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ここではないどこかで神をしのぐ謀

原作: その他 (原作:PSYCHO-PASS サイコパス) 作者: 十五穀米
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あるべき姿へ

「そういう見方もあるのね。でも、誰が別世界の人かなんて、見分けられるもの?」
 すると三人が揃って目を泳がせた。
「なに、そう自分で背負い込むことはない」と征陸。
「俺はそれを専門にしている刑事だからな。あっちの世界で飛ぼうとするやつら全員を取り締まればいいだけの話さ」
「……それもそうですね。征陸さん、期待しています!」
「ああ、そうしていてくれ」
 和やかな笑いが広がった。

※※※

 それぞれがあるべき場所に戻るための準備が整いつつある中、早くにその準備が整ったのは、狡噛の逃亡手助けだった。
 手助けとなるが、禾生局長黙認のため、思いのほか早く準備が整たったのだった。

「悪かったな、常守」
「いいえ。むしろ、こういう機会ができてよかったと思います。今度はちゃんと顔を見て、お別れができますから」
「……っう」
「狡噛さんは勝手すぎます。置手紙なんて一方的じゃないですか。私ってそんなに信用できない上司、仲間でしたか? まあ、あの頃の私じゃまだ頼りなさはあったかもしれませんが」
「いや、そんなことはない。俺に後ろめたさがあったからな。で? ここを出た俺はどうすればいい? 追いかけてくる公安を待ち構えていればいいのか? 仕切り直しなんだろう?」
「バカ言わないでください。狡噛さんだって知っているでしょう? 公安は常に人手不足なんですよ! 海外逃亡しているひとりだけを追いかけているわけにはいきません。でも、目撃情報が入れば向かいます。逃げ切られてしまったと確信が持てるまで、追いかけます。私、諦めが悪いんです。狡噛さんを捕まえて、公正に審議してもらって、そしていつかは……なんて夢を持っていたりして」
「こんな俺を待つことはない。立ち止まらずに前に進め、常守朱」
 言い終わると同時に、小型船に乗り込む。
 その船が領海域に停泊している外国船まで狡噛をつれていくことになっていた。
 日本の領海域を出た以降、彼がどう行動しようが彼の自由であることは伝えてある。
 船に乗って、消えてしまった場所まで戻るのか、途中で降りて別の場所に行くのか。
 朱は肉眼で見えなくなるまで船を見送り、振り返る。
 ずっと物陰からの視線は感じていたし、朱が感じていたのだから狡噛も知っていただろう。
「宜野座さん……」
「行ってしまったな」
「ええ……というか、どうやって? 見送りたいなら一緒に来れば……」
「霜月が同行してくれた。おまえがちゃんと狡噛を送り出すのか、確認する義務があるとか言ってたな。おまえのことが心配だったんだろうが、素直じゃないな。霜月らしいが」
「それを言うなら、宜野座さんもですよ」
「そうだな。いい歳してなにやってんだか。だが、近いうち、また狡噛と会うような気がしている。感情に浸るのがバカバカしくてな」

 これ以降、狡噛がどうしたのかはわからない。

 狡噛を見送ってから約七日後、征陸が刑事を連れ戻ってくる。
 東金朔夜を連行、そして縢秀星を保護して戻るには、ひとりでは難儀であると結論を出したからだ。
 ただ刑事が増えると槙島たちが動き難くなる。
 予め戻る日時を決め、その直前に戻るという作戦をたてた。
 チェ・グソンと槙島、そして彼らの住む世界の狡噛との別れは思っていた以上にあっさりしたものだった。
 ちょっと一旦家に戻るわ……くらいの軽い感じでの別れに拍子抜けしていたところに、征陸が同僚を連れて戻る。
「もう、嬢ちゃんとは言えないな。すっかり世話になった、常守監視官。こちらにある証拠の数々も持たせてもらえるとは、ありがたい」
「私たちの世界では、この一連のことはなかったこと、パラレルワールドの存在もなかったこととして処理しますので、パラレルワールドがあるかもしれないと匂わせるものがあるのは、むしろ邪魔なだけですから」
「だけど、上を納得させるのは大変だっただろうに」
 どこの世界も刑事はつらい仕事だな……と労いあう。
 それでもこの仕事にやりがいを感じ、別の世界で生きていたとしても、これに近い仕事をしていると思うと、朱は思った。
 東金朔夜は連行されることを拒み続け、暴れる彼は拘束された状態で強制的に連れられていった。
 縢秀星が父親の人格を出せば、もう少しスマートな帰還になっただろう。
 それをしなかったのは、息子として、父親が連行されていく姿は見たくないだろうし、また保護という名の連行をされていく息子の姿を見せたくなかったからかもしれない。
「縢くん、元気でね」
「……ん、そっちも」
「縢くん、お別れさせてくれてありがとう」
 それに対し、縢秀星は無言で笑った。
 朱と同じとまではいかなくても、いなくなった時より若いが、同一であって別人であるとわかっていても、こうして別れを言えたことで今までのモヤッとした気持ちに踏ん切りをつけられた者も少なくないだろう。
「常守監視官、例の、映画館にあった入り口な、あれは閉じておいた。俺の知る限り、ここに入り口は残っていない。俺がこの入り口を使えば消えて閉じられる。達者でな。あんたの正義を貫け」
 征陸はその言葉を残し、縢秀星を連れ時空の歪みの中に消えていった。
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