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山姥切国広極めたらもう一人増えました

原作: その他 (原作:刀剣乱舞) 作者: レジス
目次

笑って


あの後、本丸からは数振りの刀剣だけが保護された。
彼等は骨喰藤四郎と一緒に後日どうするか決めるのだと聞かされた。
私たちは意識の無い長義を連れて政府の特殊病棟に来ている。
長義にかけられた術はあの後すぐやってきた暁さんによって解呪されたが依然として長義の意識が戻る様子が無い。
「長義……」
「国姫、あまり考えすぎるな」
「うん」
ベッドわきの椅子に座った私に山姥切が言う。
彼は長義がここに運び込まれてから今までずっと私が長義のそばを離れないのを見ていた。
「国姫、俺は主の所に行ってくるが……」
「大丈夫、長義のそばにいるよ」
「わかった。無理はするなよ」
「うん」
そう言って山姥切は病室を出て行く。
私はピクリとも動かない長義の手を握る。
手はあったかくて、その体温は長義が折れていないことを私に教えてくれた。
また何もできなかった。
山姥切長義を救うこともできず、長義を助けることもできない。
山姥切国広の魂も失った私は一体なんのためにここにいるのだろう。
わからなくて泣きそうになる。
とにかく祈ろうとその手を握ったまま長義が目を覚ますようにと祈った。
するとなぜか手を引かれるような感覚があり段々と意識が遠くなってきて
抗う事もできず私は意識を手放した。

****

「おい、起きろ!」
叫ばれ体を揺すられる感覚に目を覚ます。
目を開けると私は不思議な場所にいた。
真っ赤な鳥居あり、鏡面かと思うくらい澄んだ水が足首あたりまで満たされた場所だった。
下を見れば山姥切国広ではない私が水面に映っていた。
そこに私は立っていて、眼の前には山姥切国広が立っている。
「山姥切国広……あなたは、私と一緒にいた山姥切?」
私が問いかけると彼は頷いた。
「そうだ。まずはありがとうと言わせてくれ。あんたのおかげで仲間が助けられた」
その言葉に私は首を横に振る。
「私だけの力ではないし、全員というわけにもいかなかった……」
折れてしまった刀剣だってけっこういたのだ。
助けられなかった。
だからお礼をいわれるようなことじゃない。
「いいや、あんたは俺の最大の望みであった長義を救ってくれた。だからありがとうだ」
「救ったって……結局彼は折れてしまったわ」
「それでも、祟り神として折れるよりかは救いだった。祟り神として折れていたら俺と二度と会う事もできなかったからな」
「そっか……そう、なのか……」
山姥切国広がそう言うのなら私は、彼を救う事ができていたのだろう。
そう思うことにした。
「さて、お礼は終わったところで本題だ」
「本題?」
「今ならまだ本霊に頼んであんたを魂の輪廻に戻してやることができる」
「魂の、輪廻?」
「分かりやすく言えば人が死んだらそこに行って転生するんだ」
「そこにいけば私も転生するってことか」
そう言えば山姥切国広は頷いた。
「ただし、今を逃すと俺はもう消えてしまうから本霊に頼むこともできない。こんな事を言うのは酷かもしれないが……長義を救うために国姫として残るか、長義をおいて輪廻に戻るか今選んでくれ」
「そんな……」
私が私として転生するなら長義を見捨てて行くということだ。
それは難しい二択に思える。
輪廻には帰りたいと思うでも長義を見捨てるなんて私にできるわけがない。
私が葛藤していると山姥切国広は微笑む。
「なぁ国姫。あんたは長義の気持ちを受け取る覚悟はあるのか?」
「へ?!なんで今その話を?!」
「大事な事だ。国姫として残るのならあいつの気持ちについて考えてやってほしい」
長義の気持ち……。
確かに長義は返事は聞かないと言ったけど……本当にそれでいいのだろうか。
私は、どうしたいんだろう。
すぐに答えは出せず考え込む。
「それにしてもどこの本歌も俺が好きだよな」
「そうだね」
まさか山姥切国広も長義に告白されていたとはびっくりじじいじゃないけど驚きだ。
「なぁ、長義に抱きしめられた時や手を握られた時嫌だったか?」
「え、嫌じゃ、なかったなぁ……」
「つまりそういうことなんだろう?」
「……考えさせる気無かったでしょ」
そうだ、私は長義のことが嫌いではない。
むしろ助けたいと望むほどには好きだ。
長義の望む答えじゃないだろうけど今はこれで勘弁してほしい。
「私は残るよ。なんだかんだ言ってあそこでの刀剣生活が好きなんだ」
「そうか……じゃあ後は任せたぞ」
そう言って山姥切国広の姿が煙のように掻き消える。
するとその向こう側に倒れている長義の姿が見えた。
「長義!」
バシャリと水を跳ね上げて駆け寄って抱き起こす。
長義はただ眠っているように静かに胸を上下させていた。
「長義、起きて長義!」
「……ん」
強く揺さぶれば瞼を小さく揺らして目を覚ます。
その瞳に私の姿が映る。

そうだ、私今国姫じゃないんだった。

慌てた結果私は長義に目隠しをしていた。
「えっと……君は……」
「は、はいぃ……」
どうしよう、この姿を見られるのが恥ずかしい。
いつも可愛い国姫に戻りたい。
そんな私に長義は言った。
「……国姫、大丈夫だ。どんな姿でも俺が君を見間違えることはないよ」
そう言われて私はゆっくりと手を退かす。
長義の綺麗な瞳が私をじっくりと見つめてくる。
「なんだ、トマトのように真っ赤だな」
「う、うるさいな!」
恥ずかしさのあまり真っ赤になった顔を見て笑われた。

ぐらりと視界が歪んだ。

「これ、は?!」
「大丈夫だ。目覚めるということなんだろう」
驚いている私とは違い長義は冷静に言った。
「目覚める?長義も目、覚ます?」
「あぁ、大丈夫だ」
視界が段々と狭まってくるけれど、私は長義の言葉を信じて意識を手放す。

****

目を覚ますと目の前にイケメンがいました。
何を言っているかわからないと思うが私も何を言っているのかわからない。
意識を失う直前私は長義の手を握っていたはずだ。
なのになぜか今、同じベッドに入り眠っていた。
一体誰の仕業だ。
フンスと怒りながら静かにベッドから抜け出そうとすると中から手が伸びてきて引き戻されてしまう。
「ちょ、長義?」
どうやら私が気が付かなかっただけで起きていたらしい。
長義は私を抱きしめながら微かに肩を震わせて笑っている。
「笑うか抱きしめるかどっちかにしてよ!」
「いや、ごめん……なんか面白くて」
まぁ告白もされているし百歩譲ってベッドに引きずり込んだことは許そう。
「だが笑うことは許さん」
「ええー」
でも、長義が笑っていることに少し安堵した私がいる。
起きている。
起きてしゃべっている。それが嬉しい。
「……心配、したんだからね」
そう言えば申し訳なさそうに私の頭を撫でた。
「ごめん……あと、おはよう」
「許した……おはよう、長義」
そう言ってお互いに笑みをうかべる。


この現場を山姥切と主に目撃されるまであと数分……


~END~
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