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三途の川を渡る電車

ジャンル: その他 作者: そばかす
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第12話

 目の上下に黒い化粧、唇は血のように真っ赤。あげくに十字架、薔薇、髑髏をモチーフにしたアクセサリーや洋服のワンポイント。靴も底が高い。そのまるで悪魔かなにかのような格好をした少女は――
 にっこりと
 綺麗な笑顔を浮かべた。
「うち、クロスっていうんや。本名は忘れてもーたんやけど。シンヤといっしょにそう名づけた。ほら、この胸元の十字架。まるでダイヤモンドをたくさん埋め込んだみたいで綺麗やろー? けど、もちろん、うっしっしっ……、ダイヤモンドちゃうで。だってな、本物やったらこんなんめっちゃ高いやん。だからこれは偽物。でもこれを本物やと思って身につける心意気さえあれば、本物よりも、うちは輝けるって思うんや。このカットやデザインがポイントやな。それに化粧や衣装にすごっい合うし」
 どの辺にどういう基準のコーディネートの法則があるのかぼくには理解できなかった。たぶん唖然とした様子の他の三人にも」

「ほな、あらためましてー、うち、クロスいいますー」
 最初の遭遇時こそ、あの〝黒い怪物〟と関連したなにかなのかとギャングもピュアもストリートも警戒していたらしいが、すぐに打ち解けた。
「あたしは、ピュアっていいます」
「ピュア!」
 クロスは目を輝かせた。
「いいねいいね! 純真無垢っぽいあんさんにぴったりやん!」
「えへへ、ありがと」
 年の近い少女たちはあっという間に仲良くなった。考えてみれば、彼女はずっと男三人――いかつい男と老人と嫌いな男に囲まれていたんだ。急速な接近は当然といえば当然だった。
「おれはギャング」
 浅黒いハーフの男は一歩前に出てそう名乗った。
「おお! ギャングスターのギャングやな! たしかに強そうやし、ぴったりやん! クールやでえ!」
 クールと呼ばれたことがよほど嬉しかったらしく、ギャングはめずらしく目尻に深い皺を寄せた。
「わしはストリートじゃ」
「おお! こっちはストリートミュージシャンかい!」
「なんでや」
 驚いたことに、意外とノリがよかったらしい老人が突っ込みを入れた。
 驚いたことに、ぼくにはまったく仲良くなれそうになかった三人と、あっという間に心理的距離をゼロにしてしまった。
 このクロスって子、すごいな……。
「で。あんさんは? ……むむ、待って。当てたるさかいな」
「はい」
 ぼくは返事した。
 そんなぼくの丁寧な返事を聞いて、一瞬だけクロスはきょとんとした。すぐに戻ったけど。
 ぼく、変なこといったかなあ? きちんと「はい」と返事するように家で毎日いわれているからそうしただけなのに。
「…………うーむ、ごめん。なんか浮かばんかった。面白いやつ」
「面白いのを考えてたのかよ」
 男みたいな口調で、ピュアが突っ込みを入れた。女子高生なのに意外と男っぽい口調が馴染んでいた。おそらく日常的に友達にはそういう言葉づかいなのだろう。
「まあ、名前聞かせて。ごめんなー、みんなをどっと笑わせるようなことをいおうと思ったんやけど……」
「いや。いいよ、べつに」
「おお! 心の広いお方や……あっ!」
「なによ? なにか閃いたの?」
 ピュアが隣でクロスに聞く。
「ゴッドってのはどう?」
「ゴッド? 神様ってこと?」
「そうそう。ほら、こちらさん優しそうやし、仏の顔も三度までー的な」
「それじゃあ、ゴッドじゃなくてブッダとかのがいいんじゃない――ヒィーッうけるー!」
 なにがつぼにはまったのか、ピュアは座席に座ると足をばたばたさせて、お腹を押さえ、体を座席に倒した。その目には涙が滲んでいる。度重なる緊張感から解放されたから、その反動かもしれない。
「どや? 当たりか?」
「いや。サンクスです」
「……うん? なんや便利なグッズぎょうさん持ってたり、二十四時間眠らんでも平気やったりするんか?」
「いえ。……あのピュアさんが、名づけて下さって。……その、いつも『ありがとう』ってよくいうから」
「うんうん。感謝するのは大事やでー。お天道様にも感謝。この世界にも感謝やなあ。……まあなかなか沈まんお天道様は正直不気味やがな」
 アハハハとクロスは笑う。
 ふいに、クロスはぼくの耳元に口を近づけて囁いた。
「ごめんな。べつにからかうつもりでいうたんやないんや。ゴッドって。そりゃあ笑えるようにするつもりやったけど」
「いいよ。べつに。……みんながそれで笑えるなら。ぼくはべつに……」
 クロスが、一瞬、ほんの一瞬、真顔になった。
「そうかー……」
 近づいたはずの距離が一気に離れ、クロスはピュアのわき腹をくすぐりに行った。
 ……あれ? またぼくはなにか間違えたことをいったのだろうか? とてもいいことをいったつもりなのに。どうして、ぼくは誰にも好かれないんだろう? どうして、誰にも愛されないんだろう? こんなにも、我慢して、努力しているのに…………。
「さっきいうたシンヤいうんわな、うちが最初に出会った男の子や。まだ小学生やけど、チョー生意気なうるさいガキやけど、勘弁したってなー」
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