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ここではないどこかで神をしのぐ謀

原作: その他 (原作:PSYCHO-PASS サイコパス) 作者: 十五穀米
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真実

「シビュラシステム」
 朱がそう呟くと、閉じられていた扉が開く。
 中に入ると異様な光景が広がっていた。
 朱は無数の脳だけが置かれている入り口に立ち、もう一度「シビュラシステム」と口にした。
「常守朱、どうしました?」
 どこからともなく声が響く。
「シビュラシステム、あなたたちに聞きたいことがある。答えなさい」
「……答えられることなら」
「東金美沙子、彼女はどうしているの?」
「それに関しては回答できません」
「そう、じゃあ、別の質問をするわ。あなたたちはパラレルワールドの存在を知っていたのよね? なぜ関わろうとしているの?」
「質問の意味がよくわかりません」
「ごまかさないで! あなたたちのシステムのモデル、大本は別世界にあったものなんでしょう?」
「それに関しても答えられません。ですが、仮に別世界にあったシステムであったとしても、進化をしつづけ今の形になるようにしたのは、我々の世界の者たちの努力の結果です」
「もうひとつ」
「なんでしょう」
「縢くんを殺したのは、彼のクローンを欲しがっていた人がいたから?」
「また、意味不明な質問ですね。縢執行官の件に関しては効率性などを考慮した結果の判断です。仮に彼のクローンを欲している人がいるのだとしたら、それはたまたまの偶然の一致です」
「それはおかしいわね。クローンを造るには、元となる肉体の一部、もしくは細胞が必要らしいわ」
「死体の処理は人道的に対応しました。ただ、公には逃亡中でいてもらわなくてはなりません。しかし、いつまでも逃亡中のままにしておくのも、彼の親族などの心理状態を考えると好ましくない状態になるかもしれないと危惧し、体の一部の保管はしてありました。クローンほど精巧でなくてもよく、なにか彼であるという証拠のようなものがあればと考えていた者もいます。途中で頓挫し、答えは出ていません」
「……つまり、死体の一部を保管していたのね」
「どう解釈するかは、あなた次第です」
「狡噛慎也のクローン造りに手を貸したのはなぜ?」
「狡噛慎也は潜在犯であり、逃亡中の人物です。刑事として逃亡犯を追い捕まえるのは職務の一環、目撃情報があれば現地に向かい確認、捜査、追跡等を行うのも当然の行為です。ただ、それを命じただけで他意はありません」
「そう、あなたたちの考えはわかったわ」
「そうですか。それではこちらからもひとつ、常守朱に問います」
「なに?」
「狡噛慎也をこちらに引き渡しなさい」
「なにを言っているの? 彼は別世界の人間よ。帰るべき場所に帰りたがっているの。だから私はそれに協力をするわ」
「それはわかっています。その狡噛慎也ではありません」
「その狡噛慎也もいた場所に戻すのが、筋と言うものよ。彼は突然、別の世界に飛ばされてしまった。その世界からこっちに戻り、たまたま協力をしてもらっているだけ。鬼ごっこだって、追いかける鬼は逃げる時間を与える。だから、仕切り直すには、彼に逃げる時間を与えるのは平等なことよ」
「逃げる時間を与え、それで捕まえることができると?」
「捜査範囲を広げられるほどの人員をくれるというのなら、この世界の果てまで狡噛慎也を追いかけているわ」
「……わかりました。善処しましよう」

※※※

 地下から地上に戻った朱は、その足で局長室へと向かう。

「わざわざ、こちらまで来て、なんの用かね、常守監視官」
「局長、地下での話を聞いていたわね」
「……おおむねは。それで?」
 禾生局長はさほど興味はないという態度でいる。
 感情があまり表に出ないタイプのようで、なにを考えているかわからないが、地下で朱が話したこと知っている、またシビュラの回答からも、騒ぎにしたくはないというのはわかる。
 シビュラにしてみれば、たかが元執行官ひとり……程度のはずである。
 代わりはいる、狡噛に固執する理由はない。
「了承してほしいことがあります。交換条件と思ってくれていいわ」
「……交換条件とは、穏やかではないね。なにと交換を考えている?」
「今回の件はすべてなかったこととして処理をしてほしい。それはあなたたちにとっても、この世界にとってももっともよい完結方法だと思う。別世界の存在、別世界の住人が行き来してこちらの世界にいる。それを知っているのは唐之杜分析官と一係だけのはずです。なかったことで処理をすることに問題はないでしょう?」
「それで?」
「なかったことにするのだから、こちらにいる別世界の人たちを無事に帰らせられるよう配慮をしてほしい。つまり、保護をしているということにしてほしいの。私を拉致したとされる東金朔夜も同じく。彼はこちらの世界の朔夜のクローン、もしかしたら以前の朔夜のデータから復元した存在かもしれないけれど、彼の中には別の人格も存在していて、それは別世界の人間です。こちらの世界で東金朔夜が生きていくことはできません。処理された存在なのだから。それと、この世界にいる別世界の人を連れ帰ったあと、この世界に入ることができないよう対処してほしい。これは彼らの願いです。すべてを言わなくてもわかっていることと思って話しているけど、別世界の人間を入れ替えるなんて、してはいけないことよ。突然、知らない世界に送り込まれる恐怖と心細さ、それを与えていいはずがないし、知っていて見過ごすのも罪」
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