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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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別の世界へ

 マックス(仮名)は「大丈夫だよ」といいながらも、誰が来たのかまではわからないようで、ヘラヘラした態度ではない。
 いままさに開こうとしている扉に集中した。

「どういう状況だ?」
 扉のその先から声がした。
 とても物静かな雰囲気のある声色と口調。
 声のトーンはとても聞き取りやすい。
 高くもなく低くもない。
 だが声だけでは性別の判断が難しい。
「マックス(仮名)て名で人間界の調査をしていたんだけどね。とても有意義な情報を持ち帰った」
「そうか。ではそこにいる数人の人間は戦利品か?」
「違うよ。協力者だ。それと、ちょっとあっちで問題が起きた。特例として彼らの立ち入りを許可してくれないかな」
 するとしばらく沈黙。
 時折ボソボソとした声が聞こえてくる。
 判断しにくい状況なのだろう。
 ライザはもしもの時のことを聞き忘れていたことを思いだし、マックス(仮名)の耳の近くで囁いた。
「もし、許可してくれなかったら?」
「たぶん平気だと思うけど。でも万が一って時は俺がちゃんと送り届けるよ。それくらいの余力はあるからさ」
 マックス(仮名)は余力と言った。
 彼にどれだけの力があるかはまだ断定できていない。
 だが余力という言い方をし、それが自分たちを元の世界に戻せるくらいしかないと言っていることから、断られた場合は相手の機嫌を損ねないよう、戻ることを阻まれないようにしなくてはならない。
 最悪、シャールとハンクだけでも……
 ライザがそう考えを固め終えた頃、扉の向こう側の気配が変わった。
「マックス(仮名)。その名で情報収集をしている命の確認は取れた。あいにく、代表はこの場にいなくてね。代理のボクがあなたの申請を許可する。だけど条件がある。彼ら人を無闇に立ち入らせたくはない。地下から出ないことを約束してもらいたい」
 警戒をされている。
 歓迎されていない。
 言い方はいろいろあるが、まあそんなところなんだろう。
 そっちは勝手に行き来しているのに。
 不満がないといえば嘘になる。
 それでもライザたちは聞き入れるしかなかった。
 別々で行動されれば行く手を阻まれることもあるし、争いが起きるかもしれない。
 であるならば、協力関係にあった方がスムーズにことが進むことは明白だからだ。
「なんか言いたいことも多々あるけど、あちらの条件を聞き入れるしか手段はないようね」
 ライザが言うと、
「ごめんね。意外と警戒心が強くてさ。でも、仕方ないんだ。異能の持ち主は人間にとって化け物であり驚異だからね。擬神兵の存在が物語っていると思わない?」
 マックス(仮名)の視線はハンクを見ていた。
「ああ、まったくその通りだ」
 ハンクは呆れたような口調で返す。
 シャールも、戦争中は神とまで称えあがめていた擬神兵を、終戦してしまえば化け物扱い。
 それを目の当たりにしたことから、マックス(仮名)の言葉には頷ける部分があり、そのまま黙っていた。
「それに関しては、まったくその通りよ」
 ライザがマックス(仮名)の言葉に肯定的な返答をしたことで、こちら側の意見は一致と見なされた。
 マックス(仮名)は「それで問題ない」と返すと、金属がこすれる音と、別の物質同士が擦れあう音とがして、重々しく扉が開く。
 その先から光が射し込み、こちら側を照らす。
 明かりがランプの灯りであるとわかると、一斉に緊張を解く。
 それからゆっくりと相手の姿を確認した。
 向こう側は前にひとり、その背後にもうひとりがいて、その者がランプを持っていた。
 前にいた人物が代理と言っていた者だろう。
 腰ほどまである黒髪をゆったりと後ろにひとつ結びをしている。
 物語などに出てくる黒魔法、魔術師のような雰囲気だな……とシャールは思った。
 黒い瞳に透き通るほどの白い肌。
 だけど唇だけは異様に赤く、そこだけが異常に目立っていた。
 背後にいた者は深くフードを被り人相はわからない。
 だがこちらと敵対する気配は感じられなかった。
「この奥に会議室があります。そこで話しましょうか」
 黒髪の男性……声だけでは判断ができなかったが、姿は誰が見ても男性にしか見えない。
 その者が先頭になり、移動をした。

※※※

 案内された会議室は円卓が置かれ、部屋の入り口にあるランプに灯りが点くとかなり広い空間であることがわかった。
 等間隔にあるランプにフードを被った者が灯りを点していくと、その全貌が明らかになった。
 壁は石造り、円卓は木、椅子も木だが座り心地のよさそうなクッションが置かれている。
 時計代わりなのか、砂時計らしきものも置かれ、円卓には白いクロスがかかっていた。
 おどろおどろしい感じなのかと勝手に思っていたライザは拍子抜けである。
 その様子からマックス(仮名)は彼女がなにを思っていたのかを悟り、ひとり吹き出し笑い。
 なぜ彼が笑うのか、笑う要素がどこにあったのかがわからない残された面々は、ただただきょとんとして立ち尽くすしかなかった。
 しばらくしてマックス(仮名)の笑いが収まると、
「マックス(仮名)に指示を出していた者は不在で、その代理をしていますアストレイ(仮名)と言います」
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