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ここではないどこかで神をしのぐ謀

原作: その他 (原作:PSYCHO-PASS サイコパス) 作者: 十五穀米
目次

手紙

 いつもと変わらない日常、常守朱はその変わらない一日のスタートラインにたった。
 支度をすませ出勤すると、夜勤明けの面々と入れ替わりをする。
 少し前まで馬車馬の如く働かされていたような倦怠感はあるものの、ここ数日は嘘のように暇を持て余していた。
 なぜ忙しかったのか、忙しすぎて記憶が飛んでいるのかもしれないとそえ思ってしまう。
 何事もなく日勤を終え帰宅すると、一通の手紙がポスト投函されていた。

 あて名は「常守朱様」

 住所の記載はなく配達されたのではなく、直接投函されたのだとわかる。

 差出人は「征陸智巳」となっていた。

「征陸さん? どうして、今頃? 宜野座さんじゃなく、私?」
 生前に書かれたものなのだろうか。
 だとしたら然るべき機関が配達してくれるはずである。

※※※

常守朱様

あの一件から、慌ただしく時間が経ち、今でも時々、鮮明に記憶が蘇ることがあります。
そちらの世界の方々の協力により得た証拠は、こちらの世界では衝撃的すぎる出来事の数々でした。
マスコミ報道に規制が入り、正しく世論に伝えられないもどかしさもありましたが、公判では包み隠さず露見されていき、昨日、縢秀星の判決が出ました。
彼は元の姿に戻りたがっており、それが済むまでの逮捕を拒んでいましたが、刑期を後回しにするよりも先に刑期を全うした方がゆっくり治療に専念できるのではないかと説得し、応じてもらえることになったのも、常守監視官をはじめとする、そちらの方々とのふれあいがあったからだと思います。
罪状は殺人ではなく、違法に別世界に行き、その世界に関わったことへの罪での服役になるため、それほど長くはならないでしょう。
問題は東金朔夜とその中に入ってしまっている縢秀星の父親です。
何年かかるかはわかりませんが、少しでも早く、縢秀星が父親と普通の親子のように暮らしたいといっていた希望を叶えさせるためにも、尽力したいと警察一丸となってあたる所存です。

さて、ひとつあなたに謝らなければならないことがあります。
シビュラシステムが支配する日本に別世界の人が入り込まないようにしてほしい。
またその逆も……あなたが上司にかけあい、認めさせた件ですが、残念なことに実現はできそうにありません。
こうして自分があなたに手紙を直接届けることができてしまったことが、その証明です。
ですが、そちらの世界に介入させない、またそちらの世界のものを持ち出させないよう、強化はする予定です。
それで勘弁してほしいというのはむしが良すぎますが、もし逆の立場になり我々の協力が欲しい時は遠慮なく頼ってください。

ああ、そうだ。
言い忘れていたことがあります。
チェ・グソンや槙島のことですが、彼らはどこかに雲隠れしているようで今はどこで何をしているのか警察では把握していません。
時折、東金美沙子に関する告発が匿名で届くので、彼らなりになにかを探っているのでしょう。
なにがいいたいのかというと、それぞれ元気に、前を向き、信じる道を歩いているということです。

常守朱様、実はあなたのことをわずかですが観察させていただきました。
直接対話をしていないので憶測ですが、おそらく、記憶操作の処置をされたのでしょう。
ご自分の意思であればこの手紙は迷惑でしかないでしょうが、自分の知る常守監視官は自ら記憶を手放すようなことはしない人だと信じています。
この手紙を読み、何かを思い出されましたら、気を付けてください。
もしかしたら、まだ本当の黒幕はそちらの世界に隠れているかもしれません。

草々  征陸智巳

※※※

 朱は読み終えると、頭がすっきりとしたような感覚に満たされていた。
 体の倦怠感、忙しかったという記憶はあるが、どう忙しかったのかが思い出せないでいた。
 記録で確かめようにも、記録そのものには忙しいとは到底思えないような事務処理的なものをしたという記載しかない。

「ありがとう、征陸さん。すっきりしました」
 いつ、どのタイミングで記憶の改ざんがされたのだろうか。
 ざっくりすぎるため、もしかしたら関わった面々が一斉に集められた時にされたのかもしれない。
 人によってかかりやすい人、かかり難い人、かからない人、そして何かの拍子に思い出してしまう人がいると、以前、征陸が言っていたことを思い出す。
 別世界の人たちは記憶を持ったまま、今も生きていることが手紙から読み取れる。
 この世界の、自分たちだけが……
 では、狡噛さんはどうなのだろうか。
 彼だけ記憶を残すとは考えにくい。
 だけど、もし意図的に狡噛さんのだけ記憶を消さずにいたとしたら?
 重要な情報を持ち出した容疑とでもして最優先で負わせるかもしれない。
 負わせて射殺……朱以外に捜査権を渡せば、疑うことなく執行するだろう。

「宜野座さん……」
 朱はすぐ宜野座に連絡を入れた。
 あの時、狡噛を逃がしたあの日、宜野座はまた会う気がすると言っていた。
 誰の記憶がどれだけ朱に近い状態で保てているか、定かではないが、宜野座ならと賭けにでた。
「どうした、常守」
「変なことを聞くけど」
「なんだ? もしかして」

「パラレルワールドって……」

 とふたりの声が重なる。

「宜野座さんも?」
「やはり、常守もか……」
「宜野座さんはいつから?」
「いつだったかな。だけど、なんだか誰かに見られているような気になってな。例えば、征陸とかな」
 朱を見ていたのなら、近くにいたはずである。
 彼らのためにつくったホロは回収しただろうか。
 あれを持ち帰られていたら、この世界では好きなように姿をホロでごまかせる。
「宜野座さん、みんなを集めて。私もそっちに戻ります。まだ終わっていない」

 朱は力強く、一歩を踏み出した。
 自身が信じる正義のために……

完結
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