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全部賭けようか

原作: その他 (原作:あんさんぶるスターズ!) 作者: RAMU
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出会ってしまった


「我輩の店で、ディーラーとして働け、晃牙。」

強い意志の籠った赤い眼で見つめられて、気づいた頃には既に頷いた後だった。

晃牙という名前は、捨てられた時に持たされていた唯一の財産だった。
物心着いた頃には既に両親はおらず、孤児院で15まで過ごした。
しかしその孤児院も経営が上手く立ち行かず、これ以上世話になる訳には行かないと思った俺は、15歳になった誕生日の夜に孤児院を抜け出した。
これで俺は、本当のひとりぼっちになるのだ。
寂しくも辛くもあったが、大切にしてきた『家族』たちが少しでも壊れることなく共に幸せに過ごしてもらうためには、もっと沢山のお金が必要になる。ただでさえ切羽詰まっているというのに、最年長の自分が穀潰しでいることが許せなかった。
どうにかしてお金を稼ぎたかった。
ただ、これまで学校にも行かず生きてきた俺は、多少の読み書きと簡単な計算を孤児院で教わったくらいで、到底真っ当な仕事につけるとは思わない。
できることと言ったらせいぜい肉体労働くらいだ。それでも、働かないという選択肢は無かった。
孤児院を出てから1ヶ月が経つ頃には、腐りきったスラム街を点々としながらなんとか毎日日雇いの仕事で身を立てることができるようになった。スラム街で生きる人達はみな晃牙の生い立ちを聞いて、応援してくれる良い奴らばかりで、また新しい家族が出来たようで嬉しかった。どうやら自分は思っていたより小器用に生きることができるタイプらしい。
だが、これっぽっちの稼ぎでは孤児院に仕送りもできない。焦燥感に駆られながら、どうにか思考を巡らせて稼ぎの方法を考える日々が続いた、とある日のことだ。
いつも通り仕事を終わらせて、寝床へと帰っていると、飲み屋から怒鳴り声が聞こえた。
「お前!!!!ふざけるんじゃねえぞ!!!!!」
「あ〜はいはい、我輩ふざけてはおらぬよ。というか、先にイカサマしたのはお兄さんの方じゃろ?それに、ネタがバレなきゃイカサマにはならない、それがギャンブルってもんじゃろ。」
どうやら賭け事をしてイカサマしたかどうかで揉めているらしい。怒鳴り声を上げた方の男がきっとこっぴどく負かされたのだろう。
この飲み屋は違法な賭場にもなっていて、こういうことは日常茶飯事なのだ。けれど今日はやけに人が多い。気になってひょいと飲み屋を覗き込むと、やたら綺麗な顔をした男と目が合った。血のように赤い瞳でじっと見つめられて、思わず後ずさる。
「おや、随分綺麗な顔をしておるのう、お主?」
先程も耳にした珍妙な言葉遣いで話しかけられた、と気づいた時には、相手は目の前にいて腕を取られていた。
先程の男の怒声が聞こえるが、目の前の相手は全く気にもしていないらしい。
「は…」
「ん?聞こえておるかえ?」
不思議な感覚だった。赤い眼でじっと見つめられていると、頭がくらくらとしてしまう。
「名前は?なんというんじゃ。我輩に教えておくれ。」
「…知らない奴に名前は教えない。」
「おお、それもそうじゃの。すまんかったわい。…我輩は朔間零。よろしく頼むぞい。」
「……大神晃牙。突然なんなんだよ、俺になんか用でもあんのか。」
「実はのう…、我輩、晃牙に一目惚れしちゃった。」
「……は???」
この場にちっとも馴染まない言葉に、首を傾げてしまう。一目惚れ?この男が?俺に?─もしかしたら、とんでもない奴に声をかけられてしまったのかもしれない。
「なあ、晃牙。我輩と賭け事しようぞ。」
「賭け事?」
なるほど、合点がいった。この男の言う一目惚れとは、カモに出来そうな人間を捕まえられたということなのだろう。生憎俺は賭け事をやったことなんて殆どない素人だ。どうやら周りを見る限り、2、3人はこの男に負けた相手がいるようだし、俺に勝ち目なんてないだろう。しかも賭けられるような金品も持っちゃいない。お断りしてしまおうと、口を開こうとしたが、それより先に男が声を上げた。
「あ、なにも難しいゲームをやれと言ってるわけじゃないんじゃ。そうじゃのう…あ!ポーカーとかどうじゃ?晃牙は見たところ賭けるものもあまり持ってなさそうじゃし、我輩が勝ったら晃牙にひとつ言うことを聞いてもらう、晃牙が勝ったら、そうじゃのう……─我輩の今日の勝ち分、全部晃牙にあげる。どうじゃ?やる気になったかえ?」
今日の勝ち分全部。零が指さした先のテーブルの上に積まれた金貨の数に、思わず息を飲む。あれだけの大金があれば、孤児院の経営も建て直せるだろう。寧ろ、建て直すどころか妹や弟たちにももっといい暮らしをさせてやれるかもしれない。幸いポーカーなら何度かやったことがある。けれど、この男はどうやら相当の手練らしい、勝算は限りなく低いだろう。しかし、これほどの大金が手に入るチャンスなんてそうそうない。
「……俺が勝ったら、間違いなくそのテーブルの上の金貨全部俺にくれるんだろうな?」
「当たり前じゃよ。男に二言はないわい。」
「分かった。俺と勝負しようぜ、零。」
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