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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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わけありの一族

「ちょっと、調子に乗らないで!」とライザ。
 シャールは少しだけ頬を紅潮させていた。
「まあ、脱線はこれくらいにして」
 ライザが話を元へと戻そうと仕切り直す。
「ケイン追跡の件に関しては全面的に協力しあいましょう。少佐はどう判断するかわからないけれど、情報部としては得られる情報は多いほどいいし。で、それとは別に、こちらとしてもあなた、マックス(仮名)に協力を要請したいことがあるの。
 1、汽車の事故の真相解明。
 2、行方不明の少佐と隊員の追跡と調査。
 3、蔦の持ち主の確保。
あなたにとっては一族を裏切る感じになってしまうと思うけれど、無関係な人間を手に掛けたことは許せない。そして、これで終わりとは思えない。二次三次と続くだろう被害を止めたい。それはあなたにとっても望んでいることだと思うのだけど、違ったかしら?」
「いや、違わないよ、少尉。そちらの要請に全面的な協力をするよ。だから、俺たちのボスに会ってほしい。人間が入り込むことは望ましくはないけどさ。俺たちは好き勝手に人間の世界に入り込んでいるんだからお互い様だよな? うん、そのあたりはたぶん俺たちのボスなら大丈夫だと思う。反人間派閥の目からは責任もって守る」
「つまり、そちらがわの世界に行くってこと? 私はいいけど」
 ライザがハンクとシャールの意志を確認する。
「俺は構わん」
「私も……」

 こうしてシャール、ライザ、ハンクは吸血鬼一族が棲む世界へと行くことになった。

※※※

 霧がたちこめ、視界が悪くなる。
 どうやら彼らにとって霧は身を隠すなどのほかに、移動手段としても使っているらしい。
 霧が晴れると、今までいた洋館の中の一室、暖炉がある部屋から一変、肌寒い地下室らしき場所に変わる。
「どうなっているの?」
 ライザはもうなにが起きても驚かないわ……! という意思が簡単にへし折られる衝撃を受けた。
「一族の者なら誰でも持っている能力だよ」
 マックス(仮名)は当然のような口振りで説明をした。
「ああ、でも。移動できる距離には個人差があって、そんで力にも差があるから運べる人数だったり残像の消し方、臭いの遮断とか、いろいろオプションもあるんだよ」
 と、ついでとばかりに付け足した。
 どれくらいの距離を移動したかは計り知れないが、一度に本人含め四人を移動できるのだからそれ相応の力があるということだけはわかったような気がしたライザだった。
 人は見かけによらず。
 外見や口調、性格だけでは簡単に判断はできない。
 ひょうひょうとしてチャラいマックス(仮名)は、意外とそうではないのだと理解したのは、きっとライザだけではないはず。
 現に、ハンクは何かを思い出したのか、考えるような仕草をわずかな間だがしていた。
「で、ここは?」
 ライザはあたりを見回しながら訊ねた。
「一応、拠点の地下室に移動したはずなんだけど……」
 地下室らしいと思ったのは正解のようだ。
「なんで地下室なのよ!」
「なんでって。こういう秘密的な集まりって地下室が相場じゃん」
「……え? それだけの理由?」
「正面からでもいいんだけど。まあ俺だけなら正しく正面から入るけど、事前予告や承諾なしに人間を三人も連れてきちゃったからね。人目は避けたいよね。で、たぶん誰かが入ったっていうのは知られていると思うんだ。人の臭いは特別だからね。で、下っ端に様子確認はさせないと思うから……」
 とマックス(仮名)がそんな説明をしていると、地下室に近づく足音が聞こえてきた。
「なんだ。突然どこからともなく現れるのかと思ったが、そうではないんだな」
 ハンクはまさかの徒歩で接近に拍子抜けしたかのような口調。
 それに対しシャールが、
「ハンクさん。能力には個人差があるとさきほどマックス(仮名)さんがおっしゃってましたよ?」
 と囁くと、
「そうだったな……」
 と、相づちを打つ。
 だがマックス(仮名)は下っ端は来ないと言っていた。
 下っ端ではないのなら、それなりの能力保持者であると思うのが常ではないだろうか。
 上の者が来るのであれば、マックス(仮名)と同等かそれ以上。
 そう考えたからこその徒歩で近づくことに驚いたのだった。
 ハンクの意図はマックス(仮名)にはわかっていたようで。
「ヘンリエット曹長。一応一族のプライドとして説明しておきますけど。能力=地位ではないですから。能力が全てという考えは、人だけだと思うよ? まあ、それがいいか悪いかはわからないけど。人望とか統括力っていうのは特殊な能力の大きさとは関係ないというのが俺たちの考え。でも、中には人間と同じ考えの人もいてね。だから派閥がある。ま、そういうこと」
 マックス(仮名)がそう言い終えるのと同時に、近づいていた足音が止まる。
 シャールでさえ気配をしっかりと感じているのだから、ハンクやライザも当然気づいていた。
 ただ、その気配から敵意というものは感じない。
 警戒だけはしつつ、ハンクは殺意のような敵対心を押さえる。
 ライザはシャールの近くにより、彼女だけは守ろうという体制をとる。
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