10話
「すっかり万事屋さんの名前を忘れていました。そう言えばそういう名前だったかもしれません」
聞いたことある名前だなとは思ったけれど、初めて会った時に自己紹介でそう言っていたかもしれない。
あの時はもう関わることもないだろうと思っていたから聞き流していたけれど。
それを伝えると土方さんは青ざめた顔のまま私の肩を掴んで、震えた声を出した。
「親しいっていうのも事実か?ドラマを一緒に見る仲って聞いたぞ」
「親しくはないかと。ドラマは勝手に押しかけられてあちらが勝手に見ているだけなので一緒には見ていませんね」
「次来たら追い返せよ、それかもう俺に連絡しろ。携帯番号書いておくから、すぐ掛けられるように登録しておけ、いいな」
万事屋さんは確かに変な人ではあるが、危ない人ではないと思うけれど。
私の携帯を手に取り自分の番号を入れているであろう土方さんの緊迫する空気に負けそうになりながら伝えると目をクワッと見開いた土方さんが私の肩を掴んだ。
「悪い人間が僕悪い人ですなんて言う訳ねぇだろうが」
「まあ、確かにそうですね。そんな親切な悪い人はいませんね」
でも実害もないし、一応お客様なわけだから追い返すのも。
いやツケで来るんだった、一瞬忘れかけていたけれどあの人毎回ツケだった。
しかも最近はテレビ見に来ているだけじゃないっけあの人。お客さんじゃないかもしれない。
「あの野郎こんなガキをだまして一体なんのつもりだ…てめぇのとこで無銭で働かせてるガキ同様にこいつを騙そうって魂胆か?いや、でもあのチャイナよりはしっかりしているし」
私の肩を掴んだままブツブツとまた考え始めた土方さんは、意外と情に厚くお母さん気質な性格なこともわかったけれど、もしかしたらこうして他人のことに親身になっているから胃が悪くなるのではないかと心配になった。そこが良さなのかもしれないが、その良さで薬を飲む事態になっているのであれば本末転倒というか。
あまり深く考えない方がいいですよ、と言いたいが今まさに考えさせている要因は私にあるわけで。
「とにかくだ、アイツにだけは関わるなよ。アイツに関わらなければ周りの問題児とも関わらなくなる」
「周りの問題児?神楽さんと新八さんのことですか?」
「遅かったか…他には関わってる人間いないだろうな!?」
「あーえっと…名前忘れましたけど、なんかもう一人いらしたような気がします」
「チャイナとメガネ小僧はそんな害はねぇが、とにかくその訳の分からねぇ奴も関わらねぇ方がいいな。万事屋関係であるならロクな奴じゃねぇ。いやチャイナとメガネとも関わらねぇ方がいい」
「はあ…土方さんは余程万事屋さんがお嫌いなのですね」
「嫌いなんてもんじゃねぇ!俺ァアイツに…」
土方さんが喋るのを止めて、私の後ろを見つめて開いていた瞳孔が更に開いた。
今土方さんはお店の奥にある薬草を煎じるための板の間に横になってもらっているから、私の後ろにはお店が見える。もしかしたらお客さんかもしれないと振り向こうとした私の頭を土方さんが掴んだ。
掴んだというには何というか、バスケットボールを持つようにワシ掴まれた。
「オイオイ、一緒にテレビ見ようと思ってきたら見たくもねぇツラがいるじゃねぇか。何お前、そういう趣味?お前がどこのどいつ気に入ろうがどうでもいいがそいつは離せや」
「テメェ、言った傍から着てんじゃねぇぞ。ガキたぶらかしてんのは何処のどいつだ。コラ。テメェこそそのまま後ろ向いて帰れや。ドラマならテメェの家で見ろや」
「はい?何でお宅に指図されなきゃならないんですかー?というかたぶらかしてんのはお前だろうが。今の自分の態勢客観的に見えてるぅ?お宅それ取り締まる立場の人間なのに何襲おうとしてんの?」
「ばばばばバカ言えてめえ!これは悪い野郎に悪の道に引きずり込まれそうになってる幼気な子供を純粋な道に戻そうとだな!?」
「あーハイハイ、純粋な大人の階段を上りましょうねぇってか?世も末だねこりゃ。まぁ取り合えずその手離してとっとと消えてくんないかな。」
土方さんのほうを強制的に向かされて、土方さんの胸元しか見えないけれど、声だけでもお2人が不機嫌なのがわかる。不機嫌というか、究極に仲が悪いのが察せた。万事屋さんは普段はおちゃらけた口調なのに、今はすごく棘のある声音で喋っているし、土方さんもいつもは冷静であるのに今は声量もいつもの倍はでている。
2人の間に何があったのかは聞かない、それを聞くには私はお2人のことをよく知らなすぎるしきっとお2人も話したくはないと思うから。
けれど一言だけ言いたい。どうしても我慢が出来ない。
震える唇をやっとのこと開けて、目の前にいる土方さんに向けて言った。
「首折れそうなので、放してください」
パッと手を離された直後、開放感と今まで下に向けて押さえつけられていた脱力感から地面にぱたりと倒れた私にお2人がまた言い合いを始めたのをBGMに目をつぶった。
聞いたことある名前だなとは思ったけれど、初めて会った時に自己紹介でそう言っていたかもしれない。
あの時はもう関わることもないだろうと思っていたから聞き流していたけれど。
それを伝えると土方さんは青ざめた顔のまま私の肩を掴んで、震えた声を出した。
「親しいっていうのも事実か?ドラマを一緒に見る仲って聞いたぞ」
「親しくはないかと。ドラマは勝手に押しかけられてあちらが勝手に見ているだけなので一緒には見ていませんね」
「次来たら追い返せよ、それかもう俺に連絡しろ。携帯番号書いておくから、すぐ掛けられるように登録しておけ、いいな」
万事屋さんは確かに変な人ではあるが、危ない人ではないと思うけれど。
私の携帯を手に取り自分の番号を入れているであろう土方さんの緊迫する空気に負けそうになりながら伝えると目をクワッと見開いた土方さんが私の肩を掴んだ。
「悪い人間が僕悪い人ですなんて言う訳ねぇだろうが」
「まあ、確かにそうですね。そんな親切な悪い人はいませんね」
でも実害もないし、一応お客様なわけだから追い返すのも。
いやツケで来るんだった、一瞬忘れかけていたけれどあの人毎回ツケだった。
しかも最近はテレビ見に来ているだけじゃないっけあの人。お客さんじゃないかもしれない。
「あの野郎こんなガキをだまして一体なんのつもりだ…てめぇのとこで無銭で働かせてるガキ同様にこいつを騙そうって魂胆か?いや、でもあのチャイナよりはしっかりしているし」
私の肩を掴んだままブツブツとまた考え始めた土方さんは、意外と情に厚くお母さん気質な性格なこともわかったけれど、もしかしたらこうして他人のことに親身になっているから胃が悪くなるのではないかと心配になった。そこが良さなのかもしれないが、その良さで薬を飲む事態になっているのであれば本末転倒というか。
あまり深く考えない方がいいですよ、と言いたいが今まさに考えさせている要因は私にあるわけで。
「とにかくだ、アイツにだけは関わるなよ。アイツに関わらなければ周りの問題児とも関わらなくなる」
「周りの問題児?神楽さんと新八さんのことですか?」
「遅かったか…他には関わってる人間いないだろうな!?」
「あーえっと…名前忘れましたけど、なんかもう一人いらしたような気がします」
「チャイナとメガネ小僧はそんな害はねぇが、とにかくその訳の分からねぇ奴も関わらねぇ方がいいな。万事屋関係であるならロクな奴じゃねぇ。いやチャイナとメガネとも関わらねぇ方がいい」
「はあ…土方さんは余程万事屋さんがお嫌いなのですね」
「嫌いなんてもんじゃねぇ!俺ァアイツに…」
土方さんが喋るのを止めて、私の後ろを見つめて開いていた瞳孔が更に開いた。
今土方さんはお店の奥にある薬草を煎じるための板の間に横になってもらっているから、私の後ろにはお店が見える。もしかしたらお客さんかもしれないと振り向こうとした私の頭を土方さんが掴んだ。
掴んだというには何というか、バスケットボールを持つようにワシ掴まれた。
「オイオイ、一緒にテレビ見ようと思ってきたら見たくもねぇツラがいるじゃねぇか。何お前、そういう趣味?お前がどこのどいつ気に入ろうがどうでもいいがそいつは離せや」
「テメェ、言った傍から着てんじゃねぇぞ。ガキたぶらかしてんのは何処のどいつだ。コラ。テメェこそそのまま後ろ向いて帰れや。ドラマならテメェの家で見ろや」
「はい?何でお宅に指図されなきゃならないんですかー?というかたぶらかしてんのはお前だろうが。今の自分の態勢客観的に見えてるぅ?お宅それ取り締まる立場の人間なのに何襲おうとしてんの?」
「ばばばばバカ言えてめえ!これは悪い野郎に悪の道に引きずり込まれそうになってる幼気な子供を純粋な道に戻そうとだな!?」
「あーハイハイ、純粋な大人の階段を上りましょうねぇってか?世も末だねこりゃ。まぁ取り合えずその手離してとっとと消えてくんないかな。」
土方さんのほうを強制的に向かされて、土方さんの胸元しか見えないけれど、声だけでもお2人が不機嫌なのがわかる。不機嫌というか、究極に仲が悪いのが察せた。万事屋さんは普段はおちゃらけた口調なのに、今はすごく棘のある声音で喋っているし、土方さんもいつもは冷静であるのに今は声量もいつもの倍はでている。
2人の間に何があったのかは聞かない、それを聞くには私はお2人のことをよく知らなすぎるしきっとお2人も話したくはないと思うから。
けれど一言だけ言いたい。どうしても我慢が出来ない。
震える唇をやっとのこと開けて、目の前にいる土方さんに向けて言った。
「首折れそうなので、放してください」
パッと手を離された直後、開放感と今まで下に向けて押さえつけられていた脱力感から地面にぱたりと倒れた私にお2人がまた言い合いを始めたのをBGMに目をつぶった。
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