう、そう決意した千鶴はそのまま平助の後に続くように森の奥へと進んでいきました。



千鶴「平助君、もう引き返そうよ。もう随分になるよ」

藤堂「大丈夫だって…ほら見えてきた!」

平助に手を引かれてやって着た先に見えたのは一軒の民家。
それにしてもこんなところに家があるだなんて、今まで聞いたこともありません。
誰か住んでいるのだろうか、そう不安に思いながらもあっという間に家の前へとたどり着いた2人はその家が他の家と少し違う事に気づきました。
その家はなんと、屋根も窓も、扉やそこの庭に咲いている花や草木まで、何もかもがお菓子で出来ています。甘い香りと可愛らしいその見た目に感嘆の声を上げ、手を伸ばした平助に千鶴はその手を止めます。

平助「なんだよ千鶴、ちょっとくらい大丈夫だって」

千鶴「ダメよ平助君。人の家のものを勝手に取ったりしちゃ」

兄よりしっかり者の妹は、兄の手をそっと引くと「さあもう帰ろう」と促します。
千鶴にとってこの可愛らしい家にどんな人が住んでいるのかを明かすよりも、父との約束の方が大事だったのです。

千鶴「ほらもう帰ろう、平助君。もういいでしょう?」

そう言って自分の手を引く妹に、平助は名残惜しさを感じながらお菓子の家から少しずつ離れて行った、その時でした。

平助が名残惜しく見ていたお菓子の扉が音を立てて開き、中からおばあさんが出てきたのです。
それには平助は驚き、千鶴に慌ててそれを教えると、千鶴は家の前で騒いでしまったため住人が出てきたのだと思い慌てました。
けれど、中から出てきたおばあちゃんはそれを少しも気にした様子もなく、むしろ2人に優しい笑顔を向けるとちょいちょいと手招きをします。

「可愛らしい子供たち。誰に連れられてきてしまったのかな。さあ、そこは寒いだろう。中に入ってゆっくりお休み、温かいお茶でも入れるから」

千鶴「ごめんなさい、おばあさん。せっかくのお誘いだけれど、仕事から帰ってくるお父さんを心配させるわけにはいかないの。」

「しっかり者のお嬢さんだね、どれ。美味しいお菓子もたくさんあるし、まだ朝じゃないか。ほんの少しだったらお父さんにも怒られないよ。だからほらおいで」

平助「千鶴、せっかくこう言ってくれてるんだしさ。それにきっとおばあさんも寂しいんだぜ。俺たちのところですら人が来るのが稀なんだ。それにお菓子も気になるしさ!」

千鶴「平助君ったら、もう」

平助とおばあちゃんの2人に促されてしまった千鶴は、少しだけなら、と家の中に入ります。
中に入ると、お砂糖のお菓子や、焼きまんじゅう、お団子に果実のふんだんに使われたお菓子、おいしそうなごちそうばかりテーブルに並んでいました。
おばあさんはとっても優しく、2人にどんどんお食べと色々な料理を振舞います。
そんなおばあちゃんとの楽しいお喋りに、2人はすっかりお父さんに言われていたことを忘れてしまっていたのです。

すっかり寝入ってしまった平助と千鶴に、おばあちゃんは座っていた椅子からそっと立ち上がり家の戸口から外へと出て行ってしまいました。


つづく

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