ネット喫茶.com

オリジナル小説や二次創作、エッセイ等、自由に投稿できるサイトです。

メニュー

ここではないどこかで神をしのぐ謀

原作: その他 (原作:PSYCHO-PASS サイコパス) 作者: 十五穀米
目次

迫る影

「どうだった?」
 一係に戻ると、待っていたのは六合塚だけだった。
 彼女が声をかけてくれたことで、わずかだが気持ちが浮上する。
「狡噛の件はとくに。引き続き、常守先輩の捜査を……と」
「そう。ではまだバレではいないのね」
「たぶん」
「美佳ちゃん……ちょっと、あなたの耳に入れておきたいことがあるんだけど」
「はい。改まって、なんでしょう?」
「縢くん……秀ちゃんを見なかった?」
「いえ。いないんですか?」
「いるわ。だけど、姿が見えなかった時間帯があったらしいの。監視していた人がいうには、わずかな時間で、直接聞いたら、ひとりかくれんぼをしていたのだと言ったらしいのだけど、あの部屋、隠れる場所、あったかしらと思って」
「子供の言うことですから。全部を鵜呑みにはしませんが、子供が隠れそうな場所くらいはあるのでは? もしくは、監視者の探し方が下手なのよ。六合塚さんは、なにを疑っているんですか?」
「ことの発端は、縢くんが出現したこと。だけどもうひとつ、彼がいると人が消える。または増える。偶然だと思いますか?」
「仮に、縢が何かできるとして、できるのなら戻ることもできるんじゃないですか?」
「できるのに、できない演技を続けているのだとしたら?」
「なんのために?」
「……そう、私もそこで行き止まりになるんです」
 六合塚が、やはり自分の思い過ごしかもしれないと気持ちを切り替えようと首を横に振る。
 すると、いつのまに須郷のホロを装っていた狡噛が立っていた。
「その話、もっと聞かせてくれないか?」
「狡噛?」
「縢秀星がいると人が増えたり消えたりする。それは本当か?」
「……はっきりと断言はできない。証拠がない。私の家屋の中だけだから。だけど、彼を中心に人が集まったり消えたりしていると思わない?」
「……部屋から消えたっていうのも、あの狡噛を説得している場にいたと? でなければ、監視官に縢をみたか、とは聞かない」
「……え? そういう意味だったの?」と美佳は今になって六合塚の真意に気づく。
「俺が知る限り、あの場に縢はいなかったが、いろいろ細工をすればあの場にいることはできる。原理は同じだが、それをするメリットよりデメリツトが多いから、誰もやろうとは思わない。別の世界に行くことができるのなら、一瞬にして別の場所に行くことも理論上は可能なんだ。時空をねじ曲げるってところは同じだからな。ただ、一瞬にして戻るには、戻りたい場所に目印が必要になる。縢にとって手がかりってなんだ?」
「そういう理論なら、うってつけがいるじゃない。東金朔夜。縢は彼を父親だと言った。父親のところに行きたいと思えばいいんじゃない?」
「東金朔夜か。なぜ彼は姿を変えることができる? 本当に縢の父親でもあるのか? 問題は山積みだ」
「ええ、本当に」
「だが、その話をチェ・グソンにしたら、何か別のものが出てきそうだ」

 一筋の光が見え始めつつある。
 なにかがおかしい……残った面々がそう感じ始めた頃、朱たちは……

※※※

 チェ・グソンの話を聞いていた征陸は、
「俺が縢の方を調べる。嬢ちゃんと執行官は外を出歩かないように、ああ、それはあっちのコウも同じだ。あんた、かつては猟犬と呼ばれていたようだが、今は狂犬、または闘犬の類だ、そんなオーラだして街を闊歩してみろ。即、職質かけられて任意同行だ。目立つなっていったところで無理だろうからな」
「それでは私は、槙島さんから話を聞いておきましょう。私に黙っていることがありますよね?」
「……鋭いね、キミは」
「ただの情報程度で、私に前のりさせようなんて考えないでしょう。わかっているなら、狡噛さんを飛ばさないよう対処できたはずです。あなたにとっても、件の黒幕がたてた計画は便乗する価値があった。ですよね?」
「……まったく、キミに隠し事はできそうにない。疑問を抱きながらも従ったのはなぜだい?」
「あなたのすることですから、何か意味があると思いましてね。あなたは私を飽きさせない。私もきな臭さを感じながら乗っかったんですよ」
 クッ……とふたりは声を重ねて笑った。

 征陸が縢を調べるために外にでると、槙島は隠していたことを暴露しはじめる。
 その話を征陸は繋がっている携帯式の電話で聞いていた。

「僕が掴んでいた本当の情報は、東金財団がクローンを成功させているらしいということだった。それも人間。ただ、いくら調べても人は増えていない。ということは役所に届けを出していないということだ。となれば、出産ではなく生産なのだと思った。そうなると、赤子からではなく、ある程度年齢を設定して生産ができるほどにまで発展させているのだろうと。そう考えると、人が増えているのに統計的には増えていないことへの説明がつく。ある程度の年齢で生産をすれば、ある程度の知能も備わっていることになる。ならば作り出されてすぐ外にでも出られだろう。自分たちにとって都合のいい彼らを別世界に送り、そして消す。入れ替わりだ。そんな時に、狡噛……猟犬と言われていた狡噛慎哉のクローン化の情報を得た。ああ、知らないことにしていたのは、美沙子が本当にそれをしようとしているのか、彼女の口から聞き出す必要があった」
「もしかして、美沙子に捕まるのも作戦でしたか?」
「あれは想定外だったよ。同志を脅かすことはしないでくれと頼んだら、許可するまでビルから出て行くこと、近寄らないことを条件にだされてね。もぬけのからだったら、まじめに約束を守り続けているということだね」
「そうなりますね。それで?」
「ああ、美沙子は自ら白状したよ。それは狡噛も聞いただろう?」
「……ああ」
「だけどね。入れ替えるにしてもその世界に協力者がいないことにはできないことでね。入れ替えたい相手を捜すのは困難だからね。そういうことに長けている組織の誰かが協力者なんだろうね。ああ、それは何となく宛があるように思えたんだけどな。そうだよね、常守監視官」
「……はい。ただ、あまりにも上なので、安易に口にはできません」
「別にいいよ。そっちの世界のことは、その世界に住む人がどうにかしないといけないことだからね。そうすることで、今後の抑止力にもなる。がんばって」
「……はい」
目次

※会員登録するとコメントが書き込める様になります。