高杉
喉も潤ってすっきりしたし、少し夜風にでも当たろう。
そう思い私は縁側に座り、月を眺めた。今日は綺麗な満月だなぁ。
しかし、黙っていることが苦手な私はその場で足をじたばたと動かし
「やっぱ、座ってるだけじゃつまんないから散歩でもしに行くかっ」
そう独り言を呟き、私は座って1分もしないうちに立ち上がった。
流石にこの格好じゃ外へは出れないから、着替えることにした。
適当に、一番近くにあった隊服を着た。こういう時に下はスカートだな。
そして私は屯所を出る。
本当は、誰かと夜の散歩をしてみたかったな、なんて。
でも起こすのはとても悪いし。それに見回りという名の散歩なら、いろんな人といつもしてるから、まあ、いっか。
屯所から、そう離れてない場所。
やっぱり、真夜中は人っ子1人いないんだなーと思いながら歩いていると、女物を思わすような派手な着物を身に着けている男の人が、キセルを咥えながら壁に背を預け立っていた。
ちらりとその人を見ると、左目に包帯を巻いており、不気味な薄笑いをしていた。
なんだろ、この人……
私はその人の前を通り過ぎようと歩みを速める。
「おい」
すると突然声をかけられた。
「ひゃい!?」
私は驚いて、思わず変な声で返事をしてしまった。
声をかけてきたその人の方へ顔を向けると、クックック、と声に出して笑っている。
なんだよーなんか恥ずかしいんですけど。それにしても、この人、なんか怪しい雰囲気がする。
「今夜は月がきれぇだなぁ」
と思ったら、私が思っていたのと同じ夜空への感想を述べる。
見た目で怪しいなんて思っちゃったけど、景色への感想が口から出てくるなんて、けっこう、良い人?
「あぁ、ぶっ壊してぇ、何もかも」
前言撤回。喋ってないけど、前言撤回。
何もかもぶっ壊したいとか何この人怖い。
というか、そもそもこんな時間にこんな所にいる時点で怪しい人確定なんだわ。
……あ、そしたら私も怪しい人ってことになっちゃうじゃん。
やっぱ今の無し。
ていうかそもそも、なんで私は呼び止められたの?
月のきれいさを伝えるため?
そんなの見ればわかるんですけど。
「そのナリ、真選組かぁ」
「そう、ですけど?」
男は私に上から下まで舐め回すような視線を向けて言う。
「幕府の犬……敵にもならねぇ」
「はい?」
何がおかしいのかその人はまた笑うと、突然私に刃を向けていた。
!?
私は素早く腰にある木刀を握った。いつもは隊服の時は真剣だが、この木刀は護身用に持ち出してきたもの。
木刀でもいいから、持ってきてよかった。
しかしそんな私の気持ちとは裏腹に、木刀に手をかけた私の手首を素早くこの男に捕まれる。
「そんなもんで、俺に対抗するつもりか?」
「くっ」
強く捕まれた手首が痛く、思わず声が出る。
刀を向けて私の手首を掴んでいたと思ったら、いつの間にか体制が変わり、私は壁に押し付けられている形になっていた。
「私を真選組と知っての行いですか、こんな深夜に、不信人物以外の何者でもありませんよあなた」
私は悪魔でも冷静に口を開く。
だが、頭の中はパニック状態。
この人、怪しいなんてものじゃない。
ヤバい。
「さっきも言ったが、真選組なんぞ敵にもならねぇ。それに、夜はこれからだ」
ダメだ、会話にならない。
次の瞬間、この男の顔が接近してきたかと思うと、私の唇に何かが覆いかぶさってきた。
この男の唇だ。
「……っ」
私は唇を奪われていた。
両手首を壁に押し付けられたまま、口づけは続く。
舌を入れられて、私の口の中はかき混ぜられる。
なんともいえない感覚に思わず目を瞑る。
いつまで続くんだろう。
段々と力が抜けて、ズズズと背中と壁の音を立てて徐々に下がっていく私の体。
やっと男は唇を離してくれた。
そこで私は声にならぬ声を発する。
「何を……っ」
「そんな火照った体と濡れた髪して、誘ってんのかぁ?」
わずかだがまだ私の体は温かかった。湯冷めするとか考えずに外に出てきたからな。こんなことなら、黙って屯所内で夜風に当たってるだけにしとけばよかった。
私の息がなんだか荒い。
男の言動も瞳も笑い声も、すべてが怖い。
いや、怖いとは少し違う。
うまくいい表せれない。
なかなか色っぺぇな、などと笑いながら独り言を呟いている。
着物をそんな風にはだけさせて着ているあなたに色っぽいとか言われても。
胸元が見えそうなその姿に思わず目がいく。誰かこの人に正しい着物の着方を教えてあげてください。
私の思考は一見余裕そうに見えるが、心とは反対に私の目には大粒の涙がたまっていた。
そんな顔での視線を、勘違いしたのか
「なんだ、もっとしてほしいってか」
クククという怪しげな笑い声が耳に響く。
「違っ……はぁっ……」
今の私には言葉をまともに発することすらできないようだ。
男はしゃがみこんだ私を見下すように見てきて、再び私に刀を向けた。
刀が、私の首にふれるかふれないかのところでとまっている。
この距離だと、さっきのように剣を握る手を掴まれることはないかもしれないけど、私にはもう気力がない。
そう思い私は縁側に座り、月を眺めた。今日は綺麗な満月だなぁ。
しかし、黙っていることが苦手な私はその場で足をじたばたと動かし
「やっぱ、座ってるだけじゃつまんないから散歩でもしに行くかっ」
そう独り言を呟き、私は座って1分もしないうちに立ち上がった。
流石にこの格好じゃ外へは出れないから、着替えることにした。
適当に、一番近くにあった隊服を着た。こういう時に下はスカートだな。
そして私は屯所を出る。
本当は、誰かと夜の散歩をしてみたかったな、なんて。
でも起こすのはとても悪いし。それに見回りという名の散歩なら、いろんな人といつもしてるから、まあ、いっか。
屯所から、そう離れてない場所。
やっぱり、真夜中は人っ子1人いないんだなーと思いながら歩いていると、女物を思わすような派手な着物を身に着けている男の人が、キセルを咥えながら壁に背を預け立っていた。
ちらりとその人を見ると、左目に包帯を巻いており、不気味な薄笑いをしていた。
なんだろ、この人……
私はその人の前を通り過ぎようと歩みを速める。
「おい」
すると突然声をかけられた。
「ひゃい!?」
私は驚いて、思わず変な声で返事をしてしまった。
声をかけてきたその人の方へ顔を向けると、クックック、と声に出して笑っている。
なんだよーなんか恥ずかしいんですけど。それにしても、この人、なんか怪しい雰囲気がする。
「今夜は月がきれぇだなぁ」
と思ったら、私が思っていたのと同じ夜空への感想を述べる。
見た目で怪しいなんて思っちゃったけど、景色への感想が口から出てくるなんて、けっこう、良い人?
「あぁ、ぶっ壊してぇ、何もかも」
前言撤回。喋ってないけど、前言撤回。
何もかもぶっ壊したいとか何この人怖い。
というか、そもそもこんな時間にこんな所にいる時点で怪しい人確定なんだわ。
……あ、そしたら私も怪しい人ってことになっちゃうじゃん。
やっぱ今の無し。
ていうかそもそも、なんで私は呼び止められたの?
月のきれいさを伝えるため?
そんなの見ればわかるんですけど。
「そのナリ、真選組かぁ」
「そう、ですけど?」
男は私に上から下まで舐め回すような視線を向けて言う。
「幕府の犬……敵にもならねぇ」
「はい?」
何がおかしいのかその人はまた笑うと、突然私に刃を向けていた。
!?
私は素早く腰にある木刀を握った。いつもは隊服の時は真剣だが、この木刀は護身用に持ち出してきたもの。
木刀でもいいから、持ってきてよかった。
しかしそんな私の気持ちとは裏腹に、木刀に手をかけた私の手首を素早くこの男に捕まれる。
「そんなもんで、俺に対抗するつもりか?」
「くっ」
強く捕まれた手首が痛く、思わず声が出る。
刀を向けて私の手首を掴んでいたと思ったら、いつの間にか体制が変わり、私は壁に押し付けられている形になっていた。
「私を真選組と知っての行いですか、こんな深夜に、不信人物以外の何者でもありませんよあなた」
私は悪魔でも冷静に口を開く。
だが、頭の中はパニック状態。
この人、怪しいなんてものじゃない。
ヤバい。
「さっきも言ったが、真選組なんぞ敵にもならねぇ。それに、夜はこれからだ」
ダメだ、会話にならない。
次の瞬間、この男の顔が接近してきたかと思うと、私の唇に何かが覆いかぶさってきた。
この男の唇だ。
「……っ」
私は唇を奪われていた。
両手首を壁に押し付けられたまま、口づけは続く。
舌を入れられて、私の口の中はかき混ぜられる。
なんともいえない感覚に思わず目を瞑る。
いつまで続くんだろう。
段々と力が抜けて、ズズズと背中と壁の音を立てて徐々に下がっていく私の体。
やっと男は唇を離してくれた。
そこで私は声にならぬ声を発する。
「何を……っ」
「そんな火照った体と濡れた髪して、誘ってんのかぁ?」
わずかだがまだ私の体は温かかった。湯冷めするとか考えずに外に出てきたからな。こんなことなら、黙って屯所内で夜風に当たってるだけにしとけばよかった。
私の息がなんだか荒い。
男の言動も瞳も笑い声も、すべてが怖い。
いや、怖いとは少し違う。
うまくいい表せれない。
なかなか色っぺぇな、などと笑いながら独り言を呟いている。
着物をそんな風にはだけさせて着ているあなたに色っぽいとか言われても。
胸元が見えそうなその姿に思わず目がいく。誰かこの人に正しい着物の着方を教えてあげてください。
私の思考は一見余裕そうに見えるが、心とは反対に私の目には大粒の涙がたまっていた。
そんな顔での視線を、勘違いしたのか
「なんだ、もっとしてほしいってか」
クククという怪しげな笑い声が耳に響く。
「違っ……はぁっ……」
今の私には言葉をまともに発することすらできないようだ。
男はしゃがみこんだ私を見下すように見てきて、再び私に刀を向けた。
刀が、私の首にふれるかふれないかのところでとまっている。
この距離だと、さっきのように剣を握る手を掴まれることはないかもしれないけど、私にはもう気力がない。
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