13話
「お、君がもしやトシが話していた花子ちゃんかい!?」
「いえ、人違いだと思います。」
たまの休日に買い物でもと出てきたのが間違いだったのだろうか。
見ず知らずの人間に声を掛けられた上に別人と間違えられるだなんてここのところ本当にツイていない。「あれェ!?おっかしいなトシが言ってた特徴によーく似てるんだけどなァ」と頭を抱える目の前の人は、否定してもなお、こちらが「花子」だと信じて疑わないらしい。
正直あまりかかわりを持ちたくない人種だと思った。
それは別に男の人の容姿だとか、そういうのではなくて。
すす、と男の人にバレないように目線を上にズラすと間違いなくそこにある「それ」に思わずため息を吐きたくなるくらいに自分の周りのキャラの濃さに胃もたれしそうになった。何故この人が頭に木の枝をつけているのか、それも包帯で丁寧に取れないようにしてまで…とか。その包帯に「L・O・V・E♡お妙」と書いてあるのは彼女さんか、はたまた奥さんへの愛情表現なのだろうか、とか、色々気になる点はあるけれど、そんなことどうでもいいくらいに、一刻も早くこの人の興味が自分から逸れてくれることを切に願っていた。
「ほんっとうに、花子ちゃんじゃない?」
「はい、花子じゃありません。」
余程その花子さんという人に似てるのだろうかと考え始めた時。
ふ、っと最近よく来る土方の事を思い出した。そう言えば、彼は自分のことをそうやって呼んでいた気がした。神楽さんと出会ってから色々なあだ名がつき始めたから適当に「ハイハイ」と流していたから誰がこう呼んでいたというのがあまり気にも留めていなかったけれど。そう言えばあの人の名前も何かそんな感じだった気がする。ということはこれってわたし?イヤイヤイヤ。とにもかくにもこの人には関わらない方がいい気がする。本能的にそう感じた、と自分を無理やり納得させ、行こうとしていた道は男性がいて通れない為引き返そうと振り向いた先に居た茶髪の人がにやりと笑ったのを見て、やっぱり出掛けるべきじゃなかったと後悔した。
「なーんだ!やっぱり花子ちゃんか、言ってくれればよかったのにぃ~。いじわるぅ~」
くねくねとしながら「勲困っちゃう☆」とウインクするのをただ黙って見つめていると、茶髪さんがそんな男性を無視してこちらを見てまた意地悪そうに笑う。
「何でィ、清楚なフリして今度は近藤さんに寄ってったのかィ?まぁ連中のように顔は良くねぇが金は持ってる。見る目あるねィ」
「ちょっと総悟くーん?それって近藤さんの話?顔は良くないって近藤さんのこと貶した?」
テーブルに手をつき問い詰めてくる勢いの男性を華麗にスルーして「近藤さんそこにある紙取って下せェ」なんてマイペースに言っているところ、慣れているのがわかる。男性というのももう変だろうと、近藤さんと呼ばせてもらうことにして手元にあるメロンソーダを一口飲みこんだ。
「土方さんのお知り合いとは存じませんで、失礼な態度を取ってしまい申し訳ありません」
「ああ、いいんだいいんだ。こっちも悪かったね、急に名前呼ばれたら警戒しちまうのも無理はない。いやむしろあのくらいの警戒心がなきゃ歌舞伎町ではやっていけんなぁ!」
「まぁそうですねィ、あーんな路地裏でこんな顔面ゴリラに話し掛けられたら誰だって恐怖で震えちまいやす。おー怖かったねィ花子。ちびらなかったかいィ?」
「何というか、土方さんの胃痛の理由が物凄くわかりました。ハイ」
初対面の相手に対してもこの遠慮のなさだ、きっと慣れた人間にならもっと言うのだろう。
大体が花子というのも、土方さんが勝手に呼び始めた名前であって本名ではないのだけれどもうそれが浸透してきてしまっている今否定するのも面倒になってきた。
「そう言えば花子ちゃんは苗字はなんて言うんだい?別に知らなくてもいいじゃないかと言われるかもしれないがまぁ、何というか職業柄聞いておきたくてねぇ」
すまない、と言う近藤に、苗字を伝えるくらいなら問題ないだろうとソーダをテーブルに置き土方の手前一応礼儀として改めてご挨拶をと口を開くと、その前に口を開いたのは茶髪、沖田のほうだった。
「近藤さん、コイツの名前は小林でさァ。小林花子。山崎の野郎に調べさせたら隣町のほうにそんな女がいるとかで。このご時世ですからねィ、花子なんてのもそいつくらいでした。何でも家は料理屋を営んでいて、そこの一人娘は家庭にお金を入れるために出稼ぎに出てきてるんだとか。」
「ほぉ!親御さんを助けるために出稼ぎなんて…できた娘だなぁ…俺もそんな娘がほしい」
いえ、それ私じゃありません。
そう否定したいのだが如何せん、目から鼻から顔中の至るところから出るものが出てしまっている近藤に否定する隙すらなく、「困ったことがあったらいつでも来るんだよ」と両手を握られてしまうと、その勢いに負けて「はい」というしかなかった。
思うのはひとつ。
その見ず知らずの山崎という人が、誰かも知らない花子という人を見つけてきたことをひっそりと恨みに思った。
その後、近藤さんから話を聞いてきたらしい土方さんが「花子ォ!お前そんな苦労人だったのか!何で言わねえ!」と肩を掴まれたのは、近藤と沖田と別れた半刻後のことだった。
「いえ、人違いだと思います。」
たまの休日に買い物でもと出てきたのが間違いだったのだろうか。
見ず知らずの人間に声を掛けられた上に別人と間違えられるだなんてここのところ本当にツイていない。「あれェ!?おっかしいなトシが言ってた特徴によーく似てるんだけどなァ」と頭を抱える目の前の人は、否定してもなお、こちらが「花子」だと信じて疑わないらしい。
正直あまりかかわりを持ちたくない人種だと思った。
それは別に男の人の容姿だとか、そういうのではなくて。
すす、と男の人にバレないように目線を上にズラすと間違いなくそこにある「それ」に思わずため息を吐きたくなるくらいに自分の周りのキャラの濃さに胃もたれしそうになった。何故この人が頭に木の枝をつけているのか、それも包帯で丁寧に取れないようにしてまで…とか。その包帯に「L・O・V・E♡お妙」と書いてあるのは彼女さんか、はたまた奥さんへの愛情表現なのだろうか、とか、色々気になる点はあるけれど、そんなことどうでもいいくらいに、一刻も早くこの人の興味が自分から逸れてくれることを切に願っていた。
「ほんっとうに、花子ちゃんじゃない?」
「はい、花子じゃありません。」
余程その花子さんという人に似てるのだろうかと考え始めた時。
ふ、っと最近よく来る土方の事を思い出した。そう言えば、彼は自分のことをそうやって呼んでいた気がした。神楽さんと出会ってから色々なあだ名がつき始めたから適当に「ハイハイ」と流していたから誰がこう呼んでいたというのがあまり気にも留めていなかったけれど。そう言えばあの人の名前も何かそんな感じだった気がする。ということはこれってわたし?イヤイヤイヤ。とにもかくにもこの人には関わらない方がいい気がする。本能的にそう感じた、と自分を無理やり納得させ、行こうとしていた道は男性がいて通れない為引き返そうと振り向いた先に居た茶髪の人がにやりと笑ったのを見て、やっぱり出掛けるべきじゃなかったと後悔した。
「なーんだ!やっぱり花子ちゃんか、言ってくれればよかったのにぃ~。いじわるぅ~」
くねくねとしながら「勲困っちゃう☆」とウインクするのをただ黙って見つめていると、茶髪さんがそんな男性を無視してこちらを見てまた意地悪そうに笑う。
「何でィ、清楚なフリして今度は近藤さんに寄ってったのかィ?まぁ連中のように顔は良くねぇが金は持ってる。見る目あるねィ」
「ちょっと総悟くーん?それって近藤さんの話?顔は良くないって近藤さんのこと貶した?」
テーブルに手をつき問い詰めてくる勢いの男性を華麗にスルーして「近藤さんそこにある紙取って下せェ」なんてマイペースに言っているところ、慣れているのがわかる。男性というのももう変だろうと、近藤さんと呼ばせてもらうことにして手元にあるメロンソーダを一口飲みこんだ。
「土方さんのお知り合いとは存じませんで、失礼な態度を取ってしまい申し訳ありません」
「ああ、いいんだいいんだ。こっちも悪かったね、急に名前呼ばれたら警戒しちまうのも無理はない。いやむしろあのくらいの警戒心がなきゃ歌舞伎町ではやっていけんなぁ!」
「まぁそうですねィ、あーんな路地裏でこんな顔面ゴリラに話し掛けられたら誰だって恐怖で震えちまいやす。おー怖かったねィ花子。ちびらなかったかいィ?」
「何というか、土方さんの胃痛の理由が物凄くわかりました。ハイ」
初対面の相手に対してもこの遠慮のなさだ、きっと慣れた人間にならもっと言うのだろう。
大体が花子というのも、土方さんが勝手に呼び始めた名前であって本名ではないのだけれどもうそれが浸透してきてしまっている今否定するのも面倒になってきた。
「そう言えば花子ちゃんは苗字はなんて言うんだい?別に知らなくてもいいじゃないかと言われるかもしれないがまぁ、何というか職業柄聞いておきたくてねぇ」
すまない、と言う近藤に、苗字を伝えるくらいなら問題ないだろうとソーダをテーブルに置き土方の手前一応礼儀として改めてご挨拶をと口を開くと、その前に口を開いたのは茶髪、沖田のほうだった。
「近藤さん、コイツの名前は小林でさァ。小林花子。山崎の野郎に調べさせたら隣町のほうにそんな女がいるとかで。このご時世ですからねィ、花子なんてのもそいつくらいでした。何でも家は料理屋を営んでいて、そこの一人娘は家庭にお金を入れるために出稼ぎに出てきてるんだとか。」
「ほぉ!親御さんを助けるために出稼ぎなんて…できた娘だなぁ…俺もそんな娘がほしい」
いえ、それ私じゃありません。
そう否定したいのだが如何せん、目から鼻から顔中の至るところから出るものが出てしまっている近藤に否定する隙すらなく、「困ったことがあったらいつでも来るんだよ」と両手を握られてしまうと、その勢いに負けて「はい」というしかなかった。
思うのはひとつ。
その見ず知らずの山崎という人が、誰かも知らない花子という人を見つけてきたことをひっそりと恨みに思った。
その後、近藤さんから話を聞いてきたらしい土方さんが「花子ォ!お前そんな苦労人だったのか!何で言わねえ!」と肩を掴まれたのは、近藤と沖田と別れた半刻後のことだった。
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