ネット喫茶.com

オリジナル小説や二次創作、エッセイ等、自由に投稿できるサイトです。

メニュー

ここではないどこかで神をしのぐ謀

原作: その他 (原作:PSYCHO-PASS サイコパス) 作者: 十五穀米
目次

穴 その二

「失念していたわ。映画館はほぼ年中無休よね。騒ぎを大きくしたくないし。征陸さんだけでも入れるように……そうね、ここは親子で映画鑑賞するふりをして入りましょう。ちょうどいい時間帯の映画が……」
「あります。しかも子供向けです」
「そのチケットを親子で購入して」
 朱に言われた須郷は言われた通りにチケットを買ってくる。
 それを征陸に手渡した。
「もし入り口を見つけたら、私たちが入らなくてはならない事態を起こしてください。たとえば、秀ちゃんがいなくなった……とか。私たちはあなたがた親子を警護する立場という設定で動いていますから、駆けつけて中に入ります。秀ちゃんは戻らなくてはならない上映室番号を間違えてしまったということで、丸く収まると思います。まあ、とっさの思いつきなので、上手くいくか、信じてもらえるかはわかりませんが、やってみましょう」
 朱と須郷はふたりを見送り、その間に宜野座と連絡をとりあった。

「そちらはどうですか?」
「今、三階のフロアを終え、二階に移動している。可能性はほぼゼロだな。そっちは?」
「征陸さんが調べに入っています。結果待ちです」
「常守、秀ちゃんはどうしている?」
「征陸さんと一緒に、映画館の中です。作戦に一役かってもらおうと思って」
「征陸ひとりに任せたのか?」
「はい。彼は大丈夫です」
「信じているとか、そういう問題じゃない。秀ちゃんが狙われている可能性だってあるだろう」
「そうだとしても、映画館のように人が集まりやすいところで仕掛けてくるとは思えません。とにかく、さきの予定通り、終わったら車で待機していてください」
 と通話を切ったところで、
「監視官、きてくれ!」
 と、入り口から征陸が呼ぶ。
「どうしました?」
 朱が訪ねると、映画館のスタッフが怪訝そうな顔をする。
「すみません。公安局の者です。監視官の常守です」
「執行官の須郷です」
「こちらの方は公安の方で極秘に警護している者です。映画を見たいと所望されたので」
 と説明。
 公安、極秘、護衛ということばに、スタッフは深く追求してはいけないと一任するのでどうぞと中に入れてくれた。
 ここで理由を訪ねられたら、一緒にいた子供がいなくなったというところだったが、それを言うことなく入れたのは好都合である。
「征陸さん」
「ここだ、大当たりだよ、嬢ちゃん」
 征陸に案内されて入った男性トイレの個室のひとつに妙な霧がかかってような点がある。
「嬢ちゃんたちには点のようなゴミ粒のようなものに見えていると思うが、俺やコウには鍵穴に見える。ここが入り口、帰る入り口にもなる」
「では……」
「ああ、俺たちのほかにもこっちの世界に入り込んでいる者がいる。たぶん、そいつが秀ちゃんを連れてきた張本人だ」
「別世界の人を見分けることってできるんですか?」
「まあ、勘くらいな程度だが。同じにおいの奴はわかるとかいうだろう。うまく紛れているつもりでも、同じ世界の者がみればぎこちなさ、不自然さがある。だがな、この世界の人口はどれくらいだ? 全員を見定めるっていうのは無理な話だ。偶然すれ違うくらいの奇跡でもないかぎり難しいな。まあ、こっちは秀ちゃんを保護している。あつらから接触してくる可能性はゼロじゃない」
「現状維持、は危険だと思いますか?」
「どうだろうな。情報が少なすぎる。いったん、コウたちと合流しよう。ここが入り口だってわかればいい。こっちの世界の人には見えないものだ。いますぐどうこうってこともないだろう」
「わかりました。ではいったん戻りましょう」
 朱は須郷に秀ちゃんの護衛を任せ、先に征陸と外に出ているように指示をだした。
 ことの顛末、そして箝口令、もしなにか営業に支障がでてしまったら公安局刑事課一係の常守まで連絡をしてほしいと、丁寧な謝罪をして立ち去ろうとした。
 だが、すんなり立ち去ることができなくなってしまう。
 対応した映画館スタッフの想定外の行動によって。
 その異変に気づいた須郷が、秀ちゃんを征陸に託し、朱へと駆け寄る。
「監視官!」
 手にはドミネーターが握られていた。
「監視官、伏せてください!」
 標準を合わせる。
 だが、
「撃ってはダメよ!」
 朱が射程中に入り、体を張って立ちふさがった。
「ダメよ須郷さん。あれは、この世界の人じゃない。私たちには裁けないわ」
「……?」
「ドミネーターは誰だと言っている?」
「東金朔夜、犯罪計数……な、700? な、なんだ、この数値は!」
「はやり。でも、この世界の東金朔夜はもういない。ここでこの東金朔夜を裁いてしまっては、ほかの世界に介入することになる。それはしてはいけない」
「しかし」
「大丈夫。私なら大丈夫だから。須郷さんは当初の予定通り、車に戻って、そして霜月監視官に連絡。迎えにくるように頼んで。それと、唐之杜さんに」
 それだけを言うと、映画館スタッフのひとりは強引に朱を連れ去っていく。
 人ひとりが連れ去られていくというのに、その場にいた人たちは他人事。
 それよりも、まったく眼中にないという態度だった。
「なにがどうなっているんだ……」
 須郷は悔しそうに拳を握りしめる。
 それから呼吸を整え、征陸のところへと戻った。
「いいのかい、嬢ちゃんの方は」
「指示をもらいました。車に戻りましょう」
「しかし」
「助けたい思いは自分も同じです。ですが、あの東金朔夜は……」
「東金……朔夜、だと? あの男が東金朔夜だというのか!」
「あ、ああ」
「こりゃ驚いた。そして、なんてこった。コウと合流だ」
「あなたは何か知っているんですか?」
「ああ、知っている。だが、情報交換はコウ同席の場でだ。あいつもなにか隠しもっている情報があるらしい。洗いざらい話してもらうぞ」
目次

※会員登録するとコメントが書き込める様になります。