手の怪我
仮に私が木刀を手にしたところで。真剣に勝てるわけがない。
ああ、殺されるのかな?
私はせめてもの抵抗で、左手で刃を掴んだ。
無駄な抵抗とわかっていても、なんの意味もない行為とわかっていても、刃を掴む力を強める。そして思いっきり、奴を睨む。涙のたまった目だから、迫力なんてないだろうけど。
手からは血が流れてきたけどおかまいなし。
私のその行動を見てか、男は刃を鞘にしまいだした。
なんだかよくわからないけど、助かった……?
ククク、面白れぇ。そういう態度は嫌いじゃねぇな。
と呟き、私の視線と合わせるようにしゃがみこんできて、その男は私の耳元に顔を近づけてきた。
「なあアリス。次に会う時までに、その腰の舐めた木刀、真剣に変えとけ」
そう言い男はもう一度私に口づけをするとその場から去っていった。
今度は唇と唇がふれるだけの軽いキス。
「なっ……」
次に会う時だとか、また口づけだとか、突っ込みたいところはいっぱいあるけど。
この人。
なんで私の名前を知ってるの……?
男が去った後も私はしばらく放心状態で、でも手の手当てを早くしなければ。と思ったのですぐに屯所へと戻った。
誰も起こさないように静かに自分の部屋に戻り、淡々と自分の手に包帯を巻き、手当てを終える。
そして私は着替えてから布団に潜り、静かに涙を流した。
頭の中でさっきの出来事が、あの男の顔がちらついてくる。
ああ、やっぱり、今日は眠れそうにないや。
前に男に騙された時があったが、その時とは比べ物にならないくらいの恐怖心でいっぱいだった。
土方さんの言っていた、もっと危険なやつ、とはこういう人のことなんだ、ということが理解できた。
されるがままにされた自分が悔しい。攻撃をすることができなかった自分に嫌気がさす。
強く……なりたい。
早朝。
けっきょく私はあれから一睡もすることができなかった。
7時過ぎになり、総悟が勝手に入ってきて起こしにきたが、私が目を覚ましていることに気づき、あからさまにがっかりとした顔を見せてきた。
総悟の後ろから縄のようなものや怪しい道具が見え隠れしていて、とても気になった。
私が眠っていたら何をするつもりだったんだ。
「それ、どうしやした」
それって何?と思うと、私の左手を指差している。
怪我のことか。なんて答えよう。刃を掴んだだけなのでたいした怪我ではないのだが、私の包帯の巻き方が少し大げさに見せてしまっていた。
本当のことは言いたくない。
「これ?万事屋にいた時に料理をしたんだけど、その時に包丁で怪我しちゃってー」
自分でも苦しい嘘だと思う。でも
「……ばっかでーィ」
なんて言ってきたから、信じたのかな?
「昨日はそんな怪我してなかったじゃねぇか」
「え?昨日も巻いてたよ、包帯」
昨日は朝しか総悟と会ってないし、手は布団に隠れて見えていなかったはず。
「気のせいですかねィ……」
そう総悟が小さく呟いた。
今、冷静になって考えてみれば私はなんであんな無意味な行動をしたんだろう。
無駄に怪我しただけではないか。そりゃ、何もしないで事の成り行きを見てるのは悔しかったけど……
こんな怪我ですまなかったら、もしも私が斬られてたりでもしてたら、私はどういう言い訳をしていたんだろう。
料理中に怪我した、なんてもんじゃ通せなかっただろう。
不本意ながら、刃を向けただけで斬りかかってこなかったあいつに感謝をする。
他の隊士、特に近藤さんや土方さん、ザキにも同じような質問をされたら嫌なので、不自然だけど左手をポケットに突っ込みながら一日を過ごした。
歩いていると、冷蔵庫の前で
俺のコーラがない……と呟いているザキを発見した。
「コーラがどうかしたの?」
「ああ、アリスちゃん。入れておいた俺のコーラがないんだ。誰かに飲まれちゃったかな?」
「コーラといえば私、昨日ここに入ってるの飲んだよ。山崎ってかいてあったけど、誰のかわからないから飲んじゃった」
「いや、それ俺のだってわかってるよね!?確信犯だよね!?」
「はいはい、ごちそうさまー。でも、次は炭酸以外でお願いね」
飲めるには飲めるけど、炭酸は一気飲みしづらいから好きではない。
「ねえ、ちょっと聞いてる?しかも次も俺の飲み物飲む気なの?」
「もー、うるさいなぁ。あ、ほら。クッキーのお礼ってことで、ね?」
「いやぁ……お礼ならもっとちゃんとした形でしたいよ……」
「ん?何て?……あっ!午後から私見回りだった!じゃねっ」
そう言って私はその場から立ち去った。
今日の私は睡眠不足で、見回りの途中に公園のベンチで眠ってしまった。
いつだったか見回り中にサボって居眠りをする総悟を怒ったことがある。
でも今の私は、人のこと言えないな。
……たまには、こんなふうにするのも、いいよね。
日付がかわって、こちら、近藤勲。
最近、アリスちゃんの頑張りが目に見えてくる。
当初からあの子は頑張りやでまっすぐな子だとは思っていたが、稽古をおろそかにする隊士がいる中、あの子は稽古に一生懸命取り組んでいる。
ああ、殺されるのかな?
私はせめてもの抵抗で、左手で刃を掴んだ。
無駄な抵抗とわかっていても、なんの意味もない行為とわかっていても、刃を掴む力を強める。そして思いっきり、奴を睨む。涙のたまった目だから、迫力なんてないだろうけど。
手からは血が流れてきたけどおかまいなし。
私のその行動を見てか、男は刃を鞘にしまいだした。
なんだかよくわからないけど、助かった……?
ククク、面白れぇ。そういう態度は嫌いじゃねぇな。
と呟き、私の視線と合わせるようにしゃがみこんできて、その男は私の耳元に顔を近づけてきた。
「なあアリス。次に会う時までに、その腰の舐めた木刀、真剣に変えとけ」
そう言い男はもう一度私に口づけをするとその場から去っていった。
今度は唇と唇がふれるだけの軽いキス。
「なっ……」
次に会う時だとか、また口づけだとか、突っ込みたいところはいっぱいあるけど。
この人。
なんで私の名前を知ってるの……?
男が去った後も私はしばらく放心状態で、でも手の手当てを早くしなければ。と思ったのですぐに屯所へと戻った。
誰も起こさないように静かに自分の部屋に戻り、淡々と自分の手に包帯を巻き、手当てを終える。
そして私は着替えてから布団に潜り、静かに涙を流した。
頭の中でさっきの出来事が、あの男の顔がちらついてくる。
ああ、やっぱり、今日は眠れそうにないや。
前に男に騙された時があったが、その時とは比べ物にならないくらいの恐怖心でいっぱいだった。
土方さんの言っていた、もっと危険なやつ、とはこういう人のことなんだ、ということが理解できた。
されるがままにされた自分が悔しい。攻撃をすることができなかった自分に嫌気がさす。
強く……なりたい。
早朝。
けっきょく私はあれから一睡もすることができなかった。
7時過ぎになり、総悟が勝手に入ってきて起こしにきたが、私が目を覚ましていることに気づき、あからさまにがっかりとした顔を見せてきた。
総悟の後ろから縄のようなものや怪しい道具が見え隠れしていて、とても気になった。
私が眠っていたら何をするつもりだったんだ。
「それ、どうしやした」
それって何?と思うと、私の左手を指差している。
怪我のことか。なんて答えよう。刃を掴んだだけなのでたいした怪我ではないのだが、私の包帯の巻き方が少し大げさに見せてしまっていた。
本当のことは言いたくない。
「これ?万事屋にいた時に料理をしたんだけど、その時に包丁で怪我しちゃってー」
自分でも苦しい嘘だと思う。でも
「……ばっかでーィ」
なんて言ってきたから、信じたのかな?
「昨日はそんな怪我してなかったじゃねぇか」
「え?昨日も巻いてたよ、包帯」
昨日は朝しか総悟と会ってないし、手は布団に隠れて見えていなかったはず。
「気のせいですかねィ……」
そう総悟が小さく呟いた。
今、冷静になって考えてみれば私はなんであんな無意味な行動をしたんだろう。
無駄に怪我しただけではないか。そりゃ、何もしないで事の成り行きを見てるのは悔しかったけど……
こんな怪我ですまなかったら、もしも私が斬られてたりでもしてたら、私はどういう言い訳をしていたんだろう。
料理中に怪我した、なんてもんじゃ通せなかっただろう。
不本意ながら、刃を向けただけで斬りかかってこなかったあいつに感謝をする。
他の隊士、特に近藤さんや土方さん、ザキにも同じような質問をされたら嫌なので、不自然だけど左手をポケットに突っ込みながら一日を過ごした。
歩いていると、冷蔵庫の前で
俺のコーラがない……と呟いているザキを発見した。
「コーラがどうかしたの?」
「ああ、アリスちゃん。入れておいた俺のコーラがないんだ。誰かに飲まれちゃったかな?」
「コーラといえば私、昨日ここに入ってるの飲んだよ。山崎ってかいてあったけど、誰のかわからないから飲んじゃった」
「いや、それ俺のだってわかってるよね!?確信犯だよね!?」
「はいはい、ごちそうさまー。でも、次は炭酸以外でお願いね」
飲めるには飲めるけど、炭酸は一気飲みしづらいから好きではない。
「ねえ、ちょっと聞いてる?しかも次も俺の飲み物飲む気なの?」
「もー、うるさいなぁ。あ、ほら。クッキーのお礼ってことで、ね?」
「いやぁ……お礼ならもっとちゃんとした形でしたいよ……」
「ん?何て?……あっ!午後から私見回りだった!じゃねっ」
そう言って私はその場から立ち去った。
今日の私は睡眠不足で、見回りの途中に公園のベンチで眠ってしまった。
いつだったか見回り中にサボって居眠りをする総悟を怒ったことがある。
でも今の私は、人のこと言えないな。
……たまには、こんなふうにするのも、いいよね。
日付がかわって、こちら、近藤勲。
最近、アリスちゃんの頑張りが目に見えてくる。
当初からあの子は頑張りやでまっすぐな子だとは思っていたが、稽古をおろそかにする隊士がいる中、あの子は稽古に一生懸命取り組んでいる。
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